⑤-14 暁のしらべ②

 その夜――。


「てぃ、ティトーはお兄様と同じ部屋じゃなくていいの?」

「やだあ~! ぼく、お姉さんと一緒のお部屋がいい~!」


 部屋割りでティトーが一人ワガママを全開にしていた。レオポルトも部屋はティトーと同じだと思っていた半面、隣で男女が同室というのも刺激が強かった様子で悶絶していた。


「そうだな、うん。マリア嬢、すみませんが」

「そのマリア嬢ってやめてくれない。くすぐったいの。マリアでいいわ。私も呼び捨てだし」

「そうか。マリア、ティトーと寝てやって欲しい」

「いいわよ。じゃあ、ティトーお風呂行ってきましょ! もうべたべたなの」


 マリアは長い髪をサイドで結ぶと、べたつきを気にするように髪に触れた。ティトーは嬉しそうにマリアの手を引っ張ると、風呂へ向かった。


「何お前、マリアと同室が良かった?」

「アル、君は元奥さんを侮辱するのか」

「元じゃないから! まだ未婚だから!」

「どうだか。同室だったほうが良かったのは、君の方だろう」


 レオポルトはベッドへ横になりながら、いつの間にかティトー用に購入していた絵本「狐の涙」を読んでいる。


「だから、そういうのはないんだ」

「まんざらでもないじゃないか。鼻の下が伸びて居る」

「何かお前、突っかかりすぎだろ」

「はあ」


 レオポルトは本を閉じると、アルブレヒトへ人差し指を向けた。


「君は鈍感すぎる! 何でそう鈍いんだ!」

「いや、本当に何もないんだって。マリアだって、俺の事なんて何とも思って」

「彼女が俺に斬りかかったのは、今朝だ。いいか、色々あったがあれは今日の事だ」

「…………」


 レオポルトは呆れたと長い溜息を吐くと。アルブレヒトを責め立てるように顔の前まで人差し指で指した。


「彼女は、ずっと君が死んだと思って探していたんだ。俺の事も、調べ上げただろう。君と俺の仲だって、知らない訳じゃないのだろう。そんな彼女が、思いつめて俺に斬りかかって暗殺しようとしていたんだ。それだけ、傷ついているんだ、マリアは」


 レオポルトはアルブレヒトから離れると、再びベッドに座り込んで本を広げた。


「寂しかっただろうさ。やっと得た祖国を失って、君も失ったと思って」

「………………」

「愛が無いとして、彼女は家族を失ったと思ったに違いない。二度目の」

「無駄に、お前にマリアの話をし過ぎたな」

「何を言う、今更だろう」

「なあ、レオ」

「なんだ」





「お前、マリアを娶る気はあるか」





 宿屋を、鐘の町メサイアを、鈍い音が轟く――――――――!!


 次回のアルブレヒトさんの冒険にご期待ください。

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