⑤-13 暁のしらべ①

 サーシャはティトーを見つめたまま、青い瞳を輝かせた。ティトーと違うものの、色の濃い青い眼をしている。瞳の輪郭はハッキリしてはいないものの、ぼんやりと神秘的に輝く。


「ありがとうございます。瞳は、お母様譲りだって、聞いています」

「そう。ミラ様に似ているものね」

「お母さんを知っているの!?」


 ティトーは前のめりになると、張り切れんばかりの笑顔でキラキラ光線を送った。


「知ってますわ。美しく聡明な方です。写真もありますわ」

「みみみみたい!」

「えっと確かここに……。ありましたわ」



 サーシャはモノクロの写真をアルバムから抜き出すと、そこにはサーシャがティトーくらいの年齢で映っており、隣には美しいウェーブのかかった髪を持つ女性微笑んでいた。女性は巫女服に身を包み、微笑んでいる。


「お、おかあさん……」


 ティトーは目に涙を浮かべると、零れ落ちる前に袖で拭った。そんなティトーを優しくサーシャはティトーが写真を見れるように、後ろから抱きしめた。


「ミラージュ様は、生きてるわ」

「うん」

「ねえ、ティトーちゃん」

「はい」


 サーシャはティトーを抱きしめながら、耳元で囁くように、歌うように言葉を紡ぐ。


「エーディエグレスがどういうものなのか、知ってる?」

「はい。墓標です」


 ティトーは写真を見つめながら、ぼんやりと話した。


「…………そう。やっぱりそうなのですね」

「?」


 ティトーは写真に夢中で、言葉を聞き取れていなかった。


「あ。ごめんなさい、聞き取れてなくて」

「満天の星空の下、太陽が昇るとき、あなたは目覚める」

「え?」


 ティトーは写真に夢中であり、聖女の言葉に疑問を抱きつつ、目が離せなかった。


「ご、ごめんなさい。お写真に夢中で。今なんて?」

「ううん。いいの。お兄様を宜しくね」

「うん! ぼく、レオお兄様大好き! あ、アンリお兄様だった!」

「ふふ。アルブレヒト兄さまの事よ。さあ、そろそろ行きましょうか。話も決まったでしょうから」

「うん!」





 ◇


「おにいさま!」


 教会内では、三者が書類に署名を行っていた。それでも、形式上であるらしいが、マリアもマルティーニを名乗ることは無く、全員偽名だ。


「ティトー! アレクサンドラ様、面倒を見て頂き有難う御座いました」

「いいえ」

「アンリ様は景国に行かれたことがおありで?」


 司祭が書類をまとめながら、アンリへ向かって疑問を投げかけた。アンリのお辞儀は、景国のそれなのだ。膝に手を当て、深くお辞儀をする。それが景国ならではの文化だ。何故かニミアゼル教では景国のしきたりが根強い。


「知人が、景国の方でして」

「ほほう。珍しいですな。広い人脈を御持ちだ」

「商人の家系なもので。ラダ族の」


 レオポルトは慌てて付け加えたが、特に疑問に持たれることは無かった。ラダ族にも、商人の家系はあるのだ。


「なるほど。それでは、明日はお願い致します」

「宜しくね。アレクサンドラ様」

「こちらこそですわ。マリア様。女性が居て、心強いですわ」


 司祭も頷いているため、マリアという女出が居ることが決め手だったようだ。付き人もなしで聖女を送り出す教会は、どうやら人手不足のようである。


「よしじゃあ、遅めの昼食と行こう」


 一行は鐘の鳴り響くメサイアの町へ繰り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る