⑤-12 聖女アレクサンドラ④

「……というわけで、ティトーが本当に親族なら、其れこそ大巫女候補にあがるんだ。聖女候補にも挙がるだろう。それに、違うのであれば」

「ま、まままって。でも、僕は男の子だよ」

「聖女とか大巫女というだけで、別に女性だけじゃないの。ただ、女性しかいなかっただけで呼称がありませんの」

「そ、そうなんだ……」


 ティトーはよくわからない安堵をしたところで、再びサーシャへ問うた。


「アドニス司教って、直ぐお会い出来ますか」

「そうですね。わたくしに会うよりも、今は難しいかもしれませんね」

「出世したのか?」

「いいえ。そういった話は、随分と拒まれておいでです。ですが、わたくしを推薦しておりましたから、わたくしが選ばれた昨年からは忙しいご様子です」

「なるほどな」

「うーん。何か、何か……」



 サーシャは少し考えた様子で思案へ入ると、一分程で顔を上げた。


「出来なくもないかもしれません」

「本当か!」

「アドニス司教はいま、約束の町に着任されていますわ」

「約束の町って、巫女継承のオーブがある神殿があるすぐ傍じゃないか」


 約束の町はフェルド共和国との国境にある町だ。そして、巫女継承の神殿はフェルド共和国にある。そもそも、巫女継承のオーブを設置したケーニヒスベルクが、拠点を置くように作った町であるという伝説が残っており、千年以上の歴史が残る町だ。とはいえ、それは経典の中の一節であり、セシュールとはあまり関係がなく、神殿の位置もフェルド共和国だ。


「ずっとあの神殿の管理をしていらっしゃるの」

「ずっとって、大戦後からか。まさかセシュール領にいるとはな」

「根詰めすぎておられて、心配しているのよ」


 サーシャは心配そうに胸へ手を当てると同時に、今回に事に関しては都合が良かったと話した。


「それで、どうするんだ」

「実は、わたくしは予定通りなら、明日にここを立つ予定だったのです」

「まさか」


 サーシャは頷いた。

 

「ええ。巫女のオーブに祈りを捧げる責務があるのですが、それが明日には立たなければならない予定だったのです。護衛の方がまだ決まっていないと伺っておりまして、遅れるとの通達をするところでしたの」


 サーシャは復興事業でセシュールで護衛が捕まらない事を説明した。屈強な部族民はほとんど駆り出されているのだ。


「じゃあ、その護衛を俺たちやれたら、同行ができるのか」

「はい。そのままアドニス司教に面会も出来るでしょう。知古の仲なのです、なにも騒ぐことはしないと思いますわ」


 サーシャはレオポルトへ優しく微笑むと、頷きながら返答を待った。二人が目を合わせたのち、レオポルトは少し考えた後に答えを出した。


「そうだな、もう家とは離縁された方だ」

「ええ。そうです」

「じゃあ俺たちは司祭たちに手続きをしてこよう。身内なら、そこまで身辺調査もされないだろう」

「私も行くわ。レオ……じゃなかった。アンリも行くわよ。ティトーは、ここでちょっと待っていてね」

「うん!」

「すぐ戻るから、いい子にしていなさい。サーシャ様、弟をお願いします」

「ええ。お願い致します」


 サーシャは祈るように三者を送り出した。


 部屋に残されたティトーは不安そうに俯いたため、サーシャはティトーへ語りかける。



「ティトーちゃん、綺麗な瞳ね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る