⑤-11 聖女アレクサンドラ③
聖女アレクサンドラ=サーシャは両手で祈るように合わせると、眼を閉じた。
「やはり、お兄様にはケーニヒスベルク様のご加護があるのですね」
「異教徒の話をしていいのか?」
「あら、わたくしは薄情はお兄様よりも霊峰であらせられるケーニヒスベルク様が好きですわ」
サーシャの言うケーニヒスベルク様とは、教会の経典だ。セシュールとは違い、霊峰ではなく、ケーニヒスベルクという者が過去にセシュールを治めていた、と記述があるのだ。教会の者がケーニヒスベルク、またはケーニヒスベルク様といった場合、それは過去のセシュール国王の事であり、象徴の霊峰を指すことは無い。
「悪かった。連絡を取らずに」
「仕方ありませんわ。私はここを動けませんでしたから。わたくしにも、見張りの目が合ったものですから」
サーシャは一行に座るように促し、自身も床に敷かれたラグへ座った。
「聖女が地べたなんて、叱られるじゃないか」
「あら。私は割と好きですわ。良く寝転んでいますもの」
「本当だ、ふわふわラグさんだ~!」
ティトーが構わずにコロコロしていると、マリアが慌てて駆け寄った。
「ちょっとティトー! あら、本当にふわふわ」
「マリア嬢まで、やめて下さい」
「まあ! では貴女がお兄様の奥様?」
「え」
マリアは意表を突かれた様子だったが、慌てて表情を落ち着かせた。数刻前まで、妻だのなんだのと言っていたマリアだったが、やはり別れたことは事実の様子で、照れながら弁解していった。
「ごめんなさい。大戦前に……」
「巻き込めないからと、婚約は破棄したんだ。だから結婚はしなかったんだ」
「! ごめんなさい。余計なことを聞きましたわ」
「大丈夫よ。それより、サーシャ様のところへもアンセムの確かな情報は伝わっていないのね」
マリアは面白くなさそうに窓の外を見つめた。憲兵の姿は無い。
「私の所へは、被害の報告や人々の救済の仕方などの問い合わせばかりです。ただ、新聞は入ってきておりましたから。……お兄様がもう、処刑されたのだと思っておりました」
「…………悪い。心配かけたな」
「いいえ。さすがに、わたくしもお兄様が亡くなられたとは思っておりませんでしたわ。ただ、どうなっておられるのかが、不明でしたから」
サーシャは改めてレオポルトへ一礼をした。レオポルトは慌てて頭を下げる。
「ふふふ。ここは景国の習わしが随所にあるのですよ」
「あ、やはりそうでしたか」
「貴方が、レオポルト殿下ね」
「ご挨拶が遅れまして。私がレオポルト・ミハエル・アンリ・ラダ・フォン・ルージリアです。ただルージリアなだけで、殿下ではありません。ラダ族族長が長子であり、現セシュール国王の息子であるだけです」
「ふふふ。聞いていた通りの方ね。私も、お兄様とは文通をしていたのです」
「さて、詳しく聞かせてくださいますか。どうしてわたくしの所へ来たのかを」
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