⑤-9 聖女アレクサンドラ①
鐘の町メサイアの中央に位置する教会は、小さくありながらも修道院もある立派な建物を構えている。修道女が何人も住み込み、聖女の候補として働いている。
彼等や彼女達は、女神ニミアゼルを信仰し、セシュールまでその宗派を広めようと試みた。しかし、セシュールは多民族国家であり、その種族にそれぞれの守護獣、そして愛するケーニヒスベルクという霊峰があるのだ。一筋縄ではいかず、結局は移住者たちのための拠点として、教会を構えたのだ。表向きは――。
「本当に大丈夫なのか? 変装しているのに」
「問題はない。ちょっと変わったやつだが、本筋が見えるやつだ」
「その聖女様が、か?」
アルブレヒトが信用できないのか、レオポルトはマリアへ素性を聞こうとしたのだが、マリアも首を横に振った。
「私も、話だけしか聞いていないのよ。面識もないわ」
「見えたぞ」
教会の入口には、午後の礼拝者が集まってきているのか司祭が数人、お布施を受け取っている。主だった収入のお布施は、神に仕える者達によって消費されていくというのに。
「礼拝でしょうか?」
落ち着いた司祭が一礼し、中へ促しながらお布施を受け取ろうと手を差し出した。お布施が無いと知ると、司祭は恥ずかしそうに首をかしげている。
「では、どのようなご用件で」
「聖女サーシャ殿の親族なんだが」
「ほう。聖女様を愛称で呼ぶことはあまり良いことではありません。ここではアレクサンドラ様とお呼びください」
「そうか。気をつけよう」
「それでは北方から?」
「ああ。友人の弟が、お目にかかりたいといっているんだが、コネが使えないかなと思ってな」
ティトーは前に押されたため、慌てて照れながら状況を読み取ると、照れ笑いを浮かべながら司祭へ近づいた。打ち合わせなどしていない。
「ぼく、聖女様のお話、スッゴイ興味があるんですー!」
「おお。素晴らしい。聖女様のお話を聞きたいのですね。では、午後の礼拝にいらっしゃってください。親族であれば、彼女も気付くでしょう。色々と
「そうか。では、午後の礼拝に出席しよう」
一行が並ぼうとした際、ティトーはそのまま残り、司祭を見つめた。
「でも、ぼくはニミアゼル教徒じゃないんだけど、いいですか? ラダ族なんです」
ラダ族と聞き、司祭はかなり驚いた様子で喜びの声を上げたが、他の三者は冷や汗ものだ。
「高名なセシュールの部族民のご友人様だったのですか。そうですか、ラダ族の! ラダ族は素晴らしい部族です。賢く、勇ましく、そして勇敢だ。五月蠅いだけの他部族とは違い、寡黙で真面目、冷静沈着だ。現王のように」
「えへへ。照れちゃうなあ!」
「皆さんはどうぞ、前の方で話を聞いてみてください、どうぞこちらです」
司祭はすぐに教会内へ案内すると、最前列へ案内し、入口へと帰っていった。30名ほどの信者がすでに待機している。新聖女からの直接の話ではあるものの、やはりセシュール国では規模が小さい。
「ノルトハイム家の親族とラダ族の友人なんて、ちょっと考えればおかしいのに」
「マリア、余計なことを云うな」
「よく疑われなかったな」
レオポルトは今も尚、冷や汗をかいたままだ。なんせ髪の色も目の色も、レオポルトとティトーはラダ族の特徴からかけ離れているのだ。
「ラダ族が優秀だからだろう」
「どんな綺麗なお姉さんかな!」
「ティトー静かに、来たぞ」
教会の鐘が鳴り響き、静かに司祭と修道女が歩きながら4名が躍り出てきた。すると、その背後から、白いケープに身を包んだ聖女が、ゆっくりを歩みを進めてくる。
ステンドグラスから魔法で光が降り注ぎ、荘厳なニミアゼル教を模すかのように降り立った。
「聖女様、説教を聞きたい信徒たちです。本日も宜しくお願い致します」
「宜しくお願い致します、聖女のアレクサンドラ・ゼルフィートです」
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