⑤-7 大戦への追想③
部屋をノックする音がして、扉が開いた。神妙な面持ちのマリアと、アルブレヒトが立っていた。
アルブレヒトはティトーの疲れ果てて絶句した表情を見るに、言葉を失った。
「そっちも終わったか……。結界が切れたみたいだが」
「一通りの流れを説明した」
「ティトー、大丈夫か」
アルブレヒトはティトーへ駆け寄ろうとしたが、マリアが制止した。マリアは首を横に振ると、レオポルトへ向かって頭を下げた。
「まず、非礼を詫びるわ。旦那を助け出してくれた恩人を、私は殺すところだったのね」
「いや、攻め込んだのは俺の方だ」
「…………ううん、攻め込んだのはルゼリアだったのよ。ごめんなさい。感情的になっていたわ」
「いや……」
「ティトーくん、私の実家の、マルティーニっていうのはね。東南に位置する南国の島であるヴァジュトール国の有名家系の一つなの。うちの家系も、戦争に加担して、取り潰しにあっているわ。でも大丈夫。せいせいしているの」
マリアはアルブレヒトの胸を軽くグーで、扉をノックするように叩いた。
「それにね。ほんとは出陣前に婚約破棄を言い渡されているから、厳密には夫婦でも何でもないのよ」
「な……破棄!? アルブレヒト! 君はそんなこと、一言も……」
「すまない、言いそびれていた。もう別れたと思っていたんだ」
申し訳なさそうに目線を外すアルブレヒトは、マリアを見つめながら、ばつが悪そうにまた更に目線を外した。
「別れたって……君は!」
「別に愛し合ってた訳じゃないわよ。勘違いしないで。政略結婚の予定だったし、私はアルに恩があったの。だから、義理しかないのよ。私達」
レオポルトは静かに立ち上がると、マリアの前で改めて跪いくと首を垂れた。マリアは慌ててレオポルトへ駆け寄ると、立ち上がるよう手を指し伸ばしたが、レオポルトは手を受け取ることは無かった。
「ちょっと止めてよ。聞いてなかったの? 私達は」
「いや。政略とはいえ、君はアルブレヒトの伴侶になるべきだった。それを折ったのは私だ」
「いきなり王子様みたいなこと、やめてよ。あなたは、今はセシュールの部族民なんでしょう。だったら……」
「判ってくれたならそれでいい。ただ、ルゼリアは母の国だ。私も幼少期には城で暮らしていた。それに」
レオポルトはアルブレヒトへ向かい、再び首を垂れた。アルブレヒトはレオポルトが頑固で生真面目な性格なのを理解してはいるが、流石にやりすぎだと言わんばかりだ。
「私は君たちの故郷を……」
「もういいって言っただろう」
「いや。何度謝っても構わない。こんな事で償われることはないのだが。我々セシュールが、大国の情報に踊らされ、こんな卑劣な事に加担したんだ」
「レオ、頼むからやめてくれ。俺たちの仲だろう。お前はずっと、俺を信じていてくれたじゃないか。俺は、それだけで充分なんだ」
「まって。本当に。ティトーを見なさいよ、あなたの弟でしょう」
マリアの言葉に、レオポルトは我に返り振り返ると、既にそれは遅かった。ティトーはその場で立ち尽くし、自分を責めるようにレオポルトを見つめている。
「ティトー……。すまない、ティトー」
「違うの」
ティトーは思いつめたように訴えると、三者へ向かった。マリアはとっさに結界を展開したが、ティトーは冷静にそれを確認したのちに言葉を繋いでいった。
「僕、何も知らなかったの。それがゆるせないの」
「ティトーはルゼリアにいた。知らないのも仕方ない。あの国は情報を操作、操っているんだ。だから、ちゃんとした情報がない。流さないんだ」
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