第9話
俺は夏菜子さんのおかげで、志望校に合格し、平日は入学した高校で勉強をし、夜や週末には大学生の夏菜子さんと一緒に予習や復習をした。
もちろん勉強だけではなく、夏菜子さんと出かけたりして仲を深めていった。
夏菜子さんが積極的に俺との仲を深めるように関わってくれたから、夕陽とダメ親父のお陰で恋愛に消極的だった俺も少しづつ夏菜子さんに惹かれていった(最初から好きになりかけていたけど)。
俺は夏菜子さんのおかげで順調に高校、大学と進学、夏菜子さんも大学を卒業し、夏菜子さんの親族の経営する会社に就職した。
俺の祖父さんは俺を大学に入学させるためにお金を出してくれ、
「康が無事に卒業して就職するまで、死ねんなぁ。」
なんて冗談を言うような口調だけど、真剣な眼差しで俺を見つめ、俺の頭を髪がくしゃくしゃになるくらい撫ででくれた。
俺は祖父さんにありがとうと伝えたかったけど、泣いてしまっていたから、言葉にはならなかった。
だけど、お祖父さんとお祖母さんはは、そんな俺を見てニコニコと笑い、
「大丈夫だ。無理に言わなくても、お前の気持ちはちゃんと分かっているぞ。」
そう言って俺の頭をまたガシガシと撫ででくれた。
そんなお祖父さんも、俺が大学を卒業して、夏菜子さんと同じ会社に就職すると安心したのか、亡くなり、お祖母さんもお祖父さんを追うようにして亡くなってしまった。
お祖母さんには俺と夏菜子さんの結婚式を見せる事ができ、俺のタキシード姿をお祖母さんは子供のようにニコニコとした満面の笑顔で見ていたのが、印象的だった。
やがて、俺と夏菜子さんの間には男の子が生まれ、康明と名付けた。夏菜子さんはあまり身体が丈夫ではなく、康明を妊娠中も医者からは無理をしないようにとは言われていたが、無事に康明を出産、
俺達2人は無事に生まれてくれた康明をとても可愛がり、特に夏菜子さんの可愛がりようは、俺が康明に嫉妬するくらいだった。
そんな俺の様子を夏菜子さんは、
「もう、康くんは幾つになってもお子様だね。」
そう言って、俺の頭を撫でで、
「大丈夫、私は貴方の事が大好きだからね。」
そう言って、頬にキスをしてくれた。
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夏菜子さんは出産後の体調が思わしくなく、寝たり起きたりを繰り返しながらも、康明の母親としてそして俺の妻として頑張ってくれていたけど、康明が小学生の時に亡くなってしまった。
夏菜子さんは最期の時、俺の手を握り、
「康くんと康明を遺して、死ぬのは辛い…。ごめんね。康くんにこんな泣き言を言って。」
俺は夏菜子さんの手を強く握り返し、
「大丈夫だよ。夏菜子さん。俺は夏菜子さんの事が大好きだからね。」
そう言うと、夏菜子さんは少し笑って、
「私が死んで、康明が納得したら、新しい奥さんを迎えても良いからね。」
そう言ってくる。俺は頭を横に振り、
「俺は夏菜子さんにまだまだ惚れているからね。俺が死ぬまでその熱は冷めそうにないかな。」
俺がそう言うと、夏菜子さんは、
「大人になって口が上手くなったね。こんなにも女性を喜ばせる台詞を言えるようになったから、いつ浮気するかお姉さんは心配だよ。」
そう言って、夏菜子さんはニヤリと笑う。
その笑顔はとても魅力的で、他の女性にうつつを抜かしている場合ではないなと思ってしまう。
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息子の泰明には彼女がいる。
おっと、正確には彼女だと思われる存在だ。
康明から正式には紹介はされていないからな。
でも、あの娘は小さな頃からずっと息子と仲がよく、泰明が小学生の頃、妻の夏菜子さんが亡くなったショックで、自暴自棄になった時もずっとそばにいてひたすら励ましてくれたんだ。
俺も昔、ショックなことがあったときに、当時、友人だった夏菜子さんがずっとそばにいて、慰めてくれたからな。
その関係を見ていると、俺と夏菜子さんとの関係を見ているようで、微笑ましくもあり、焦れったさも感じる。
もう早く付き合ってしまえよ。お前たち!って感じだ。
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俺が居間でゆっくりとテレビを見ていると大学生になった康明が俺の前に座り、
「親父、今度、紹介したい人がいるんだけど。土日のどちらか予定は空いているか?」
なんて言ってくる。
「なんだよ。かしこまって?彼女でも連れてくるのか?」
すると、康明はドキッとしたのか、
「なんだよ。彼女がいるって知っていたのかよ?!」
「ああ、かなり前から知っていた。早く付き合えば良いのにと思っていたな。土日どちらでも良いよ。」
俺がそう言うと、康明が真っ赤になって、
「なんだよ!もう!今度、紹介するから!俺の彼女、可愛いからって惚れんなよ!」
俺は真っ赤になった康明を髪の毛がくしゃくしゃになるまで頭を撫で、
「このリア充め!爆発しちまえ。」
そう言うと俺は康明にデコピンをした。
「痛え!」
額の痛みに悶絶する康明に、
「彼女を絶対に幸せにするんだぞ。」
そう言うと俺は、居間から自分の部屋に向かう。
「何処に行くんだよ?」
額を抑えながら康明が俺に尋ねると俺はニヤリと笑い、
「夏菜子さんにな。お前の成長を教えに行ってくる。」
俺はそう言うと、自分の部屋で夏菜子さんが好きだったスーツに着替え、彼女が眠る墓に向かう。
道中、よく晴れた空を見上げると、夏菜子さんが好きだった昼間の月がうっすらと浮かんでいる。
「夏菜子さん、あと何十年かしたらそっちに行くから、その時には土産話がいっぱいあるよ。」
俺はそう呟き、彼女のあの笑顔がもう一度だけでもみたいなと思う。
まだまだ俺の恋は冷めないみたいだ。
過去の悪い恋が、新しい恋を怖れる理由にはならない。 鍛冶屋 優雨 @sasuke008
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