第6話
マリンの投げかけた言葉を受け、リーウェルはどこかひょうひょうとした様子でこう言葉を羅列した。
「いえね、以前に貴族たちを集めてパーティーが開かれたことがあったでしょう?その時に彼女の姿を見たのですが、これがなかなか僕の心に刺さりましてね」
「まぁ、そうだったのですか?」
「非常に女性らしい見た目と体型をしているなと思いましてね。あれならば他の貴族の連中やライバル社の連中も、さぞ私の事をうらやんでくるに違いないと思ったのですよ。実際、狙っている男は他にもいたようですしね」
「うれしいことだわー。そんな中からリーウェル様と結ばれることが叶ったなんて、本当に運命のよう!」
わざとらしくエリスに聞こえるようそう言葉を発するマリンだったものの、それは彼女の演出だった。
色々な相手の候補がいながら、莫大な富を持っているリーウェルとの婚約を手引きしたのは、他でもない彼女自身なのだから。
「ほらエリス、いつまでも恥ずかしがってないで少しはリーウェル様に挨拶なさい。愛想を尽かされてしますわよ?」
未だその顔を伏せ、あまり明るい雰囲気を見せないエリスに対し、マリンはやや怒りを感じさせる口調でそう告げた。
「私も……リーウェル様とのご縁を、うれしく思っています…」
これほどまでに大々的な準備をされていて、婚約を断ることなど彼女にできるはずもなく、エリスはどこか寂しそうな表情を浮かべながらそう言葉を漏らした。
しかし、エリスが複雑な思いを抱いているという事に、リーウェルは全く気付いていない様子。
「まぁそりゃそうだろう。この僕と結ばれたいと根が女性は数多くいるのだから、その中から選ばれた一人ともなれば、うれしく感じてもらわなければおかしな話。大丈夫、君だって明日からは、これまでの人生では経験してこなかったであろう刺激的なを送れることだろう。その地味な服も、貧相なアクセサリーも、全てすぐにいいものに買い替えてやるとも。なんといったってこの僕の婚約者なのだから」
「……」
エリスはリーウェルに対して言葉を返しはしなかったものの、リーウェルがそう言葉を告げると同時に、彼が手配していたディナーが3人のもとに運ばれてくる。
「こちら、前菜のサラダとスープでございます」
「遅いぞ。外から僕らの雰囲気を見ていたなら、もっと早く持ってくるのがベストだろ?」
「申し訳ございません、リーウェル様…。恐れながら、まだまだ修行中の身ですので…」
「ったく…」
リーウェルはシェフの態度に悪態をついた後、そのまま用意されたスープをスプーンですくい、口に運んだ。
そしてその味を確認した後、再び機嫌を損ねたような口調になりながらこう感想をつぶやいた。
「やれやれ…店の評判の割には微妙な味だな…。まぁ及第点と言ったところか…」
「申し訳ありません、精進いたします」
「はぁ…。色見もどこか暗いというか、庶民が口にしていそうな食材だな…。いいか?私たちは普通の人間たちとは違う人種なんだ。そのあたりきちんとしてもらわないと、もうここに来ることはなくなるぞ?」
「厳しいお言葉、痛み入ります」
ああだこうだと文句を言いながらも、出された料理を淡々と食べ進めていくリーウェル。
それにつられるような形で、マリンとエリスもそれぞれに出された料理を口にしていく。
「(あら、本当にすごいわこれ…!さすがは金持ちの上流階級の人間しか来られない高級レストラン…!スープだけでこんなにもおいしいだなんて…!)」
これまで食べてきたものとのレベルの違いように、マリンはその心の中を大いに躍らせる。
「(ほんと、エリス様様ね。この子がリーウェル様と結ばれてくれるおかげで、こんなリッチな生活がこれから毎日送れるだなんて…♪)」
マリンは未来の自分の姿を想像し、頭の中を大いにときめかせていく。
しかしその一方でエリスは、これほどにレベルの高い料理を口にしても、その心を暗いままにしていた。
「(あんまりおいしくない…。お食事って、何を食べているかよりも誰と食べているかの方が大事な気がする…。私、これからずっとこの味の食事をとり続けることになるのかな…)」
「お二人とも退屈そうだね…。よし、それじゃあ僕がなにか刺激的なお話を披露しようじゃないか」
「あら、どんなお話なのかしら?期待しかありませんよ?」
マリンの言葉に機嫌を良くしたリーウェルは、自身の胸を誇らしげに張りながら非常に楽しげな様子で話を始める。
「僕の会社の話さ。僕が父の命を受けて新しい事業を始めると言ったとき、最初はみーんなその事業の神髄を理解してはいなかった。だから僕はこう言ってやったんだ。『いいから黙って僕を信じてやれ』とね。そしたらどうなったと思う?僕が狙った通りにことは運び、結果新事業は大成功したというわけだ!女性の君たちにビジネスの事は理解できないだろうが、大きな金や多くの人間たちをこの手で動かすという快感は、それはそれはすさまじいものなのだ!…そういえばさらに前には、こんなこともあったな。同じく僕が父からの命を受けて…」
一度話を始めたリーウェルは、とどまることなく自身の自慢話を連発していった。
その内容のほとんどすべてが、彼の成果ではなく彼の父の成果の話なのだが、リーウェル自身は自分が達成したかのように話を繰り広げ、ますます自分という存在を二人に誇示していった。
そしてそれを聞く二人は、特にマリンは、リーウェルの話に内心へきへきとしていながらも、リーウェルの機嫌を損ねないように相手の事をほめるリアクションしかしなかったため、その時間は異様に長く続くこととなったのだった…。
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