#20 因果関係、分かりません……
なるだけぼっちを避けたい霧也は無意識のうちに悠を探して食堂を歩いていた。そして一人で食事を取っている悠を発見しそこへと向かう。霧也に気付いた悠は箸を止めてひらひらと手を振る。霧也も手を振り返して席に着いた。
「ここで会うのは久しぶりだねぇ。なんかあったのかい?」
「母さんが体調崩しちゃて、弁当作れなくて。仕方なく?」
「それは災難だね。まぁ食べなよ」
悠に促されて料理に手をつける霧也。ものの十分ほどで平らげると、ちょうどそこで悠も食べ終わるタイミングだった。することがなくなった霧也は、何となく浮かんだ話題を投げる。
「前にデートに行った女の子と、最近どんな感じ……?」
それは悠に告白した勇気ある少女、若菜の話題。前にデートを尾行してから音沙汰がなかったので些か気になっていたのだった。
若菜のことだと分かった悠は、にんまりと口角を上げて話す。
「どんな感じ、ねぇ……。と言われても普通というか、普通に友達というか……特別こうっていう話はないかな」
「そ、そっか……」
若菜ががっつり行っているのかと思っていた霧也は、あっけらかんとした悠の態度を見て気を落とす。霧也も、二人の中には少しばかり期待していた。
残念そうに黙る霧也を見ていた悠は、「あ、そうそう」と思い出して続けた。
「でもいい子っていうのはよくわかるよ。僕のためにとても頑張ってくれてるのも。そこはとても嬉しいかな」
「そうか……なら、いいんだ」
悠の一言で若菜の気持ちが上手く伝わっていることを知り、霧也は落としていた気を上げる。そして会話が締まったタイミングで、悠が食堂の出入り口の方に目を向ける。友人でも来たのか、そう思って霧也もその方向を向くと、思いがけない人物が目線の先にいた。
「えっ……天野君……?」
「あれ、霧也君知り合い?」
「知り合いというか、なんというか……つい昨日体育のバスケで同じチームで」
「へぇ~そんなことが。……どんな因果かな」
「い、因果……?」
悠の意味深な発言に、懐疑を抱く。そこで料理を持った莉樹がこちらに手を振って向かってくるのを見て、霧也は怯えた目で悠を見る。子犬のような目を見た悠は、にんまりと笑って告げた。
「僕、莉樹とは中学時代からの親友……なんだよね」
瞬間、食堂内に十六歳男性の声が大きく響いた。
◇
昼休みを終え、食堂から教室に向かう道で霧也は莉樹と肩を並べて歩いていた。衝撃的事実を知りすっかり気の抜けた様子を見て、莉樹は労うように肩を叩く。
「いやぁ、まさか斎条が悠と接点があったとはな~。びっくりだ」
「それを言うのは俺の方だよ……。まさか錦戸君と天野君が友達だったなんて……」
「君、ついてるぞ。天野でいいって」
「あっ……そうだった」
莉樹から訂正され口を紡ぐ霧也。未だに霧也の中では莉樹は神格化されていた。圧倒的な人脈と人徳、カリスマ性。それでいて自分を大きく見せ過ぎない謙虚さ。全てにおいて兼ね備えているものが負けている霧也は、どうしても莉樹の前ではナイーブになってしまっていた。
「そんな重苦しくしなくても、もっと軽ーく付き合ってくれよ」
「そうしたいんだけど、やっぱ天野凄い人だからさ。俺なんかが関わっても、いいのかなって……」
「俺なんか、ねぇ……。俺からしてみれば、斎条の方が羨ましいけどなぁ」
「俺?俺のどこにそんな……」
「う~ん、結構あるんだけどしいて言うなら」
少しばかり考えてから、微笑して霧也の方を向いた。
「山宮と仲が良いところ、かな。あんなかわいい子と仲良しなんて、羨ましいことこの上ないな。なんであんな仲良いんだ?」
「まぁ、俺と妃貴は幼馴染だし」
「……は?」
『幼馴染』という言葉を口にした瞬間、莉樹は足を止めて素っ頓狂な声を上げた。不自然に驚くその様子に、霧也も鳩が豆鉄砲を食ったような顔で莉樹を見る。
「ど、どうしたの?急に……」
「お前……山宮と幼馴染って……本当か?」
「も、もちろん、小学校からの中だけど」
「……本当に羨ましいな、俺にはそんな女子いないんだが」
「そ、そうなの?いつも女子といるとこ見るんだけど」
「あれはあくまで友達だ、幼馴染じゃない。それに……」
ここでわざとらしく言葉を止めると、悠のような意味深な笑みを見せて、言葉を再開した。
「D組の春谷渚乃とも仲が良いらしいじゃないか……。あの子、美人でレベル高いってもっぱらな噂だぞ?」
「そ、それは妃貴の伝手でちょっと……」
「へぇ~俺も仲良くなれるかな」
「天野ならすぐだろうな……」
顎に手を当てて分かり易く考える莉樹に、霧也は苦笑して答えた。そして少し無言のまま歩く時間が入り、唐突に莉樹が「だからさ」と口を開く。霧也は声のした方を向くと、莉樹が温かい目でこちらを見ていた。
「『俺なんか』とか自分を卑下するな。お前がどんなに落ちぶれたやつだとしても、お前は俺の友達だ。それでいい、だろ?」
「天野……ありがとう」
「そんな、俺は何もしてねぇって。そうだ、RINE交換しようぜ」
「勿論!」
そうして霧也は莉樹と連絡先を交換することが出来た。『陽キャ』と呼べるような人に自分を肯定され、尚且つ友達にもなれた。この短時間で距離が縮まったことに、霧也は久々に感情が高ぶっていた。
喜ぶのもつかの間、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。霧也と莉樹は急ぎで走ったが、結局授業の始まり前に間に合うことは出来ず。適当に「お手洗いに行っていた」と嘘を付いて事なきを得たのだった。
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