S 目撃

「ったく、どこ行ったんだよ……」


多くの人々が行き交う専門店街を、弱々しく歩を進める。フードコートで妃貴に押し負けた霧也は、その後も悠と若菜の尾行を続けた。ゲームセンター、雑貨店、アパレルショップ等、色々なところを周りに周って、少し妃貴が目を離した隙に、見失ってしまった。それからは小一時間ほどメリッサを歩き回って二人を探して、今に至る。疲弊しきった霧也の足は、痛みを伴った悲鳴を上げていた。


「てか、元はと言えばお前が見失ったのが悪いんだからな?」


「いやぁ、可愛いワンちゃんがいたもんで。今度ジュース奢ってやっからさ?」


「……貸し一な」


許しを乞う妃貴を、霧也は私怨の籠った目線でねめつける。もう悪態をつく余力すらも大して残っていなかった。

行く当てもなくとぼとぼと歩いていると、三階の中庭が目に入った。探し始めに見た時はまだ外は明るかったが、今はもう日が落ちていて空は暗く、中庭は温かい黄色の光でライトアップされていた。もうそんな時間か、と呆れまなこで中庭を見ていると、中心部分のベンチに見慣れた男女が座っているのを見て、霧也はとっさに隠れた。


「おい妃貴、居たぞ」


「えっ!?どこに……あ、居た!」


「声がでかいぞ。見つかったらどうする」


「そ、そうだね。ごめんごめん……」


注意を受けた妃貴は口をつぐんで霧也の隣に身を隠した。霧也は従った妃貴に指で丸を作ってグッドサインを送ると、陰に潜むアサシンのように、二人を観察する。そうして悠の表情を確認して、霧也は唖然とした。悠が、悠とは思えないほどうれいを帯びた顔をしていたのだ。


(これは……俺らは、ここにいちゃいけないな)


そう判断して、すっと立ち上がって踵を返した。急な霧也の行動に、妃貴は目を白黒させて霧也に問う。


「えっ、何急に。なんかあったの?」


「いや、特に。ただ俺らはここから離れた方がいい」


「何で、見つかったとか?」


「違う。俺らは多分、"邪魔"だ」


「じゃまって……」


霧也の言った言葉を食んでいる最中に、妃貴の耳に入る若菜の『でも!絶対錦戸さんのこと惚れさせてみせますから!!覚悟していてくださいね!!』の声。その台詞を聞いて、妃貴は霧也の言ったことの全貌を理解した。


「なるほどね、じゃあこれ以上はもういいかな。もし見つかって邪魔になっちゃ悪いし」


「そうだな。満足しただろ」


「満足満足。やっぱ他人のラブコメを覗くのは楽しいねぇ~」


「めっちゃ悪趣味だな」


二人のデートの成功を目の当たりにしたことで、ご機嫌上々に愉快に歩く妃貴。霧也もまた、なんだかんだ少し楽しかったことを思い返して苦笑するのだった。まだこの時は、霧也は今日のようなことはこれっきりだと思っていた。再度連れまわされる話は、そう遠くない未来の話なのである。そんなこと、当の本人霧也は知る由もなかった。

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