第45話-海斗 六日目。午後。川女3階。

「――お守りはただ触らせるだけじゃダメで! 相手を思いやる気持ちみたいなのが、必要……」


 海斗かいとは、朱音あかねにお守りの使い方を伝えた。けど、勢いよく階段を駆け上がる彼女の後ろ姿は、ちゃんと聞いた人のそれにはとても見えず。


「――らしいん……だけど……」


 置いてきぼりにされた海斗は、残念そうに言葉を切った。


 朱音はサポートをお願いとか言っていた。

 けど、ほぼ確実に失敗するだろう彼女のサポートって?

 ひまりが、朱音をやっつけて油断してるところを攻撃?

 でも三人がかりでも咲久さく一人すら救えなかったのに、自分一人でなにをしろと?


「うーん……」


 一手間違えたら詰み――いや。もうすでに詰んでいるような気がしていた海斗は、唸った。


 ――にしても福士ふくしさん、どうして人の言うことを聞かないかなあ。そんなんだからあんなわけ分かんない幽霊みたいなのに取りかれたんじゃないの?

 まあそれはおいとくとしてもさあ、ぼくにどうしろって?

 お守りは今あげちゃったし、サポートもたぶんムダ。

 でも諦めたらそこで試合終了だから何もしないっていうわけにもいかないし……おっと。


 海斗は、肩からずり落ちかけたバッグを担ぎ直した。

 このバッグ、なんだかんだで朝からずっと預かっているけれど、本来は陸の物だ。

 中身は一応聞いてある。

 状況が変わって必要なくなったけれど、咲久さくの制服なんかが入っているらしい。


りく君もよくやるよねー。いくら咲久ちゃんのためだからって、下手すれば変態じゃん」


 普段の陸とのギャップを感じた海斗は笑った。

 自分から友だちを作りに行くような度胸はないくせに、そういうことは出来る。

 彼のぼっち気質はたぶん本物なんだけど、それでも一回仲良くなっちゃえば、結構頼れる人なのかも。


「……ん?」


 海斗は思考を中断した。

 名案を思い付いたわけじゃない。ただ、視界の端っこに、気を惹かれる物が見えたような気がしたからだ。


「なんだろ?」


 海斗は吸い込まれるように、ふらふらとそれの所へと向かった。

 階段の前から廊下を横切り、そして反対側の、なぜか薄暗い教室の中へと足を踏み入れる。


 ブゥーン……ポコポコポコ……その教室特有の音と潮の匂いが海斗の心を落ち着けた。




 そう。ここは生物室。午前中まで土講どこうが行われていた教室だ。


 けれどそんなことは知らない海斗。彼はただただ気になる物の正体を突き止めたい一心で、教壇の辺りまで歩みを進め……


「んん? ……ゴミ?」


 海斗は首をひねった。

 海斗が興味を惹かれた物とは、こんもりと積もったちりだったのだ。


「……なんで?」

 

 どうしてこんな物が? 海斗はその塵をすくい取った。

 サラサラした触感。指の隙間からこぼれ落ちる様子。どう見てもただの塵だ。


 自分の気を惹いた物の正体がただのゴミ。そのあまりにもつまらない結果が、かえって海斗に興味を抱かせた。

 すると、




 ペこん――




 まるでタイミングを計っていたように、海斗のスマホが鳴った。


 すると、そこには――


┏━━━               ━━━┓


  いやー

  よく気が付いてくれたわ。


  こうなっちゃった時は

  アタシももうダメかと思ったけど、

  これならまだワンチャン。

  諦めるにはまだ早いんじゃない?


  てことで。


  急いでるとこちょーっと悪いんだけど、

  一つだけ頼まれてくれない?


┗━━━               ━━━┛


 それは、以前どこかで見たことがあるような雰囲気のメッセージだった。

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