コップ酒とニートと天狗とアンドロイド

ゆかり

第1話 アンドロイドとコップ酒

 舘倉美衣たちくら みいは久しぶりに乗った電車でウトウトしていた。浅い眠りである。

 休日の午前10時。席は窓側。目的地までは一時間弱。


 途中の停車駅で乗り込んできた乗客が隣に座った。座るなり手荷物をガサゴソやって落ち着きがない。

 美衣は、ぼんやり薄目を開けてみる。顔は動かさないままだから視界は狭い。その狭い視界に、ビニール袋とコップタイプの容器に入った酒と、それを取り出す手だけが見えた。

 シュカンっ! 

 蓋を開ける音に続いてゴクゴクと酒を飲む音が聞こえる。まだ午前中だというのに電車に乗るなりコップ酒を一気飲み……。美衣はその人物の顔を見たい衝動に駆られたが、ぐっと堪える。絡まれても困るし、見てはいけない気がする。とにかくここは寝たふりが最上の策と、耳だけダンボにして狸寝入りを決め込んだ。


 そこから二つ目の停車駅手前で隣席の乗客は立ち上がった。降りるようだ。

 美衣は少しホッとして、立ち去る隣人の後ろ姿を今度は堂々と見る。そして驚いた。五十代半ばの細身の女性だったのだ。勝手に中年以上の男性を想像していた。これがバイアスというヤツだ。女性と知って、その人の身の上が何だか心配になったのもまたバイアスだ。美衣は自分の中の偏見に打ちひしがれていた。

「AIにもバイアスは生じるという事か……。いや、私が不良品なのか?」 と。

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