佐藤■太に関する証言と記述

 一人目 S氏(高校時代の同級生)

以下の証言はボイスレコーダーに収録された音声を記述したものである。

(本日はよろしくお願いします。)

「…はい、よろしくお願いします。」

(まず初めに佐藤■太さんの印象についてお話してもらえますか?)

「佐藤くんは別に周りと浮くような話も無くて普通の人だと思ってました。彼と話したことがあるんですけど会話とか性格に棘あるわけでもなくて…がまさか自殺なんてすると思って無かったです…」

(佐藤■太さんの死因はどのようなものだと知らされましたか?)

「ええと…たしか首を吊ったって知らされました。なんでもお金に困っていたとか。」

(佐藤■太さんの訃報についてはどのような形で知らせましたか?)

「友人からメッセージアプリで知らされました。」

(質問は以上です。ありがとうございました。)


 二人目 K氏(同僚)

(本日はよろしくお願いします。)

「よろしくお願いします。あの、お宅は探偵さんか何かなんですか?警察には見えなさそうだし…」

(申し訳ありませんがその質問にお答えすることはできません。まず初めに佐藤■太さんの印象についてお話してもらえますか?)

「はぁ…そうですか。山崎は社内じゃ結構嫌われてましたね。後輩への当たりも強いし今で言うアルハラとかもありました。」

(佐藤■太さんの死因はどのようなものだと知らされましたか?)

「人事の知り合いに聞いただけだから噂程度かもしれなんですけど事故に巻き込まれたって聞きました。」

(もう少し具体的に聞かせていただいてもよろしいでしょうか。)

「なんでも車で出勤する途中で対向車に突っ込まれたって聞きましたよ。」

(佐藤■太さんの訃報についてはどのような形で知らせましたか?)

「先ほども言いましたが人事部の知り合いからです。一緒に飲みに行ったときに話してました。」

(質問は以上です。ありがとうございました。)


 三人目 T氏(隣人)

(本日はよろしくお願いします。)

「よろしくお願いします。」

(まず初めに佐藤■太さんの印象についてお話してもらえますか?)

「あまり話したことがないのでなんとも…最初は普通の大学生と思ってたんですけど夜中に怒号が聞こえてくる時があって…それっきり挨拶だけしてその場を去るようにしてます。」

(佐藤■太さんの死因はどのようなものだと知らされましたか?)

「え?佐藤さん亡くなったんですか?…あの、いつお亡くなりに…」

(先週の日曜にお亡くなりになられました。)

「いやいや、変なこと言わないでくださいよ。かなりたちが悪いですよ。だって私今朝佐藤さん見ましたよ?」

(それでは次の質問に移らせていただきます。今朝の佐藤■太さんはどのような様子でしたか?)

「いや様子も何も…いつもと変わりませんでしたよ。挨拶して、会釈して、それでおしまい。」

(質問は以上です。ありがとうございました。)

「いや、あの…どういうことですか?佐藤さん亡くなったって。貴方警察の人じゃないですよね?何のためにこんな質問するんですか。」

(質問は以上となります。ご退出ください。)

「あの…ちょっと…」

[職員による誘導の後、T氏は退出した。]


「白井先生、今年も彼は増えてますか。」

「あぁ…年々、佐藤■太の情報は増していく一方だ。」

「不思議な話ですよね…存在しないはずの人間の話が増えていくなんて。」

「今回もやはり、Sさんの高校の卒業写真などの資料を参照しても、Kさんの会社の社員名簿を調べても、Tさんの住むアパートを訪問しても佐藤■太なんて名前も姿も出てこなかった。去年の報告件数は何件知ってるか?」

「たしか573件でしたよね。」

「そうだ。今年は今日の報告含め879件。家族の中に紛れ込んでしまう日も来るだろうな。きっと。」

「なんだか恐ろしいですね…」

「私はそろそろ退勤するよ。そうだ、このあと飲みに行かないか?」

「すいません。まだまとめなきゃいけないデータがあるので…」

「そうか…頑張ってくれ。それじゃ。」

「お疲れ様です。」

[数秒の間]

「あぁそうだ。佐藤くん。」

「はいなんでしょう?」

「帰るときには電気を消すのを忘れないでくれよ。」

「了解です。」


[テープ終了]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三文怪奇短編集  @Jack_hogan_88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ