第8話
家に着くと先日泥棒のようにコソコソと家の中に入ったことを思い出し、無意識の紫陽花の鉢に目を向け得ていた。なんだか葉に元気がないように見える。最近は暑くなってきているし、雨も降っていないため仕方がないか。
それを尻目にインターホンに手を伸ばす。
ピンポーン
今はまだ午前の早めの時間でガレージに車があるのも確認済みなので迷いなくインターホンを押す。
「はい。」
少し警戒するような声に、朝に来て迷惑だったかもなと申し訳ない気持ちになる。
「薫です。朝早くにごめんなさい。少しいいですか。」
「薫か。おはよう。」
出てきたのはおばさんではなく薫の柔道の師範である歩夢の父親だった。
いつもはおばさんが出てくるのでなんだか少し違和感を覚える。しかし、そんなことよりも今は歩夢のことを話す必要がある。できれば手紙を渡してくれたおばさんにも話したい。
「おばさんはいますか。歩夢のことで話したいことがあるんです。」
「・・・歩夢の?」
おばさんと歩夢の話題になった瞬間に少し空気が硬くなった気がするが、おじさんがすぐに家の中に通してくれたことで疑問が解けた。
「おばさん・・・?」
家の中では薫の通学バッグらしきものを抱えて疼くまるおばさんがいた。
「どうしたの?何かあったんですか・・・?」
おじさんの方を見てもなぜがこちらを見ながら苦虫を噛んだような表情を浮かべ思い切り力を込めて手を握りしめるだけで何も発しない。
ハラハラと涙を流すおばさんの背中をさすって10分ほど経っただろうか。いつの間にかリビングにはおじさんはいなくなっていた。
「ごめんね・・・。」
少し落ち着いたおばさんは疲れ切った表情で謝ってくるが、その表情があまりにも痛々しい。もちろんすぐに割り切れるようなことではないとわかっているけれどこれほどにも影響を与えるのかと悲しい気持ちになる。
しがみついて紫陽花 @hydrangea0000
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