第4話
家に帰って、手紙を読もうとするけれど、どうしても怖くて読むことができない。何を書かれていても、今の自分には受け入れることのできないものだろうと感じる。歩夢は私に恨み言を書いているだろうか。それならまだいい。もし、それが書いていたら、私はなんで言ってくれなかったのだと怒ることができる。
だけど、もし「助けて」とか、「ありがとう」とか、そんなことを書かれてしまっていたならば私はきっともっと歩夢がいない現実を受け入れることができなくなる。
自宅に戻ったはいいものの、手紙を開けるかどうか悩みに悩んで、一旦考えることを放棄し、ベッドに潜り込んだ。
「薫!起きなさい!今日は学校行くんでしょ」
母親に起こされてノロノロと制服に着替える。歩夢が亡くなった後、薫は学校を休んでいた。そろそろ部活の練習に参加しなければとは思うものの、頭の中には歩夢のことばかりで、自分の部活や学校のことについて考える隙間がない。
そういえばと昨晩読もうとして読めなかった手紙に手を伸ばしてみる。昨日はあんなにも怖かったのに今日はどうしてか抵抗を感じない。糊でしっかり封がされた白い封筒に「薫ちゃんへ」とだけ書かれた歩夢の字を見てそれから慎重に封を切る。
歩夢の手紙はこうだった。
『薫ちゃんへ
手紙を久々なので緊張しますが、書くことにしました。
お母さんやお父さんにはまだ見せることができないので薫ちゃんに先に読んでほしい。
家の前に3つの大きな紫陽花の鉢があるよね。
そこの真ん中の鉢の下にビニールに入れて置いてあります。』
これだけが書かれていた。てっきり私に対しての気持ちや、歩夢の両親に対する気持ち、なぜあんなことをしたのかなどの理由が書かれていると思っていたのに、置き手紙のような内容に少し驚く。
歩夢の家には大きな紫陽花の花壇が3つほど並んでいて、あともう少ししたら紫陽花の綺麗な花が咲く。毎日歩夢の母親が花壇の世話をしていて、6月になると道場の入り口に一輪挿しの花瓶に綺麗に生けるのだ。歩夢は紫陽花の花がとても好きだった。6月にある薫の誕生日にはそこの花壇から花を切って花束にして送ってくれたことがあり、薫もそこから紫陽花の花がとても好きである。
しかしあまりにも不用心ではないか?もし薫に手渡す前に自分の親が開封したりするとは思わなかったのだろうか。それに毎日薫の母親が水やりをする。そのときバレてしまうなどとは考えなかったのだろうか。
色々考えているうちに薫は学校に行く時間になり、歩夢のうちには寄る時間がなくなってしまった。
学校についても部活をしていても考えるのは歩夢の手紙と手紙に書いてあるノートについてである。もし今頃ちょっとしたことで歩夢の母親がノートに気づいていたらどうしようと思うと何にも身が入らない。
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