送信

てると

送信

 蒸し暑い。こんなに暑いのに、私の通っている高校はまだ夏休みにならない。明日も学校か。そんなことを思って憂鬱になりながら、暗くなった窓の下の、机の上に置いてある、先輩にクレーンゲームで取ってもらったぬいぐるみを見つめる。先輩は、「これメンヘラが好きなやつじゃん」なんて言ってたけど、そう言う先輩のロック画面は、小中学生が殺し合うアニメの女の子だ。

 思えば、中学の頃、私はマトモだった。マトモに、孤立していた。孤立していたのに、孤独じゃなくて、一人で色んなことを楽しんでいた。それが高校に入ってから、環境が悪かったのか、いつも仲の良い友達といるようになって、頼まれたわけでもないのに離れられなくなって、そして家にいる時間も通話をしていることが増えた。

 この間の先輩たちとのショッピングモールだって、前だったら行ってなかったし、家でイラストでも描いていただろう。本当に、どうしてしまったんだろう。もしかすると、なにかの精神の病気で知能指数が落ちてるんじゃないのか。不安だ。

 ベッドの上のデジタル時計を見る。午後十一時。まだ寝る時間じゃない。前なら喜んで動画を見たりイラストを描いたりしてたけど、今はなぜか寂しくて、うまく眠れるまで落ち着かない。眠れても、途中で起きることも増えた。

 そういえば、今度の土曜日は、海で花火大会がある。自分でも自分の心が理解できないことも増えたけど、先輩を誘おうかと悩んでいる。というよりも、もう文字にはなっていて、あとは送信を押すだけなのだ。私の悪いところは、一回何かを思い始めるとそのことが頭から離れなくなってしまうところで、現に今、画面を見て、アプリを開いて、どうしようかということしか考えられなくなっていて、そのことにはいつも気づいているけど、それをどうしようもない。迷う状態が永遠に続くようで苦しいとき、私はそれに耐えられない。ただ、悲しみを知っている人と、人混みを歩きたい。送信を押す。

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