side佐宮彼方①
この世界は男女比が1:10だ。
数が少ない男性は、生まれた時からとても大事にされてきた。
ボクも生まれてきてから散々それを目の当たりにしてきた。
というか男性は基本、優遇される。
たとえば、テストの点数がどんなに悪かろうが先生からは怒られないし、学校を無断欠席しても目を瞑られる。
それが親となれば当然、怒鳴ることないし、子供が男であるということは存在自体がありがたいというもの。
珍しく口うるさくなる時と言えば、周りの女性には気をつけろということだけ。
そうやって甘やかされた環境で育ってきた男性は、女性に対して臆病で常に警戒しているか、ワガママで横暴であるかの二極化。
しかし、ボクの幼馴染はどのタイプでもなく———
「一季。最近は暖かくなってきたとはいえ、男子がシャツのボタンをそんなに開けてはダメだよ?」
登校中。
一季がシャツの第2ボタンまで開けているのを見て、ボクは指摘する。
首元や鎖骨が見えており、これでは女性たちに俺のことをぜひ見てくださいとアピールしているものだ。
「えー。これくらいダメなのかよー」
「ダメというか……。うーん、そうだねぇ。じゃあ逆にボクがブラジャーが見えるくらいボタンを開けていたら一季はどうするの?」
「えっ、ガン見するけど」
一季は当然とばかりに顔色ひとつ変えず即答。
相変わらず、そういった感想が出るのは世界中の男子を探しても一季ぐらいなのは置いといて……。
「一季がそう思うように女性側からしてもそういう目線で見てしまうからシャツのボタンはちゃんと閉めようね? 分かったら返事は?」
「はーい」
ボクが分かりやすく砕いた説明をすると一季は理解したのか、シャツのボタンを閉める。
でもあくまでボクが注意したから従っただけで無防備なところは変わってない。
一季は他の男子と違って女性に対して恐怖心や警戒心がない。
それどころか自分から気さくに話しかける。
それはいいことだと思うし、女性側からしても貴重なことであり、接しやすいし何より、嬉しい。
でも……女性に対して危機感が全くないのもどうかと思う。
ボク、佐宮彼方には家が隣同士であり、女性に対して危機感0というある意味凄い幼馴染がいる。
「いやー、今日も楽しい学校生活の始まりだなぁ〜」
それがボクの隣に並んで歩くこの男、更科一季だ。
黒髪黒目で中肉中背。
最近はランニングや筋トレを始めたらしい。
一季の外見は幼馴染目線として贔屓目で見てあげたいけど……イケメンかと言われるとそうではないかな。
でもイケメンかどうかは正直関係ない。
顔が1番大事ではないし、何よりボクは彼の外見含めて好きである。
でも今は色々と準備不足なので彼にその気持ちを伝えるのはまだ先になりそうだ。
ボクと一季が学校へ向かうように他の人たちにとっても通勤通学の時間帯。
行き交う人も多くなってきて、ピシッとスーツが決まった姿のOLや制服を着崩した女子高生がよく視界に入るようになってきた。
「お、おはようございますー」
「おはよう〜。そこの男子の君〜」
中には、男子である一季に対して挨拶する女性もたちもいる。
普通の男子なら話しかけられた時点でビクッと怯えてしまうか、あからさまに嫌な表情をするのだが……。
「おはようございます。今日もお互い1日頑張りましょう!」
一季は笑みまで添えて律儀に挨拶を返した。
いや、律儀というよりこれが彼の素だから。
一季は気づいていないだろうが、この通学路を使用する女性の数が以前よりも多くなっている。
きっと、男子に挨拶をしても嫌な顔一つせず、むしろ笑みを浮かべた挨拶が返ってくるということに味を占めた女性たちの間で噂になったのだろう。
今後も一季目当てにこの通学路を使用する女性が増えるようなら、見過ごせないね。
ボクは一季の幼馴染でもあり、高校に入ってからは同伴者でもある。
同伴者はボディーガードも要素も含まれている。
「一季。目が合った女性たちに挨拶するのはほどほどに、ボクに構ってよ」
「分かった。昨日見たテレビの話でもするわ。昨日はなぁ———」
楽しそうに話し始める一季をボクは微笑ましくも、やれやれと呆れる。
やっぱり一季は女性に対して危機感が全くない。
行動が限られて予測しやすい男子とは違い、一季は行動全てが予想の斜め上をいくタイプ。
正直、一季の行動に全部ツッコミを入れたいけど、そうすると彼の自由を奪うことになる。
それだけは嫌だ。
誰にでも気さくで明るいという一季の魅力的な部分を潰すことになる。
そして、注意ばかりにしているボクでは一季がうざったく感じるのも時間の問題。
最悪、嫌われる。
かと言って、無防備な一季が痴女に襲われるような事態になれば困る。
色んな思考を巡らせた時、ボクはふと思ったのだった。
————これは外堀から埋めた方が早いかもしれない、と。
外堀と言っても、一季に頼ってもらえるように普段から色々とフォローしたり、一季のお母様から信頼されるように務めたり……。
一季と2人っきりで遊ぶような時は必死に理性を抑えていたりする。
そんな地道なことの積み重ね。
でもそれが効果があると実感したのは———
『頼む彼方! お前しか頼れる人がいないないんだ! 俺が共学の高校に通えるように一緒に説得してくれないか!』
一季が共学に行きたいから一緒に説得してくれとボクに頼み込み、お母様に説得したところ、ボクが同伴者として一緒にいてくれるならと言ってくれた時。
あの時は何よりも嬉しかったし、これからは彼を隣で守ることができると……独占欲みたいなものも湧いた。
「じゃあ休み時間になったらまた会おうぜー」
学校に着き、自分のクラスに入っていく一季をにこやかな笑みで見届ける。
ボクが外堀を埋め、頼れる幼馴染という地位にいる理由は他にもある。
「それにボク以外にも一季のことだけが好きな女子はいるし……その時にきっと役に立つからね」
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