第4話

「はい、これでまたボクの勝ち」

「ちょっ!? あっ、ああああああああああ!!!」


 反撃も虚しく、俺の使用キャラが彼方のキャラによってトドメの一撃を喰らった。


 ただ今、彼方の部屋にて大乱闘ゲーム対戦中である。

 叫びすぎて喉が若干痛いが、なぜ叫んでいたかというと彼方に容赦なくフルボッコにされていたから。


「また俺の負けかよ!?」

「いやーっ。やっぱりゲームって楽しいね?」


 勝ち誇った笑顔を俺に向けてくる彼方。


「めちゃくちゃいい笑顔だなぁ!? くっそー! 次こそは俺が勝つ!!」

 

 ここまで彼方は全勝中。俺は全敗中。

 一矢報いるためにもキャラを変えようと操作している俺に対して、彼方はゲーム機を置いてスマホに視線をずらした。


「あっ、次の一戦がどうやらラストになりそうかな」

「なんで!?」


 目線の先にあった置き時計を見れば、18時。

 俺としてはあと1時間ぶっ通しでゲームをするものと思っていたのだが……。


「ほら、この通り」

「ん?」


 彼方がスマホ画面をこちらに向けてきた。

 画面に映るのは、『今日もお仕事頑張ったよ〜。ままを褒めていっくん〜!』と母さんからのメッセージ。


「ああ、なるほど。これは母さんのそろそろ帰ってきて欲しいの意味だな」


 こういうメッセージを送る時の母さんはお疲れモードの時だ。


「じゃあ早く家に帰ってお母様を労ってあげないとね」

「そうだな。俺にできることと言えば、料理の手伝いや風呂掃除……今日は肩揉みもした方が良さげかな」

「うん、いいと思うよ。最後にはちゃんと普段の感謝を伝えるんだよ」

「おう、もちろんだっ」


 俺の返事に彼方はふわりとした笑みを浮かべた。 


 そして俺に見せていたスマホを自分の横に置く。

 そう。今の文面は俺のスマホではなく、彼方のスマホに送られたものだ。


「……って、今更だが俺宛のメールがなんで彼方に送られているんだよ!?」

「ボクが一季の幼馴染だからさ」

「いや、俺宛のメッセージが幼馴染の方に来るのおかしくない!?」


 少し前から母さんは俺宛のメッセージを何故か彼方に送ることが多くなった。

 

「だって一季は一度、夢中になるとその他のことは疎かになりがちだろう?」

「まあ……否定はしない!」


 現にゲームに熱中していてスマホを家に置いてきたことを今思い出したし。


「正直で偉いね。だから代わりに幼馴染のボクが連絡を貰っているというわけだ。ボクたちはいつも一緒にいるし、一季宛の連絡をボクが貰ってもあまり変わらないと思うからさ」

「いや、変わると思うけど!」


 だって母さんは彼方にメッセージを見られるわけだし。


 それだけ母さんは彼方のことを信頼しているってことだろう。

 彼方のことを信頼しているからこそ、俺は共学の学校に通えているし。


 前世では幼馴染という存在はいなかったが、やっぱり幼馴染って親からも信頼されているものなのかぁ。


「じゃあ少し休憩を挟んだ後、ラストゲームといこうか」

「おう、負けねぇぞ!」


 そう意気込んだものの、ラストゲームも惨敗する俺であった。


◆◆


「かなちゃ〜ん。今日もいっくんのこと、ありがとうね〜」

「こちらこそ一季をお預かりいたしました」

「かなちゃんはしっかりしているわねぇ〜。いっくんにもかなちゃんみたいな落ち着きが欲しいわ〜」


 玄関先でそんな会話を交わしている母さんと彼方。

 あと母さん、ごめん。俺、自分の欲に正直だから落ち着くのは当分、無理だと思う。


「一季に落ち着き……ですか。ボクは騒がしいままの彼でいいと思いますよ」

「か、彼方……!」


 褒められているかは分からんが、とりあえず俺に落ち着きはいらんと言れているものなので喜んでおく。


 と、続きがあるように彼方は口を開き。


「だってほら、何考えているか分かりやすいじゃないですか。とても扱いやすいですしね」

「ねぇ、それ褒めてるの!?」

「ふふっ。かなちゃんはいっくんのこと、見事に手懐けているものねぇ〜」

「俺は犬かなっ。わんわんっ」

「可愛い〜〜!」


 母さんがパシャパシャパシャとスマホのカメラで俺のことを連写している。

 気持ちが複雑!!


 ちらりと横目で彼方の姿を見る。 

 今はラフなルームウェアだが、それすらも彼方にかかれば、お洒落に見える。

 

 彼方はイケメン美少女で面倒見は良く、人望も厚い。

 幼馴染という贔屓目を抜いても、かなりのハイスペック美少女だ。


 そんな彼方と家が隣同士で幼馴染という関係は最高に恵まれているが……それ以上のことはなさそうだ。


 だって、貞操逆転世界の女子は肉食系が多い。

 もしも、彼方が俺に気があるのならもっとグイグイ攻めているはず。

 それこそ、男女2人っきりで遊んで何もなかっただなんてことはないはず。


「また明日ね、一季」

「おう、また明日なー」


 こうして幼馴染とのな1日は終わるのだった。



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