私とダンスを

「嫌がっているのがみてわからない?」

「ちゃんと返事は貰いましかたが?」

「貴方の手をまだこの子は取ってなかったわ。それならまだ、了承を貰ってないのではなくて?」

「ちっ」


 赤いドレスの女性がチャラ男を言い負かしてくれた。


「ありがとうございました」

「いいえ。それにしても、よく似合っているわ。やっぱりマダムと話し合いを重ねただけあるわ!!」


 興奮する女性を見て、知り合いではないと思っていた女性があの人と被る。


「もしかして、レティシア?さん?」

「あら、気づいてなかったの?」


 だって、いつもズボンスタイルの団服だし、化粧もバッチリしてるから……すみません。


「あら?アレンは?」

「あちらで御姉様方に囲まれてる」

「もう!!役立たずなんだから!!」

「なんか、役があったの?」

「虫除けよ?」

「虫」

「今絡まれたばかりでしょう?」


 なるほど。

つまりお互い虫除けだったのだな、と納得する。

 アレンは御姉様方から逃げ回っている。

私は変なのに絡まれない様にお守役がついていたと言うことか。


「まぁ、いいわ。私たちは私たちで楽しみましょう」


 見ているだけで十分なのだが。

 夜会は交流がメインとされているらしく、あちらこちらで知り合いにあっては話し込む人がいる。

 そして中央は踊るスペースとされ、なん組か踊っている。

 軽食コーナーには、それを目当てに来たであろう、ふくよかな人たちが集まっている。


「楽しみの視点がずれている気がするわ」


 気のせいじゃない?

 そんな話をしていると、曲調が変わったことに気がつく。

 たしか踊りが一番簡単なやつ。

 でも、なんか雰囲気が違うような……?


「あら、この曲。ねぇ、私と踊らない?」

「はい?」


 二回目のシャル・ウィ・ダンスも意味がわからなかった。


「この曲はね、一回しか流れないのよ。し、か、も!!仲よしのお友だちと踊れるのよ」

「……へー?」

「わかってないわね?仲よしの友だちは、基本「同性」なのよ」

「……ほー?」

「つまり、無礼講なのよ。異性と踊りたくない人がノルマの一曲が踊れるのよ。勢いと度胸があれば!!」


 いやー、最後の一言が微妙ですが。


「というわけで、一曲踊りましょう?」


 ノルマの一曲が消化されるのは魅力的である。


 しかし。


「私、女パートしか踊れない」

「もちろん。私が相手パートを踊るわ」

「踊れるの?」

「踊りの最中、相手の動きをみていれば覚えるわ」


 理由が脳筋っぽいぞ。


「とにかく行くわよ!」


 ここまで来たら覚悟を決めて、諦めて、今度はレティシアの手を取ったのだった。

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