さぁ、踊りましょう

 てか、なんでアレンと会場に入らなくてはいけないの?

 ほかにエスコート役はいなかったのか?

知らない人が来ても困るけど、ほんとに他にいなかったのかなぁ。

 その疑問を抱いた時にはすでに遅く、部屋の中に入っていた。

 キラキラした室内にキラキラと着飾った人たちがたくさんいた。

 そしてその人たちが一斉にこちらを見る。


 帰りたい……吐きそう……死にたい……

 視線恐怖症気味の私からすれば、この瞬間が結構な恐怖なのである。


『なにあの子?場違いにも程があるわ』

『うわっ。よくあのレベルで来ようと思ったな』


 勝手に私の中で幻聴が聞こえる、気がする。

 そしてドドドドドと音が聞こえるのではないかという勢いで、キラキラドレスたちが迫ってくる。

 そのドレス集団はアレンを囲み、話しかけている。

 アレンは困ったように引いている。


 頑張れ。

 私はすみに移動するよ。


 そっと壁まで移動する。

 壁に引っ付いて気配を薄くする。


 本当は完全に気配を絶ちたいが、やめろと言われているし、ぶつかられる確率が高くなるので、薄くすることにする。

 こういう調節が出来るようになったなぁ、と自画自讃。


 そして引いて見ると見えることがある。

 先ほどのいたい視線は、『場違いなんじゃない?』視線とアレンの隣に『なんであんたがいるのよ』視線が混ざっていたのだろう。


 あとは、皆さんが着ている服を眺める。

 ドレスにも流行りがあるんだなぁ、なんて見ていると横から声をかけられる。


「お嬢さん、こんばんは」


 みれば派手な色使いの服を着た、これぞチャラ男が立っていた。


 うわっ、やっぱり気配を絶っておけばよかった。

 交流をちょっとでもしていけたら、なんて思うんじゃなかった。


「はじめまして、うんちゃらこうちゃら」


 全然聞く気がなく、彼の言葉の全てが右から左へ流れていく。

 結局何を話しているかわからないし、全然頭に入ってこない。

 でもはじめましての人だからこそ、愛想笑いというものを浮かべる。

 日本人特有の曖昧な笑みもやはり、遺伝子に組み込まれているようで自然にできるものである。


「はぁ」「まぁ」など適当に返事をしていると、


「では、一曲お願いできますか?」

「はい?」


 いきなりのシャル・ウィ・ダンスである。


 話の流れは踊る感じじゃなかったと思うんだけど。


 聞いてなかったけど。


 しかも、私の疑問系の返事を「yes」と取ったらしいチャラ男は、私の手を取る。


 え、踊りませんけど?


 さぁ行くぞとばかりに手を引っ張ろうとするチャラ男に何とか意地でも動かないように踏ん張ろうとする。

 しかし、履き慣れないハイヒールのせいでうまくいかない。


 不味いぞ。

知らない人と踊るなんてハードル高すぎる。


 どうにかならないかと脳みそをフル回転させる。

 そこへ細身の赤いドレスの女性が割って入ってきた。

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