悲しみも、苦しみも

 私には、二つ上の姉がいる。

 両親との四人暮らしだった。


 父は、仕事人間であまり家にいなかった。

 休みの日も家にいたとしても疲れているのか、いつも寝ていた。無口な人だった。


 母は、心配性で考えすぎる人で、心の弱い人だった。

 専業主婦で家にいる割りに家事の苦手な人だった。たぶん、人付き合いも得意ではなかっただろう。


 姉は、母とよく似ていた。心配性で考えすぎる人で心の弱い人だった。

 母以上に人付き合いが苦手で、そして嘘が苦手で隠し事ができない人だった。


 たぶん、小さいときは普通だったと思う。


 普通に会話のある、普通の家庭。

 姉妹を分け隔てなく接していたと思う。


 私が異変に気づいたのは、小学三年生の時。


 姉が学校に行きたくないとか遅れていくとかしだして、同じように兄弟のいる子に「お前のねーちゃんいじめられてる」と教えられたのだ。


 それから、よくよく姉の様子を見ていると色々なことが見えてきた。


 明らかに私に対してと違う対応をする母にも気づいた。


 母は、姉の友達関係を何とかしようと友達を呼んで誕生日パーティーをしたり、話しかける話題など明らかに気を使ったりしていた。


 私にはそんなことしてくれたことないのに!ということが、良く良く考えてみればたくさんあった。


 気づかなければ良かったのに、気づいてしまったら次々と違うことが見えてきてしまう。


 そして姉は何かを悩んでいると隠そうとするが、それは誰の目にも丸わかりなぐらい全然隠せていなかった。

 それを見て、母は気を揉み、でも踏み込んで行けず、おろおろとするばかりだった。

 そして、母もそのおろおろを隠せない。


 そんな母を見て姉も心配をかけている自分を責める。


 バカみたいにお互いに気を使いあって、隠そうとして隠せていないのだった。


 しかし、それを私から指摘することはしなかった。


 理由は簡単。

 母も姉も脆いことを知っていたから。


 それよりも、問題を起こさないように、迷惑をかけないように、真面目に日々を過ごすことを努力した。


 努力の甲斐あってか、そのうちあの人から掛けられる言葉は、


「貴女は、良い子ね」

「貴女のことは、なにも心配してないわ」

「貴女は一人でも大丈夫よね」


 だった。


 それは、呪いの言葉だった。

 あの人が私に関わる時間はどんどん短くなっていたけれど、役に立てているのならそれで良かった。

 邪魔をしていないのなら、それで良かった。

 安心をしてくれなるなら、それで良かった。


 そのうち私は姉と違って隠し事が上手くなっていった。

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