第2話 目覚めの朝①

 ───朝か。ふむ、どうやら思いの外早くに起きてしまったようだな。

 ならばやるべき事事を先にやって置くとするか。


 俺は立ち上がり、ベットの横に立つ。

 未だに床は肌寒く、少しだけ布団から出た事を後悔しなくも無かった。


「───祝銘ギフト起動ロード!我が魂に刻まれた祝詞のりとよ!……我が手の中にその意を示せ!───『理想人理編纂者デッドエンド』!!」


 俺の言葉に合わせて、手の中に突如として本が出現する。それを俺は手に取り開きながら更に言い放つ。


編纂エディット───開始スタート!!……さてと」


 空間から色彩が消失した。

 先程まで、豪華なベッドやテーブルなどが置いてあった自室は……今やあっという間にモノクロの世界へと変質してしまった。


 だがそこは気にすることでは無い。俺は輪郭だけの椅子を手繰り寄せる。

 それに腰掛けながら次の動作に移行するとしよう。


「まずは整理する所から始めよう。何事も散らかっていてはやる気が起きないからね!」


 そう。

 俺が先ずやるべき行動は情報の整理整頓である。


 ピコン!

 自分の周りに妙にデジタルチックな画面が展開された。勿論これは編纂者の能力によるものだ。


「おっと、この世界の情報を教えてくれる大切な道具を忘れるところだった。……現出せよ───『世界記憶録アカシック・レコード』!!」


 本が現れた。否、それは確かに本の形をしてはいるが決して本などでは無い。

 それは無限の知識と、世界全ての事象を擬似的に情報として集合させただけのある意味インターネットのような物だ。

 そして常人は触れることすら許されぬ。


 まぁ俺は常人では無いのでな、遠慮なく触るが。


「ッ!───なるほど、これは中々」


 バチッ!音がして頭の中に無数の情報が奔流となって流れ込む。もし常人がこの状態になった場合、完結しない情報の奔流によって廃人まっしぐらであろう。


 だが俺はそうはならない。何故なら何度も言うが常人じゃないからだ!


 *


 やがて俺は静かに本を半開きにしながら、手に入れた情報を口に出して整理する事にした。

 ちなみ口に出す理由は趣味だ。あくまでも無駄な行動ではあるが、案外やってみるとスッキリするのだ。

「───我が名は『アーテル・アルフォンス・アルベリヒ』……アーテル公アルベリヒ家長男である我が命ずる。隠匿されし神秘ミステルを紐解こうではないか!!」


 アルフォンスの言葉に合わせて、本が更に輝きを増した。


「ではまずは───この世界だな。ふむ、ここは太陽系から約12000光年離れたブラックホールの反対側?ホワイトホールを経由した反転した世界」

「そこの中の太陽系に類似した特徴を持つ惑星系の中の地球見たいな星。……なるほど?まァつまるところ───【何処かの宇宙の地球そっくりな星】って事だな」


 続けて俺は本をめくる。


「この世界の誕生は今から約46億年程前───あ〜ここからは地球の誕生の仕方と何ら変わりないな。それは重要じゃないから飛ばすとして───なるほど、この世界が元いた世界と異なっている点はここか」


 そういうと俺はアカシック・レコードが変質した本のとあるページを指でつつく。


『 魔力』か。正しくは魔力と、『神秘』だな。


 世界に満ちていた魔力は見えないものとしてこの星に存在していたが、アガートランティス人と呼ばれる種族がある時それを利用することを思いついたと。

 そうして隠匿されていた魔力は、手の届くものになったということらしい。

 その後アガートランティスは数千年の栄華を極めたが、ある時内戦が勃発。そして全面戦争を起こして滅亡───だがその亡骸は全て淀んだ神秘と魔力により汚染され……そして彼等は『 魔物』となったのだ


 ……ふうむ、なんと言うか迷惑な話だと思うのは俺だけなのだろうか?

 ちなみにこの世界はその魔物のせいで割と滅亡まじかである。


 俺は更に本から得た情報を目の前の空間にデータログとして展開していくことにする。

 薄いエーテル粒子により形成されたウィンドウが次々と眼前に表示されていく。


 *


 現在(王律歴1102年)、人類が生存できる領域は20%。つまるところ残り80%は魔物のものということになる。


 ううむ、こうして見ると本当に終わっているな。1000年近く戦ってもなお……まるで取り返せていないとか、普通に世界レベルが低すぎるというものだよ。


 ちなみに本来はすぐ滅ぶはずだったようなのだが、そこで異世界から勇者が呼び出されたんだとさ。

 何やら勇者くんはチート能力を全力で利用して、世界を救おうと努力したんだってさ〜。


 ……した、何だよなあ。出来てないんだよね。


 *


 一応擁護するとしたら……彼はこの世界の人間じゃなかったって所かな?

 結局世界を救うのはにしか出来なかったということさ。


 そこで勇者くんは自分の命と能力を犠牲にして、この世界に満ちていた魔力と神秘を再び融合させて『祝銘』と呼ばれる魔物に抗う為の力を用立てたのだと。

 あと彼はこの世界のぐちゃぐちゃだったシステムを全部直して、正しい人道やら生き方やら政治システムを使って行ったらしい。

 どんだけ有能なんだか……。


 そして彼は自分の弟子……八人の活躍した男達をそれぞれ公爵に任命し、そして死んだのだと。


 現在この国ルガリクスは君主制の政治形態であり、勇者の息子の家系である、ルガリクス・ルシウス・ルーズベルト(21代目の国王)が支配している。


 あとは───おっと?


 どうやら家の人間が起きてきてしまっているようだ。これ以上この空間を展開していると、万が一間違って入ってきたら大惨事になりかねない……。


 名残惜しいが、一旦元に戻すか。


 そう言うと、アルフォンスは本を閉じる。途端にモノクロからカラーに視界が巻き戻っていく。

 そうして、全てが元通りになったあと俺はすぐに布団に潜りながら次にやるべきことを考える事にした。


 *


 ここか異世界である事、そして自分が異世界転生者であることを既に俺は知っている。

 そしてこの世界において、されたら割かし辛い事も知っている。


 何より……公爵令息という立場は、そうそう手に入れられるものでは無い。故にこの立場は絶対に失うべきでは無い。


 ……どうする?

 などと悩む程俺は暇人じゃない。


 まぁまずは報告だよな。父親であるアーテル・アルバート・アルベリヒ公に自分の能力を説明……いや待て?


 多分だが俺の能力を馬鹿正直に説明したら、ダメな予感がするぞ?───チッ、『量子演算開始』!あぁ、やっぱり!


 そう。俺が所有する祝銘は『理想人理編纂者デッドエンド』。

 そしてこの祝銘は……あまりにも完璧で万能過ぎるのだ。



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