第25話「未知への出港」




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 トマトさんが食堂で乙女の尊厳を吐き出してパインたんを泣かせた事件から一時間後、俺と美弓はクーゲルシュライバーの共用施設の一つであるシアタールームにやって来ていた。ここにいるのは二人だけ。この情報もあとで共有するつもりだが、話す内容のほとんどが繰り返しになるのでユキたちには先に帰ってもらっている。


「それで、なんでシアタールームですか? そこら辺の客室で良かったんじゃ……。もう見学者いないみたいですし、どこでも密室ですよ。いやらしい声を上げても誰も来ませんから問題ありません。問題ありません」

「大事な事でもないし、二度言う必要はない」


 そもそも、はっきりと問題あるわ。トマトちゃん軍団のようにまだ未知の手を持っているかもしれない以上、俺の貞操を危険に晒す事などできない。


「というか、酸性のキツイ臭いのする子はちょっと……」

「ぬわっ!? だ、大丈夫ですって。トマトちゃんはゲロの臭いもフローラル! 乙女の香りプンプンですっ!!」

「乙女がゲロ言うな。……つーか、それ極大ダメージ喰らったパインたんの前でも言えるの?」


 サバンナのライオンさんも怒っちゃうぞ。


「もちろんです! 言って逆襲されるまでがセットなので!!」


 ……駄目じゃん。

 ユキたちと同様、パインたんも船内のシャワーを借りたあと予備の服に着替えて帰宅済みだ。最後まで目を合わせてくれなかったので、かなり怒っているとみていいだろう。……いや、ほんとごめんなさい。憂さ晴らしはこの赤い野菜相手にお願いします。


「というか、言われて気付いたが臭いはしないな。別にフローラルな香りもせんが」

「臭い消しのマジックアイテム使いました。スネーク行為のために常備してるので」


 ああ、そういやこいつ潜入とか暗殺してるんだっけか。そういう物を持っててもおかしくないか。

 ……まさか、パインたんもちゃんと消臭してあげたんだよな?


「まあ、お前の体臭に関しては特に興味もないから置いておくとして……本題だ」

「乙女なのであんまり体臭の話したくないですしね!」


 お前が乙女かどうかは議論を交わす必要があると思うが、いちいち突っ込んでいられない。


「……実は、前世の話とは別件で見せたい映像がある。ここに来たのはそのためだ」


 現状、当たり前だがシアタールームは映画館として営業していない。食堂のように試験的な運用をする予定もなかったここを借りれたのは、引率者であるヴェルナーの口添えによるものだ。

 見せたい映像は当然崩壊した星である。個室にもモニタはあるが、崩壊する星の映像をインパクトを重視するならこちらのほうがいいだろう。ただでさえ納得し難い内容なのだから、せめて勢いをつけたい。


「映像?」

「こいつだ」


 スクリーン上に用意した映像を表示する。専用の機材も別室にあるようなのだが、リモコンに記録媒体……この場合はステータスカードを入れて選択すればいいだけだからお手軽である。

 一瞬、ここで間違ってサージェスの悶絶映像を流せば美弓を動揺させる事ができるなとも考えたが、まったく意味がない上にシリアス成分が霧散してしまうので、慎重に例の映像を選択した。

 俺のステータスカードには何故だか分からないが、奴の動画データが保管されている。クラン員に向けて一部共有領域を公開している事が原因なのだろうが、ウィルスのように消しても消してもいつの間にか追加されているので諦めている状態なのだ。奴だけ弾くわけにもいかないし、それが分かっているのか動画のチョイスも冒険者活動にギリギリ役立ちそうなものばかりなのだ。……本当にウチのドMさんはタチが悪い。そして、今は本当に関係がない。テストには出ないから忘れてもいい。


「なんかの惑星ですか? 地球……じゃないですよね」


 少々の葛藤の末、巨大スクリーンに映し出されるのは崩壊した惑星。もう飽きるほど目にしたのに、この正体を知っていると嫌な気分になる。


「この星だ」

「は?」

「俺たちが今立ってる場所だ」

「……ちょっと何言ってるのか分からないですね。つまり、再現映像か何かで?」

「まあ、そういう反応になるだろうな」


 いきなりこんなものを見せても結論が導き出せるはずもない。というか、現時点で崩壊しているわけでも予兆があるわけでもなく、映像だけ見せられて信じてしまうのは逆に問題だろう。この映像はあくまで情報補完なのである。


「結論から言えば、これは未来人からもらった映像で、この星の行く末を映像として残したものだ」

「……異世界人がいるから未来人がいてもおかしくないとは思いますが、いきなりそんな事を言われても受け入れ難いというか……。いえ、可能性なら普通に有り得るとは思ってるんですけど、少なくとも前例はないので」


 意外な話だが、未来人と遭遇する可能性自体は否定しないらしい。表情も真面目モードの美弓だから、ボケてるわけでもないんだろう。


「ちなみに、何故未来人がいる可能性があるって?」

「過去へ逆行したりはできませんけど時間操作自体はダンジョンでやってますし、転生システムだって時間を無視してます。この世界の未来から転生して来た人は確認されていませんけど、有り得ない話じゃないだろうとは昔から言われてたんです」

「そういや、同じ世界で違う時間軸から来た例はあるんだったな」


 確か、江戸時代から転生して来た人がいたとかなんとか。地球に限定しなければ例はもっとあるんだろう。


「なら少し話は早い。最近の話なんだが、俺は平行世界の未来から来た宇宙人と接触した。転生じゃなく、そのまま来た奴だ」

「あ、あれ? なんか属性が増えてません?」

「一番重要なのは未来から来たって事だからな。ちなみに全部マジだ。少なくとも俺やダンマスはそう思っている」

「杵築さんも承知の上か……。ひょっとして、ここ最近の慌ただしい流れは……」


 うん、話が早い。


「正解だ。全部これに対応するための準備ってわけだ。……つまり、一ヶ月以内にこの星は崩壊する」

「……え、ギャグ?」

「その口ぶりだと分かってるんだろうが、大マジだ。この異世界行きも保険のために避難所を造るのが本来の目的だったりする」

「……あ、はは……やば、これマジだ」


 内容として信じられないものなのだろうが、俺の雰囲気から察したらしい。腐れ縁とはいえ付き合いが長いのは、こういう時は助かる。

 それでなくとも、こいつは昔から真実を真実と見抜く事は得意だ。嘘を見抜くのは苦手だが。


「さて、この大前提を踏まえてだ。……俺たちの前世について、俺の死にまつわる呪いについて話をしていきたいと思う」

「は、はい……」


 それが関係あるのかという顔をしているが、とりあえず聞いてみる事にしたらしい。



 そんなわけで、美弓には要点をまとめてこれまでの事を説明した。最近同じ事ばっかり話してるので、説明も慣れたものだ。


「というわけだ。切羽詰まってるのは分かったか?」


 美弓は真面目な顔でこちらを見ている。話を遮る事を避けたのか、途中に質問すら挟まなかった。

 こいつは元々真面目な場面では真面目に対応する性格だから、こちらが悩んでいる事が伝わればちゃんと話を聞く。理解も早い。ユキとはまた違った視点で情報を噛み砕く資質を備えている。でも、それを褒めたりはしない。


「……状況がぶっ飛び過ぎてて理解が追いついてるとは言い難いですが、なんとか。冗談じゃなさそうってのも。……この異世界行きにはそういう裏があったって事ですね。随分急なのも納得しました」

「保険として皇龍の世界に避難所を造る方向で進めているが、対策自体はダンマスに任せっぱなしってのが現状だ。ダンマスもほぼ投入可能な全力で事に当たってるようだが、未知の部分が多過ぎて正解が導き出せない」


 俺自身、妙な確信はあっても状況を掴めていない。上手く説明もできないだろう。美弓にもその前提で話をするしかない。

 ……ただ一つ思うのは、俺が崩壊の原因を知っているとして、今の時点で思い出せないのはそれなりの理由があるのだろうという事。

 この場合考えられるのは、原因を知る事が回避に繋がらない可能性、逆に知らないほうが状況は好転するって可能性、……そして問題なのはダンマスが懸念していた俺だけが避難して生き延びる可能性だ。知れば俺が逃げ出さないような原因なら、因果の獣は隠すだろう。

 だからといって、ただそのままこの世界にいれば《 因果の虜囚 》が上手く崩壊を回避するよう導いてくれるなんて事はない。おそらく俺と皇龍にしか分からないだろうがアレの本質はそういうもので、諦めよう、自殺しようという者を引き止めようとはしない。多分、生きるために足掻く事をやめたらそのまま死ぬ。アレが求めているのは、苦難を乗り越えて成長し続け、最終的に看守を滅ぼす虜囚なのだから。


「それで、センパイはなんであたしたちの前世がそれに関係してくると? ここまでの話だと、なんにも繋がらない気がするんですが」

「根拠としては実に馬鹿らしいが勘だ。……妙に確信だけが先に立つ勘。抜け落ちた情報がそれを確信させる何かなんだろうが、ポッカリ穴が開いてるから変な事になっている。だからこうして、わずかでもそれを埋める可能性を持っているお前に聞いてるんだ」


 いつになく真面目な表情で美弓は考え込む。散らかった情報を整理しているのだろうが、時間制限があるわけでもないのでそのまま続けさせる。時間にしたら数分程度のあと、問答が始まった。


「あんな記憶、思い出しても辛いだけで……思い出さないほうが幸せになれると思ったんだけどな……」

「それは俺も同感だが、そうも言ってられん。転生した事でリセットされたように見えても、俺たちの道は続いてるんだ。繋がってる」


 容姿も違えば生きる場所も違うが、別人ではない。因果を背負って生まれて来てしまった以上、それと向き合う必要がある。そうしなければいけないように仕向けられている。

 こうして説明しても《 因果の虜囚 》が美弓のギフトには現れたりしないのは、やはり植え付けられていないからなのだろうが、これは俺だけでなく関係者すべてを巻き込んでいく呪いなのだ。転生したからといって、あの地獄を体験した者が容易に逃れられるとも思えない。


「まず、そこまで思い出しているなら分かると思いますが、あたしはセンパイ……前世の渡辺綱の最後について知りません。その場にはいなかったので。……なので、話せる事はそう多くないと思います」

「そうだな。お前とは群馬県に放置したところでそれっきりのはずだ。……あのあと、お前はどうしたんだ? ここにいる以上、死んだのは確かだろうが」


 転生が死んだ時期を超越するものなら寿命で死んでても変じゃないのだろうが、あの状況でそれはないだろう。

 ひょっとしたらあの山の奥にでもいたのだろうか。いまだにそういう細かい部分の記憶は戻っていないが、そもそも記憶していないという事はありそうだ。あの時の俺は慢性的な極限状態で、辛うじて意識を保っているような状態だったのだから。


「まさか置き去りにされると思いませんでしたけどね。泣いてばっかりだったので時間は良く分かりませんけど、多分センパイが東京に辿り着く前には死にました」

「……そっか」


 言われて気付いたが、やっぱりショックを受けてるな俺。

 最終的に放り出したとはいえ、死なせないために必死になっていたのだ。それが、自分より早く死んでたってのは少しキツイ。


「死因は覚えてるか?」

「さて、どれが死因なのか……墜落死、爆死、ショック死、出血死のどれかだとは思いますけど、自分じゃ分かりません」

「……どういう状況だそれ」

「あのあと、顔ナシが接近して来たのを見つけたので、トラックで体当たりして崖から墜落したんです。……多分、殺せたと思います」


 壮絶過ぎるな、おい。直前までの無気力さはどこへ消えたというのだ。


「妙にアグレッシブだな。お前、動く気力もないような状態だったろ」


 半分以上、生きる事を諦めていたような状態だったはずだ。

 ……そもそも、あの世界に未来に希望を持っている奴がどれだけいたか。俺含め、世界が絶望と悪意に染め上げられていた。あの状況から生き残って復興させる気になる奴なんて世界的に見ても極少数だろうし、何かを残して死ぬという気になっていた奴だってほとんどいないだろう。それくらい、あの世界は終わっていた。どうしようもないほどに。


「その顔ナシ、レタスセンパイを食った奴だったんですよ」

「……仇討ちって事か」


 おそらく、俺がいたら美弓はやらなかっただろう。俺も、その他の誰もいない。止める奴がいないから、美弓は一人でも立ち上がった。……一人だから立ち上がったのだ。


「やっぱり、サラダ倶楽部の奴もいたんだな。言われても思い出せないし、どういう経緯でそこにいたのかも分からんが」

「私も分かりません。殺した顔ナシにしたって、見つけた時はただ憎いってだけで……そうだって知ったのは殺したあと……転生してからです」


 ……やはり、アレには何かルールがあるのか。美弓は多少なりともそれを理解しているように見える。


「逃避行の間、あたしたちは顔と名前を忘れる現象をなぜか"奪われた"って呼んでましたけど、それは正しかったんです。アレは文字通り殺した相手が持つ情報を奪ってる。殺した側がそれを継承しているんです。半分は憶測ですけど」


 殺した事によって情報を継承したから、レタスを殺した……食った奴だと思い出したと。

 憶測とは言っているが、それはおそらく正しい。……俺が伊月の名前を思い出したのもきっと……継承したからなのだ。伊月を殺してその情報を手に入れた奴を殺したか……あるいは、本人を殺害する事によって。

 だから、美弓の記憶に伊月は残っていない。忘れている事自体、伝えようとしたり連想させることさえ問題があって、抵抗しようとするとさっきみたいにゲロ吐く事になるわけか。俺がレタスの話を聞いてもそうならないのは、どこか無意識で受け入れているからなのだろう。


「憶測でいい。あの奪われる現象のルールについて、他に分かる事はあるか?」


 最近思い出した俺と違って、美弓の記憶は連続している。整理する時間もあったはずだ。


「あの現象の対象は二つ……本名と顔。それ以外にもあるのかもしれないですけど、分かるのはその二つだけです。このどちらかを奪われたものは、他者からそれだと認識されなくなります。ただ、そこまで強烈な制限をもたらすものではなく、誰だか分からないけど誰かとそういう事をしたって記憶はそのままで、関連するすべての記憶を失うわけではないのは確かです」

「だが、サラダ倶楽部の連中を覚えてるのは……ああ、あだ名だからか」

「厳密に言うと、ただ名前をもじったような愛称だと忘れるんじゃないでしょうか。あたしたちの場合、それぞれ別個に存在する食べ物の名前なので、そちらに引っ張られるんじゃないかと。レタスとか、言ってみれば人間と同じ野菜の種類であって固有の名称じゃないですし」


 だから、あの部活でした事も覚えてると。いや、結構忘れてはいるんだが、確かに完全に失ったという感じはしない。

 ……不可解で嫌悪すべき現象ではあるが、確かにそこまで強烈な縛りは感じない。


「俺はどうも伊月……ドレッシングの名前を覚えているみたいだが、顔が思い出せない。あの部活で覚えてるのはあとはお前とポテトだけだ。ついでに言うなら親父とかは覚えてるんだが、そこら辺のルールはどうなってると思う?」

「多分、名前と顔は個別に扱われてるんだと思います。あたしもレタスセンパイの顔だけで名前は思い出せませんし……。ポテトやあたしを覚えてるのは奪われてないからです。関係なく死んだ場合は発生しない現象のようなので。……当時、世界規模でパニックでしたから、関係なく死んだ人は大勢いると思います」


 伊月の名前を出したが、反応がないな。認識阻害……じゃないな。多分、言葉として認識はしてても結びついてないんだ。


「ポテトも?」

「あの子はその前に……高校の裏庭にお墓もあります。前に偽物の日本に行った時にもちゃんとありましたよ」


 ああ、天寿を全うした……かどうかは知らないが、とにかく妙な事に巻き込まれずに死んだのか。


「問題は覚えていない人で……誰が巻き込まれたのかも分からない。すごく親しかった人が無残に死んでいても記憶に残らない。ほんと最悪ですよ、この現象。……あたし、両親の事を思い出せないんです。兄弟姉妹なんて、いたかどうかも……」


 俺は……どうだ? 両親の事は覚えてる。それはいいが、それ以外に家族はいなかったか? 一人っ子だったと思っていたが、本当は兄弟がいたとしてもおかしくないのか? ……くそ、胸くそ悪い。悪趣味だ。


「それと、センパイの話を聞いて思った事があるんですが……これは本当に唯一の悪意って存在の仕業なんでしょうか」

「……何が言いたい?」


 これ、と言っているのは名前と顔を奪われた現象の事だろう。


「あの世界が終わった根本の原因は唯一の悪意って超存在が出現した事、それはいい。……だけど、あたしたちを襲った現象のすべてがそうだとは思えないんです。この名前や顔の話にしても、異質過ぎる。"悪意"なんて、感情だけで起きる現象とは思えない。……手が込み過ぎてる」

「…………」


 あまりに納得のいく疑問に、色々なものの輪郭がはっきりしたような気がした。……そして、それ以上にゾっとした。

 その予感と、そこから導き出される結論は、俺が行くべき道に更なる苦難をもたらすものだったから。


「唯一の悪意が固有の意思を持たない情報である。その前提があるなら、単独で動いている事はほぼ間違いないでしょう。……だけど、それに便乗している存在がいてもおかしくはない。……そんな気がしませんか?」

「……それが、あの名前や顔を奪う現象を引き起こしていたと?」


 もっと言うなら、亀裂の先から出てきたと思しき異形もそうだ。世界を滅ぼしたりその中から資格を持つ者を探すだけなら、悪意をバラ撒いて同士討ちを誘発するだけでいい。それだけで蠱毒は完成するのだから。


「憶測です。当たり前ですけど、根拠なんてこの違和感しかありません。だけど、全部が全部唯一の悪意のせいであるって考えるのも危険じゃないかって思うんです。……ましてや、それに至ろうとするのならば余計に」


 明確な敵。討ち滅ぼすべき存在を知った事で、それ以外に敵対する存在がいる可能性を見失っていた? アレに対する憎悪が目を曇らせていた? こうして指摘されれば、考慮しないほうがおかしい可能性だ。

 《 因果の虜囚 》を植え付けられた奴が第一に目指すのは唯一の悪意の消滅で、それは疑うべくもないルールだ。だが、その目標に至るために、唯一の悪意そのものを利用している奴がいないなんてどうして言える。

 強大な敵がいる。歯が立たない。立ち向かうための武器がない。ならどうする。

 ……相手を利用する。相手の武器を奪って使う。そんなの、別におかしな事じゃない。


 皇龍は俺を同胞と呼んだ。しかし究極のところ、その関係は最後の最後まで協力できる間柄じゃない。唯一の悪意に向ける憎悪は、誰かが代わりに完遂する事を許容できない。自身の手で成す事が前提にあるのだ。

 皇龍はそれらを理解した上で純粋に協力しようとしてるのだろう。そこを疑うつもりはない。だが、それ以外に……ライバルを排除しようという奴がいない保証なんてないのだ。いや、間違いなくいる。断言できる。レールの先にラスボスしかいないなんて、そんなはずはない。

 この話をした連中がそれを指摘しなかったのは、そんな事気付かないのがおかしいくらい当たり前の事だからだ。目が曇っているのは当の本人だけ。俺と皇龍だけがその可能性を考慮していない。……いや、俺だけかも。


「そんなわけで、あたしが提供できる情報なんてこの程度です。前世でも現世でも、センパイのほうが核心に迫ってる。最後の最後まで抗ったセンパイと違って、立ち向かえなかったあたしでは、それを忘れないように強がる事くらいしかできなかった」

「立ち向かったんだろ? レタスの顔を覚えてるのがその結果だ」

「……そうですね」


 失ったものに比べたら泣けるほどにささやかで、文字通り本当の断片だ。

 だけど、切れ端でもそれを取り戻した。それが意味ない事なんて絶対に言わないし、誰にも言わせない。


「前世については分かった。じゃあ、現在直面している問題についてだが……たとえば、ユキについてはどう思う? 外部から見て、あいつの存在は怪しいと思うか?」

「完全に知らないなら違った印象を受けるかもしれないですけど、あんまりユキちゃん自体がどうこうって感じはしないです。というか、ここまでセンパイの話を聞いて抱いた印象は……お助けユニットですね」

「お助けユニット?」

「はい。……星の崩壊やこの先に待っているであろう苦難、それらを乗り越えるために必要なものが本来センパイにはなかった。あるいは足りていなかった。一人ではどう足掻いても足りないそれを無理やり埋めるために用意した助っ人です。そういう存在を、《 因果の虜囚 》……というよりもセンパイ本人が必要としたのかもしれません」


 ……俺が? その前提だと、俺があいつを巻き込んだって事に……。


「それと、多分前提が間違ってます。本来あったらしい世界にいなかった存在。それが大きな影響を及ぼし、以降の展開を改変している。……それだけ見ると確かに怪しい。だけど、本来いないはずなのはユキちゃんだけじゃないですよね? きっかけはどうあれ、センパイの周りは平行世界のそれとは大きくかけ離れてます。それらは、すべてセンパイがこれから必要になる存在なんじゃないですか?」

「そりゃ……」


 もちろん必要だが、美弓が言っているのはそういう事じゃないんだろう。

 顕著なのはベレンヴァールと皇龍だ。あいつらは本来有り得ない場所に立っている。他の奴らもそうなのかもしれないが、それが必然であり、どうしても必要だったという前提なら……直近の苦難である惑星崩壊の鍵もその内の誰かが握っているという事に……。

 いや、その考えはどうなんだ。もしそうなら、本来いた存在……フィロスやゴーウェンは不要と判断された……いや、俺が判断したとでもいうのか? いなくなったわけじゃないから、そこまで極端な話ではないのかもしれないが……いや、いると不都合だったとか? 誰が……まさか、俺が?

 平行世界で冒険者をしている俺の話を聞くに、大抵の場合はフィロスもゴーウェンもパーティメンバーだ。ユキがそこに座った事で弾き飛ばされたとか? ……別に席に限りがある話ってわけでもないのに? パーティメンバーの枠は六人だが、< 鮮血の城 >の八人枠には真っ先に入れたような奴らだぞ。


「……まあ、頭の片隅には置いておく。ユキやベレンヴァールの立ち位置が重要なのは変わらないし」

「多分、苦難を乗り越えるためのピースは揃ってるんですよ。あとはそれをどう当てはめるかって段階なんじゃないかと思います。逆に、わざわざここまで捻じ曲げられた状態で対応できないなら、最初から目はないって事になりかねません。でも、どちらにしても大半の鍵を握るのはセンパイです。限界まで足掻かないと道が作れないというのなら、諦めたらそこで試合終了って事です」


 ユキもベレンヴァールも皇龍も、それ以外のすべては俺が自分に足りない穴を埋めるためにお膳立てしたピース……かもしれない。


「だが、俺に何ができると思う?」


 ここに至って、俺にできそうな事が見つからない。必死に食い下がるにしても、その対象が見つからない。ピースの嵌め方が分からない。俺が今できているのは、根拠の希薄な勘に頼って状況を観察する事くらいなのだ。どうしても後手に回らざるを得ない。


「分かりません。……分かりませんけど、センパイだけは最後まで諦めたらいけないんだと思います。どんな苦境でも、死の縁でも……いえ、ダンジョン外で死んだとしても諦めちゃ駄目って事です」

「死んだらさすがに試合終了じゃね?」


 ダンジョン外で死ねばゲームオーバーだ。さすがに白髪のバスケ部監督も続けろとは言わんだろ。


「あたしたちは冒険者です。意思が続く限り歩き続ける、自然の理から外れた外道の存在です。死は終わりじゃない。傷つこうが死のうが折れずに立ち上がるのが冒険者としての根本的な在り方です。……センパイは何よりも強くそれを求められている」


 生き返るシステムの有無に関わらず諦めるな。……それは、本来冒険者が共通で持っている意識だと。

 だが、俺だけは未だそれを実践せずにいる。どんな苦境だろうと立ち上がれる自信はある。渡辺綱はそういう風にできている。だが、実際にそれをしたわけでもなく、できると言い切れるだろうか。

 ……いや、それを試すためだけに死んでみるつもりはないが。ここまで死亡回数ゼロなのは、わりと自慢だし。


「死んでも、星が崩壊しても諦めんなって?」

「案外、それは試合終了の条件じゃないのかもしれませんよ。星が壊れようが、異世界への避難が失敗しようが、センパイ含めて全員死のうが、ありとあらゆるすべてを敵に回そうが、諦めなければ逆転の目はあるのかもしれません」


 そんな状態でどう足掻けって話だが……不屈の意思が先へ進む力になるのは、今までもこの身で体現してきた事だ。どんな状況だろうと諦めるつもりはない。

 ……いや、まさか死んだあとも《 因果の虜囚 》に縛られ続けるのか? 再度転生しても、永遠に足掻き続ける事を強制されるなんて冗談じゃないぞ。こんな呪いはこの生で終わりにしたいところだ。


「というか、センパイって本当に死ぬんですかね? 今のところ、どうやっても死にそうにないって言葉を体現しているような気が……。あ、でも転生してるし、一回は死んでるのか」

「その死因は左腕らしいが……お前、これどういう意味だと思う?」

「さあ……あの状況なら、体の一部が独立して反逆してくるのもあり得ない話じゃないですけど……」


 あり得なくはない。……そこら辺は同じ認識か。

 あの左腕が最終的にどうなったかは知らないが、振るっている最中も異形への変化を続けていた。突然歩き出す事もあるかもしれないし、単純に俺へ侵食したり突き刺さってくる事もありえる。……だが、もしそうだとして、それは死因と呼べるのだろうか。

 < 鮮血の城 >で見たユキやサージェスの死の瘴気は、関連する部位に集中していた。本当に左手が独立したとしても、死因というからには最終的な死亡の原因……たとえば、それが心臓に突き刺さったら瘴気が発生するのも心臓になるんじゃないだろうか。

 ……あるいは、本人の意識の問題というのもあり得るのか? 俺がそれを"死"と認識している事。それが理由なのだとしたら……< 渡辺綱の左腕 >は、俺にとってどれほどの"死"だったというのか。


「イザナミみたいに体の各所から変なもの生み出したとか? そしたらきっと、あたしは折雷に殺されちゃいますねー。めっちゃ弱点ですがな。いやーん」

「日本神話を下ネタに結びつけるんじゃありません」


 下品にもほどがある。そもそも俺、男だし。渡辺綱とも一切関係ない神話だし。……というか、俺の折雷でもお前からは逃げるわ。




-2-




 そうして時間は過ぎる。リミットは刻一刻と迫っているというのに表面上は平穏なもので、とりあえず最初の異世界行きは特筆する問題もなく迎えられるだろう。

 今回の件を話した相手とは引き続き対話を続けている。気になった事、思いついた事、些細な事でも何が解決に繋がるか分からないのでとにかく数をこなし、内容をまとめて共有している。媒体はエルシィさんが用意したという専用の掲示板とチャットだ。各所への調整と準備で忙しそうなのだが、たまにダンマスが乱入してくる事もあった。

 可能なら、このログだけでもエリカに送信したいものだ。原因を探るために観測は続けていると思うが、これがその範囲に入っているとも限らない。予備とはいえあと一度は平行世界に干渉する力を残しているのだから、ラストチャンスに役立てる事ができるかもしれないし。

 ……俺にとっては最初で最後なのが変わらないにしても、ただ一方的に助けられるだけでなく少しでも返礼はしたいところである。


 そんな日々が続く中で、崩壊の予兆ともいうべき地震が数回検知された。震源地は通常使っているセンサーでは場所を特定できないほど深部らしいが、予めそれを分かっている状態で待機していた事で震源地の特定に成功したらしい。

 ある程度の誤差はあるらしいが、震源地はこの大陸南部< 魔の大森林 >。それも、< 地殻穿道 >のある遺跡に近い。それだけで崩壊の原因と断定するには至らないが、少なくとも地震の原因はそこにある。それははっきりした。そして、そこに空間が断裂した箇所が複数検知されたそうだ。現地の亜神に伝えられていた伝承によるとそれはなんらかの結界らしいが、断裂した空間を超えて大地を揺らすような何かがそこにあるという事である。

 以前からその遺跡の正体について聞き込みは続けていたらしいが、守護者を名乗る亜神でも正確な事は知らないらしい。伝えられているのはただ、強大なる魔、大いなる力、災厄の根源、無に還すモノ、そういう危険なものが封印されているので決して触れるべからずという曖昧な伝承だけだそうだ。攻略に向けての交渉が難航していたのは、こういう問題があるからなのだとか。

 各地のダンジョンにはこういった伝承が多く、大規模なものは大抵亜神が守護者として管理しているそうだ。だが、伝承通りでなく攻略困難なダンジョンがあるだけというパターンがほとんどだったらしい。


『たとえば、お前が知っている< 鮮血の城 >。アレの元になったダンジョンには元々比類なき血の悪夢が眠るって伝承が伝えられていて、現地の人間からは決して触れてはならないと警告された。蓋を開けてみれば、確かにそこそこ難度の高いダンジョンがあって数百年単位でそこを根城にした存在もいたが、伝承ほどの脅威じゃなかった。……そんなケースが多い』

『そこを根城にしてたボスは、ダンマスたちが倒したって事か』

『いや、あそこを攻略したのはヴェルナーたち三人だ。威力偵察として突入してそのまま攻略し切った。ボスは吸血鬼リーリア・シェルカーヴェイン。現在のヴェルナーの嫁さんでロッテの母親だ』


 ……それは一体どういう事なの? どんな流れでそうなるんだよ。


『リーリアは亜神ですらないし、モンスターとして見てもそこまでの高レベルじゃない。だが、自分の住む国を滅ぼした人間に恨みを持っていたし、暴れれば周辺地域は壊滅してただろうから、現地の人間にしてみたら確かに脅威ではあった。そんな感じで数百年以上の伝承はスケール感の違いで当てにならない事が多いんだ。……今回のケースも似たようなものと考えられていた』

『今回に限っては、そうじゃないかもしれないと』

『地震だけ見ても相当な存在が眠っているのは確かだ。伝承を信じるなら、当時の亜神複数でも対応できなかったほどのな。モンスターか、兵器か、謎の物質か、それとも異世界に繋がる亀裂か、そこにあるものの正体は分からないが、とにかくこの星を崩壊させるに至る何かがある可能性は高い』

『だが、それが原因だと断定したわけじゃないんだろ?』

『そりゃ当然な。引き続き全力で世界各地と星の周辺の異常も探っている。今回爆発しないにしても、似たような規模の爆弾が眠ってる可能性を考えたらやらないわけにもいかないし』


 そりゃそうだ。直近で発生する災厄に対処する必要があるのは当然としても、そんなものが他にないって楽観視するのは有り得ない。

 ダンマスたちが各地のダンジョンを攻略していたのには、多少はこういった脅威を排除する目的が含まれていたのかもしれない。


『あと実はこれ、前ダンジョンマスターの消失に絡んでるんじゃないかとも睨んでる。伝承に残っている封印の時期、大陸の南なんて近場って事もそうだが、色々条件が一致するからな』

『そこに眠る何かが古代迷宮都市とダンジョンマスターを排除したと?』

『条件が大体一致するってだけで、そんな例は他にもあったけどな。だが、それがビンゴなら、そいつはダンジョンマスターをどうにかできる存在って事だ』


 ダンマスや他のメンバーですら殺し得る何かって事か。


『あのさ……疑問なんだが、超すごい魔法使いがいた崩壊世界でダンマスは死んでいると思うか?』

『そのダンマスって俺の事だよな? 引き継いだエルシィの事じゃなく』

『ああ。以前ディルクが言っていたんだが、ダンジョンマスターが死んだら管理世界……この場合は宇宙全体が崩壊するって予想していたらしい。だが、それにしては規模が小さ過ぎる。エルシィさんが引き継いだにしても、そんな穏便に権限継承できると思うか?』

『分からないが……一番高い可能性としては、その世界の俺が実は生きているって線だな。実はエリカから受け取った手紙にも書いてあったんだが、あちらのエルシィは可能性は残っていると考えていたらしい。だからこその行方不明扱いなんだろう』


 どういう状態なら、そんな事になるだろうか。

 ……自発的に権限を譲った? いや、それはできないはずだ。今のダンマスでも不可能な上、ネームレスや皇龍と邂逅していない状態でそんな事ができるとは思えない。


『あるいは、杵築新吾は死んだが、それに該当する搾りかすのような何かは残っているとか……な』

『何かって何よ。……心当たりがあるのか?』

『……いや、いい、忘れてくれ』

『そんな言い方されたら気になるだろ。……それとも、この状況に至って尚言うのがまずい話とか』


 そんなのがあるとして、どんなヤバイ話だって事になるんだが。


『……そういうわけじゃない。話してもいいが、他言無用だぞ。それこそ、無限回廊攻略のゴールが見えるまで』

『ダンマスの嫁さんやアレインさんたちにも?』

『むしろ、そっちがまずい。どうしてもっていうならユキちゃんやミユミに言うのは構わんが、口止めはしてくれ。特に那由他にバレたりしたらどんな反応があるか分かったもんじゃないからな』


 なんかえらい隠し事のようだが、ここまで渋るとなると……。


『まさか、浮気?』

『はっはっはっ、ツナ君は面白い事を言うな。……いや、ねーよ。そもそも嫁増やしたって誰も文句言わねえよ』


 言わないのか。まあ、今の精神状況で浮気はないだろうとは思ったが。


『結構前から、大体一〇〇〇層を超えたあたり……正確な時期は分からないが、その頃から幻覚を見るんだ』

『幻覚?』

『状態異常とかじゃない。心理学的に見て意味がある事かどうかも分からない。当たり前だが実体があるわけじゃないし、幽霊でもない。ただそこに立ってじっと見ているだけの不快な存在。……俺が精神的に弱くなると、視界の隅にピエロが現れる』

『……そらまた随分はっきりした幻覚だな』


 幽霊のようにぼんやりとしているなら、そうだと言うだろう。少なくともそういう特徴まで認識できているという事だ。


『これは極度にまで磨り減った精神を保持するために、俺が創り出した幻覚なんだと思ってる。俺が辛い時、苦しい時、悲しい時、あいつは唐突に現れて負の感情を呼び起こして増幅させるんだ。そうする事で、不安定な精神を一旦負の方向に寄せて揺らぎを作る。そういう"安全装置"なんだろう』

『…………』


 言葉が出ない。今更ながらに、ダンマスの精神状況の異常性を知った気分だった。

 ……そりゃ言えない。たとえ俺や他の誰に言っても、嫁さんたちには言えない。


『お前の因果の獣のようなものなのかもな。別に話もしないし、見てて不快なツラしてるから消し飛ばしたくなるけど』

『……自分自身の一部だって事か?』

『そう。俺の嫌な部分だけを凝縮した< 負の道化師 >ってところだ。タチ悪そうだろ?』

『笑えねえ……』


 敵対したら、想像も付かないような嫌がらせをされそうだ。


『ただの幻覚だから、表に出る事はない。俺が死ねば当然一緒に消える。摩耗し切ってネームレスみたいになっても消えるだろう。……そう思ってたが、俺が死んでこいつだけ残ったらって想像したんだ。……めっちゃホラーだろ?』

『怖過ぎるわ』


 杵築新吾が死んで、搾りかすが残る。この場合はその極悪ピエロだけが残ってるから星の崩壊だけで済んでるかもって話か。

 これを俺の場合に照らし合わせるなら、因果の獣だけが残るって状況になる。……それはないな。体感的に分かる。ダンマスも似たような感覚なのだろうと、漠然とだが共感できた。


『安定したのか、最近めっきり出てきてないけどな。皇龍からゴールへ向かうヒントをもらってからは特に調子がいいし。……ようやく掴んだヒントなんだ。こんなところで立ち止まるつもりはないぞ』

『……そうだな』


 ゴールに続く道が見えたと思った瞬間に土台から壊れたら目も当てられない。


『とりあえずは、< 地殻穿道 >には俺たち全員を殺し得る何かがあるって想定で動く。俺たちで対処できないなら……どうしようもねえな。素直に皇龍の世界に逃げる事にするさ』


 安全確保した上で偵察して、危険があるならダンマスごと避難するってのは最善ではないにせよ、最悪でもない。失うものは多過ぎるが、ダンマスたちっていう最大戦力は残せる。何もかもなくすよりはマシだ。


『ちなみに、お前はどう思う? これが原因だと思うか?』

『……多分、正解なんだと思う。……けど、どうしても前に話した俺の左腕の件が気になる』


 曖昧で抽象的な、本来なら相談するにも当たらない俺の懸念もダンマスに伝えてある。俺の死がトリガーかもしれないと。

 今回の問題での根拠を考えれば一考の余地はあるとダンマスは色々考えてくれてはいるようだが、繋がりそうな線は見つからない。


『実は封印されてるのって、お前の左腕だったりしてな』

『前世のものがそのままって事か? え、腕が爆発すんの?』

『いや知らんが、強引に繋げるならって話だよ。< 地殻穿道 >のボスは< 渡辺綱の左腕 >だった、みたいな?』


 ……みたいなって。それで、ダンマスは腕と戦うのか? めっちゃシュールな戦闘になりそうだな。腕だぞ。

 ゲームでもそんなボス……いない事はないか。部位バラバラでとか、手だけのボスもいたな。


『背景にあるのが唯一の悪意っていう超存在な以上絶対にないとは言えないが、脈絡がなさ過ぎるだろ。どんな経緯で腕だけ封印されてるんだよ』

『まあそうだよな。無理じゃないってだけで、そうなるにしても経緯がさっぱり分からんし。……念のため、《 腕特攻 》付きの武器とか用意したほうがいいかな?』

『そんな物があるなら持っていけばいいんじゃないかな』


 随分と限定的過ぎる武器能力だが、ダンマスの事だからないとは言い切れないのが怖いところだ。

 大して荷物を圧迫するようなものでもないだろうし、わずかでも役に立つ可能性を考えているなら放り込んでおいて損はないだろう。


『《 腕特攻 》は冗談だが、本当にお前絡みの問題だったケースも考えて、渡辺綱関連の対策もしておくか』

『……具体的には?』

『《 妖怪特攻 》、《 鬼特攻 》、《 蜘蛛特攻 》。土蜘蛛対策で< 膝丸 >とか? 童子切は……剣刃が持ってるから無理だな。もはや、あいつ専用になってるようなもんだし』


 < 膝丸 >あるのかよ。木刀じゃなくそっちくれよ。渡辺綱が使ったかどうかは知らんけど。


『実際のところ、妖怪にしても鬼にしても俺がこの世界に来てから作ったカテゴリだから、意味はなさそうだけど』

『そういや、ミノタウロス絡みの話で言ってたな』


 元々< 鬼 >のカテゴリを作るために、< 牛鬼 >だったブリーフさんたちを< ミノタウロス >にしたって。

 以前ダンマスが言っていた話から考えるなら< 牛鬼 >って名前も元々付けられていたわけじゃなく、ダンマスが日本語として認識した際に付けられたものなんだろう。この世界の言葉なら、まったく違う意味の名前になってるはずだ。


『元々この世界に俺たちのいうところの鬼は存在していない。俺がここに来た事で繋がった日本の概念情報がなければ、ダンジョンマスター権限で創造する事もできなかったはずだ。逆に、概念が定義されたあとなら自然発生する可能性もあるがな』

『そういうルールなのか』


 道理で鬼モンスターが少ないわけだ。


『しかし、ダンジョンマスターって言葉から見たら普通っぽく聞こえるけど、そもそもなんでわざわざモンスターの種別増やすんだよ』

『……だって、そのほうが面白いと思って』


 ノリかよ。そのせいで対応すべき項目が増えるからダンジョン難易度も上がるんだけど、あとに攻略する奴らの事考えてないだろ。……いや、逆なのか? 難易度上げるために作ったって可能性ならありそうだ。




 ダンマスとの通信が切れ、受話器代わりに使っていたステータスカードから[ 通話中 ]の表示が消える。


「ダンマスと電話? 何か新しい情報とかあった?」


 通信が切れる少し前に部屋へやって来たユキが口を開いた。終わるのを待っていてくれたらしい。


「色々あったが……とりあえず、ダンマスはアホだな」

「ははは、何を今更」


 ユキは一切否定しない。……悪ノリの被害者だから当然か。


「あ、言うのを忘れてた」

「何? ダンマスに聞き忘れた事があるとか」

「いや、お前に。年末に月へ行った時、お前から何か突っ込まれそうになったらその悪ノリをなんとかするって話題で誤魔化せ、みたいな事言われたんだ。マッチポンプみたいなもんだが、文句言ったら20%外してくれるのかも」


 結局、誤魔化す必要もなかったから言わずに終わったのだ。


「"なんとかする"ね……。明確に外すって言ってくれないと、どんな頭の悪い仕掛けされるか分からないのが怖いな。ユキ二割とかにされたら、さすがに玉砕覚悟で殴りに行くよ」


 ないと言えないのが、またダンマスらしいというか。20%のほうがマシに聞こえる。ユキ十割とか、蕎麦じゃないんだから。


「ま、その話含めて、新しい情報はあとで聞こうか。もう番組始まるよ」

「もうそんな時間なのか」


 軽い定期報告のつもりだったが、どうやら随分と長い間ダンマスと話し込んでいたらしい。


 部屋を出てリビングへと向かう。自分の部屋にもテレビはあるが、どうせならリビングのでかいテレビで見たほうがいいだろう。更にでかいモニターがある会議室を使わないのは、主にリビングに設置されたコタツのせいである。明日から三月だが、なかなかしまえない。

 そのコタツで、項垂れる金髪少女が一人。最近会っていなかったクロだ。


「来てたのか。……なんでそんな脱力してるんだ?」


 コタツが好きなんだろうか。確かに魔性の魅力がある事は認めざるを得ないが、とりあえず顔くらい起こせ。


「おぃーす。ようやく三月昇格決まったよー」

「お、おお。おめでとう。……おめでたい事なのに、なんでそんなやさぐれてるん?」


 ディルクたちはかなり前に条件を満たして全員三月の昇格を決めていたが、クロたちも昇格決まったのか。

 俺たちやあいつらが早過ぎるだけで、これでも相当な昇格スピードだろう。やるじゃん。


「なんでもないよー。別に元ペット相手に実質的な敗北を味わわされたからとか、そんな事全然」


 原因、マイケルかよ。

 ユキを見たら、少し困ったような顔をしている。……俺の部屋に来る前は愚痴に付き合わされてたのか。


「お前はあんまりそういう事を気にするタイプでもないと思ってたけどな。あ、みかんくれ」


 とりあえずコタツへと入った。テレビは付いているが、お目当ての番組はまだ始まっていない。ニュース特番の途中にやるらしいから、しばらく待てば始まるだろう。


「はい、みかん。……知ってると思うけど、マイケルと同時昇格なんだよね」

「そりゃな。パンダ連中、ウチに所属してるんだから。というか、同時なら負けたわけでもないだろ」

「あたしのほうがデビュー早いのに、昇格決めたのはあっちが先。あたしの昇格試験めっちゃ厳しくてさー、条件満たしたの一昨日なんだよねー。そして、あたしはこんなにも敗北を噛み締めているというのに、誰も分かってくれない」

「無茶言うな」


 本業で元ペットに負ける気持ちなんて、理解できる奴のほうが少ないだろう。

 というか、最速記録持ちの俺たちに言われても困る。そんなつもりがなくても、何言ったって上から目線の発言に聞こえるだろうに。まさか、俺たちのせいだと責めるわけでもあるまい。そんな性格でない事は知ってるし。


「別にマイケルが馬鹿にしたとかじゃないんだろ? あいつミカエルと違って結構真面目だし」


 内心で馬鹿にしてるって事もなさそうだ。

 あの二匹はクローンのはずなのに性格が全然違う。所帯持ちって違いもあるだろうが、根本から別物のようにも見える。……一緒にパンダタワーやってるくらいだから、どこかに共通点はあるのだろうが。


「そりゃ、こんな子パンダの頃から知ってるんだから、マイケルがいい子なのは分かってるよ」


 こんなって……いくら子供でも手には乗らないんじゃないか。


「さっきも言ったけど、中級上がってから頑張るしかないね」

「中級かー。余計離されそうな気がするんだけど、そだね」

「もしくは、この前みたいにアーシャさん弄って憂さ晴らしするとか」

「ユキちゃんのその手にはもう乗らないぞー。九月の時もお酒の件で乗せられてひどい目に遭ったのに、第一〇〇層攻略でピリピリしてる今煽ったら命の危険すらありえるぜい」


 え、アレ実行したのかよ。キレるのが分かってて突っ込むのはチャレンジャーだな。


「命の危険って……何されるのさ。というか、九月の時は何されたの?」

「何って……ドライブかな」

「ドライブって……なんで車?」


 知らなけりゃ何言ってるのか分からんだろうが、俺は納得できてしまった。あの趣味の悪い車に乗せられて、超高速ドライブに付き合わされたって事なんだろう。たとえ『一緒にドライブ行かない?』って誘われても、断ってしまいそうだ。


「……知ってる? 超加速の世界では視界が赤く染まるんだよ」


 レッドアウトかな。車で起こすのは相当厳しいと思うが、冒険者規格の車なら……あの、地下を爆走していた趣味の悪い車ならやれるのかもしれない。良く知らんけど、戦闘機っぽいパーツ付いてたし。


「あ、ああ、《 クリムゾン・シルエット 》でもなるね」


 分かっててボケてるのかもしれないが、それは違う現象だ。




『本日は特別ゲストとして、異世界交流大使の代表にお越し頂いています』

『こんにちは。初めまして、迷宮都市の皆様』

「あ、始まった」


 待っていた番組が始まり、テレビには良く知った顔……空龍が映っていた。その後ろには玄龍と銀龍も控えているのが見える。

 少し前から異世界……皇龍の世界から視察団が来ていて、世界間外交を始めるという話はすでに迷宮都市中に告知されている。ボカしている部分も多いが、新聞やニュースなどのメディアでも扱いは大きい。世間の注目は、進展の見られない第一〇〇層攻略から異世界交流へと移っているのだ。

 別の世界からの訪問者であるベレンヴァールの事も一応公開されているのだが、単独で召喚されたあいつの場合はそこまで注目を集めていない。冒険者連中の反応もなんかすごそうな奴が入って来たな、程度のものだ。下手すれば、戦争時にあいつが腕を切り落としたという奴にすら気付かれていない。

 一方、世界ごとの交流を始める空龍たちの関心は大きい。実際に行き来が可能で、近日中にその第一便が出港するのだから当たり前とも言えるが。


「龍って聞いてたけど、人間に見えるね」


 戻れない不可逆の変身であるから、当たり前だが見た目も当然人間のままだ。以前会った時から特に変わっていない。

 空龍は少し張り切っているのかおめかし気味だが、後ろの銀龍と玄龍なんて服装もそのままだ。


「本体は龍だぞ。空龍は顔だけしか見た事ないが、透明な龍だ」

「なんでツナ君が知ってるの?」

「そりゃ、一緒にイベント参加した仲だからな」


 決して漏らしたりしないが、キスもしたし。

 実はあのデータは表向き破棄した事になっているが、厳重にセキュリティをかけた俺しか見る事のできないデータ媒体に残っていたりする。記憶を劣化させないためには、こういった努力も必要なのだ。


「一月末にウチのメンバー振り分けて、専用ダンジョンでイベントやったんだよ。ボクは動画でしか見てないけど、その時に少しだけお披露目してたんだ。空龍はツナのチームだったから」

「へー」

「空龍は水晶みたいな透明な龍、銀龍は水銀の龍、玄龍は……なんだ?」


 そういえば、玄龍だけ本体を見ていない。空龍も銀龍もある程度本体の特徴から名前を付けられてる感があるが、玄ってなんだ。……黒いとか? またクロかよ。あだ名被り過ぎだぞ。


「見たわけじゃないけど、玄龍は暗黒物質の龍なんだって。エネルギーを無尽蔵に吸収できるとか言ってた」

「良く分からんがすごいな」

「水銀とか暗黒物質とか……それは本当に龍なの?」


 あの世界の歴史や実物を見た事ないクロには、余計に理解できない存在だろうな。

 本拠地にはSAN値削られそうな形状のお兄さんもいるみたいだし、あいつらはまだ龍って言われて納得できる姿をしているほうだ。


「俺たちの知るところのドラゴンとは別だと考えたほうがいいな。元々超級の生体兵器って意味で付けられた呼び名らしいし」

「あの三人は人型だけど、リハリトさんともまた違うみたいだしね」


 あの人も竜人ではあるが、系譜がまったく違うらしい。そもそも誕生した世界が別なのだから当然なのだが、紛らわしいものだ。


『えーと、おほん。拝啓、迷宮都市の皆様。本日はお日柄も良く……』

『姉上、口上での挨拶に拝啓はいりません』

『えっ……そうなの? あーと、失礼。その……カンペを……ああっ!』


 玄龍に小声でツッコミを入れられ、しどろもどろになりつつとっさにカンペを懐から出そうとし、その紙が破れた。流れるようなコンビネーションである。


『あ、あの、空龍さん? 完璧な日本語での挨拶にこだわる必要はないので、落ち着いて……って、《 念話 》?』

『あの……姉上、《 念話 》で話しても伝わりませんよ』

『あ、あああ……』


 本人だけではなく、アナウンサーまでパニックだ。生放送なので誤魔化しようがなかった。

 ザワザワしたスタジオの様子はしばらく続き、『しばらくお待ち下さい』のテロップとなんか感じのいい風景画像が映し出された。……放送事故である。


「……なんか、可愛い人だね」

「張り切り過ぎて空回りしたんだろうな」

「玄龍も口出さなければ良かったのにね。うしろの銀龍は笑ってるだけで口出ししてなかったし」


 玄龍も問題だが、そもそも生放送に挑んだのが間違いというか……。多分だけど、空龍本人が推したんだろうな。

 数分後、復旧したスタジオ中継の真ん中にいたのは玄龍で、空龍は端のほうでいじけている姿が確認できた。代理として玄龍がちゃんと挨拶できていたのがまた悲惨だ。多分、このあと姉の威厳とかなんとかで落ち込むのだろう。……玄龍、ものすごいドヤ顔してたし。


「実況スレでは好評みたいだよ」


 いつの間にやらステータスカードで掲示板を見ていたユキが言う。……なんというか、見てなくてもスレの中身が想像できてしまうな。


「本人が恥ずかしい以外は別に問題ないだろ。あとでそのログ見たら部屋から出てこなくなるかもしれんが」

「うん、しばらく伏せておいたほうがいいね」


 ああいう場所に集まる連中は、面白いか、可愛いか、とにかくそういう部分があればいいのだ。インパクトという意味なら成功してる。これが無闇矢鱈に傲慢だとかこちらを見下しているのなら話は別なのだろうが、外交としての体面を気にする奴は迷宮都市にいないんじゃないだろうか。


「……あ、初詣の画像が上がってる。これはまたツナのスレが加速するかな」

「え……と、そういう関係なの?」

「初詣に行ってみたいっていうから案内したんだよ。……しかし、見事にアンチの餌になりそうな材料だな」


 本人降臨の準備をしておかないと。火消ししないと身に覚えのない風評被害に襲われて、また女性ファンが減ってしまう。

 ……身に覚えのない? 本人はデートと言っていたが意味すら良く分かってなかったし、そういう感情は持ってないよな。


「しかしそっか……話には聞いてたけど、本当に異世界人なんだね。今度この人たちの世界に行くんでしょ? ひょっとして二人も行くの?」

「ああ、俺もユキも行く予定だ。結構ランク関係なく話がいってるらしいが、クロのところには来てないのか?」


 基本的に上級、中級がメインだが、下級ランクでも参加する人はいるらしい。品行方正な冒険者なら、定員に達しない限りは参加できるだろう。フリだか狙ってんだか知らんが、バッカスみたいなのはアウトである。


「話だけなら。日程がちょうど昇格式典と被ってるから参加は無理だけどね。何故かお父さんが推薦したみたいだから、第二便には乗るかも」


 ……この様子じゃ裏の話は聞いていないようだが、アレインさんは娘が優先的に乗れるよう手配しているって事なんだろう。 それくらい許される権力者なのは間違いない。


「< 流星騎士団 >からは誰が行くか聞いてる? アーシャさんとか」

「リグレスさん。えーと、< 流星騎士団 >内における前衛のまとめ役で、ちょっとうるさい虎の獣人かな。ガウル君みたいに半分以上獣なの。いびきがうるさいんだって」

「クラン対抗戦で個人戦に出てた人か」


 確か、< 猛虎 >とか呼ばれていて、夜光さんとライバル関係とかいう。いびきの情報はどうでもいい。


「最初はお姉ちゃんだったらしいけど、第一〇〇層の中核だし、長期離脱は厳しいとかなんとか。でも、攻略の中核なのはリグレスさんもそうだから、それは多分建前で……なんかボソッと外道吸血鬼に会いたくないって言ってた。多分、ヴェルナーさんの事だと思うけど、今更なんでだろうね?」

「さ、さあな……」


 ローランさんもそうだが、第一〇〇層の攻略が始まってからギルド職員への風当たりが強い。

 なんかそういう仕掛けがあるんだろうか。……ボスとしてコピーが出て来るとか? 実は亜神だったわけだし、有り得なくもないのか?


「そういえばユキちゃん、異世界に行くならなんかお土産買って来てね」

「お、お土産? な、なにがいいの?」

「検疫とかで持ち込めない物もあるだろうし、なんでもいいよ。おまんじゅうでもタペストリでも、できれば異世界っぽい珍しいやつがいいな」


 どっちもねーよ。そもそも土産物屋どころか何も売ってないし、樹一本すら生えてないんだぞ。こちらの手が入ってしばらくすれば……第二便の頃ならもう少しなんとかなってるかもしれないが、本当に何もない第一便ではな。

 ……やっぱり、そういう独自の文明を期待している奴は多いんだろうな。参加者用のパンフにはある程度書いてあるんだが、それ以外はこの程度の認識って事だ。パンフ使って何もない事を説明すればいいんだが、異世界というフロンティアに期待しているのを幻滅させるのは少し気が引ける。


「が、頑張るよ」


 無茶振りだが、直接言われたわけだし、ユキが頑張るのが筋ってもんだろう。チラッとこっち見ても助けないぞ。

 最悪、クーゲルシュライバーの発着場に売ってるやつで誤魔化せばいいんじゃないかな。……ボールペンとか。




-3-




 世界間航行船クーゲルシュライバー第一便の出港まであと一日。明日の夕方にはこの世界を旅立っている事になる。

 その発着場に隣接したホテルのロビーには、俺たちと同じ目的らしき人がたくさん集まっていた。万が一にも乗り遅れたらまずいと早めに来たのだが、他の客も似たようなものなのだろう。

 この手の乗り物のお約束なのか、乗客はかなり早くから発着場に待機する事が義務付けられていた。最低でも今日の二十四時までには発着場備え付けのホテルにチェックインする必要があり、出発の予定時刻から六時間前には、決められたグループにまとまって搭乗口前ゲートに集合している必要がある。事前申請して今から割り当てられた船室に行ってもいいらしいが、その場合船から降りる事は許可されないらしい。

 最初だから厳しくしている面は多分にあると思う。おそらく、次回以降はもう少し緩くなるだろう。


「そういえばボク、飛行機にも乗った事ないや」


 ロビーの巨大スクリーンに表示されたボールペンを見てユキが言った。アレを見て飛行機を連想するのは厳しくないだろうか。


「初体験が異世界行きのボールペンか。なかなか貴重な初体験だな」

「ツナはあるの? 海外旅行とか、拉致とか」

「あるぞ。普通の旅行で、現地に放置されたりとかはないが」


 冗談で置いて行かれそうになった事はあるが、さすがに海外はシャレになっていないと思ったのか未遂に終わった。


「拉致は……国外ではないな」

「……国内ならあるんだ」


 半分身内の仕業だが、本人の意思を無視して誘拐されたのだから立派に拉致だろう。


「実はヘリに乗った事もあるぞ」

「へー、スカイダイビングとか?」

「いや、雪山で遭難して救助された時にな。死ぬかと思った」

「……ツナならありそうだね。救助するまでもなく、そこに定住しそう」

「死ぬわ」


 救助時点で想定以上に元気だったので、ヘリを出す必要なかったんじゃないかとも言われたが、普通に死ぬ。

 というか、遭難者が俺一人だったら本当に救助隊を出してくれなかったかも、なんて考えたりもした。さすがにそんな事はないと思うが。


「しかし、結構ヒマっぽいがどうする?」


 ウチのメンバーが集まるのはおそらく深夜になる。団体はできる限り集まった状態で乗船するという話なので、船内に移動するにしてもそれからになるだろう。今回は無難にホテルに一泊して、明日乗船という形になるんじゃないだろうか。

 ちなみにラディーネたちは船の技術者としての参加のため、先行して乗船している。ディルクたち二人もそうだが、名簿上の登録情報も俺たちとは別扱いだ。


「どうせなら実験区画を見て回りたかったんだけど、別に見学許可もらわないといけないんだよね」

「何があるか知らんが、お前の興味惹きそうなものは多そうだよな」


 日常生活でも度肝を抜かれるものが散見できる迷宮都市の、更に最先端技術を研究している区画ともなれば面白いものはたくさんあるだろう。

 区の最高責任者らしいエルシィさんに言えば許可をくれるかもしれないが、わざわざ今手を煩わせる事もない。ダンマスたちは出港直後に< 魔の大森林 >に直行するのだから、前日ともなれば忙しいだろう。ユキも、どうしても見たい場所があるってわけでもなさそうだし。


「ホテルに訓練場もあるみたいだけど、今から訓練もね……。クーゲルシュライバーの中の訓練場ならいつものS6戦ができるみたいだけど、出て来れなくなっちゃうし」

「そういえば、最近ずっと使ってるみたいだよな。そろそろS6のLv20くらいには勝てたか?」

「Lv20はなんとか……。Lv40になったら別人のようにパワーアップするあたり、やっぱり冒険者のモデルがいるんだなーって気がする」


 モンスターならただレベルが上がっただけでは劇的な変化を見せないが、冒険者はパワーアップ要素多いし、試行錯誤もするしな。俺たちだって、Lv20とLv40の時では別人だろう。


「他のは? s6が極端に強いとか、相性が悪いって可能性もあるだろ」

「一通りは試したけど、どれも厳しいね。特にs1、s2の二人は別格で、Lv20でも勝てなかった。対峙してると何されてるのかも分かんないくらい。こんなLv20がいてたまるかって感じ」


 ベレンヴァールが戦っていたのを見たし燐ちゃんが別格に強いのは分かったが、同格レベルでs2も強いのか。

 ……誰だよって感じだが、未来のデータだからまだ生まれてない可能性もあるんだよな。


「一通りやったなら気になった事とかあるか? 誰が誰の参考になりそうとか」

「うーん、クセが強くて初見だと対応に困るのは全員。s1、s2の二人は理解不能だから置いておいて……s4の子の動きがなんか摩耶に似てた気がする。摩耶本人には良く分かんないみたいだけど」


 有り得ない話じゃないが、本人ならさすがにエリカが言うだろうし、ちょっと考えづらい。あいつの弟妹に冒険者志望もいるらしいから、身内とか?


「あと、s5は……アレ人間なのかな?」

「いくら崩壊したあとの世界とはいえ、亜人種はいるんじゃないか?」

「そうじゃなくて、もっと無機質な……ロボットみたいな? たとえばボーグは無表情でも感情豊かじゃない? そういうすら感じられない。……ああ、クーゲルシュライバー君に似てるかも」

「ガチAIって事か」


 それで冒険者登録されるのか? ボーグの場合、冒険者登録は頭部分だけでそれ以外は装備扱いだ。ガルドもコア以外が壊れてても冒険者として判定される。つまり、冒険者登録には人格のようなものを司る部分が必要になると思うのだが、人工物であるAIはその対象になるのだろうか。……案外、実は今もどこかで実験稼働してたりしてな。


「s3は?」

「強いしクセはあるけど、あの中では一番未熟な感じ。経験が足りてないのか、自分の能力に振り回されてるように見えたかな。……実際やり合うと、あの飛ぶ盾とか厄介ってレベルじゃないんだけどね。盾役みたいなのに前に出るし手数多いし、ティリアみたいなスタンダードな盾役の参考にはならないと思う。……どっちかといえばボクに近い」


 やっぱりそんな感じか。画面で見る限り、他の連中に見られる技巧的な動きが少ないように見えた。冒険者の見かけを気にしても仕方ないのだが、一番小さいし実際に子供なのかもしれない。


「結論としては……誰が誰とやっても得るものはあると思う。似ているタイプを無理やり当てはめるとしたら、s2はガウルかガルド、s3はボク、s4は摩耶、s5はいないけどあえて言うならラディーネ、s6はリリカかディルクが近いかな」

「一人抜けてるが」

「s1はね……少なくともツナじゃないし、ウチに近いタイプはいないと思う。今まで会った刀使いでは……一番近いのは夜光さんかな。基礎能力も技術もずば抜けてるのに小細工もするし」


 ……動きを見て思ったが、やっぱり剣刃さんじゃないのか。俺じゃないのは……まあ、そうだろうなという感じだが。


「ツナもやってみるといいよ。ペナルティもそろそろ戦える程度には緩くなってるでしょ」

「そうだな……ダンマスも、そのために船内へ設置したって思惑はあるだろうし。……ちなみに、万全じゃない俺でも勝てそうなのって誰かな? 最初は慣らしって感じで」

「とりあえず、s1にバラバラにされればいいんじゃないかな」


 やだよ。そんなボロボロとかじゃなく第一にバラバラなんて擬音が出てくるような相手は。




「やあ、渡辺君。もう来ていたんだな」


 どうやれば情けない姿を見せずに勝てるだろうかと考えていたところで、後ろから声をかけられた。

 そこにいたのは線の太いアメリカンな感じの大男。< アーク・セイバー >の第二部隊を預かるクランマスター、グレンさんだ。相変わらず歯が白い。


「どうも。ひょっとして< アーク・セイバー >の代表ですか?」

「ああ、ついでに冒険者としての代表でもあるらしい。元々は順番的にリハリトが出るはずだったんだが、種族的に紛らわしいという話になってな。第一〇〇層の攻略部隊から外れていた私が行く事になった」


 確かに紛らわしいな。特に関係ないのに、変な目で見られてしまう可能性もある。


「攻略部隊から外れたってのはまたどうして」

「合同攻略だからな。ローランの奴とポジションが被ってるし、私よりもあいつが参加したほうが確率は上がるという判断だ。どうせ一回攻略して終わりというわけでもないから、今回は楽をさせてもらおう」


 無限回廊の第一〇〇層攻略。あくまで表向きだけとはいえ、最速攻略の栄誉を譲る事に不満はないのだろうか。

 ……それとも、そんなところはすでに飛び越えて、長期的なスパンで先の攻略を考えているのかもしれないが。


「だからというわけじゃないが、今回もそのまま戻らず、しばらくあちらにいる事になると思う。妻同伴の長期出張だな」


 本質は奥さんの避難って事だろうか。ついでのようにも聞こえるが、攻略と天秤にかけてそれを優先させたという可能性もあるな。


「グレンさんは、今回の件についてどれくらい聞いてるんですか?」

「概ねは。ただ、避難という認識は薄いな。どちらかというと、こちらのほうが危険なんじゃないかという気もしている」

「それはまたなんで」

「そりゃ君がいるからな。前回の遠征で最終的にどうなったか、まさか忘れたとは言うまい」


 経験則か。


「やっぱり、ツナは誰にでもそういう認識持たれてるわけだね」

「うるさいわ」

「だからというわけではないが、何かあったら頼ってくれて構わないし、そういう時は早めに言ってくれると助かる。あえて私を頼る必要はないかもしれんが、一緒に理不尽に巻き込まれた仲だからな」


 元々認識している実力もそうだし、あの怪獣大決戦を見てしまった上で頼りにならないなんて事は間違っても思わない。

 理不尽の経験者で、とっさに判断してくれそうな人がいるのは助かるというものだ。想定外の状況に弱い面があるようだが、それでも経験者というのは大きい。


「とはいえ、あちらには亜神クラスの存在が山ほどいるし、こちらから行くメンバーもそうそうたる顔ぶれだから出番はないかもしれんがね。……ところで、そろそろ隣の彼女を紹介してもらいたいんだが」

「あ、そういえば初対面でしたっけ」


 ユキを放置したまま会話してしまった。


「ど、どうもユキです。テレビとかでは良く拝見してます」

「< アーク・セイバー >のグレンだ。こちらも渡辺君やダンジョンマスターから話は色々聞いている」


 極めて自然に握手をした。なんというか……慣れている。

 説明した覚えはないが、やっぱりユキの性別についてのアレコレも知ってそうな雰囲気だ。その上ではっきり"彼女"と言うあたり、良く分かっているのだろう。さすがはクランの顔役、人員調整の担当といったところだ。

 その流れで、グレンさんはついでに今回参加する人員の説明もしてくれた。あるいは彼もヒマだったのかもしれない。

 立場上事前に参加者の情報を聞いていた可能性は高いが、この人の場合は関係なく把握してそうなイメージもある。


 < アーク・セイバー >からはグレンさんの他にベネットさん、リハリトさん付きの副官であるノエルさん、その他ランクごとに二十名ほど参加するようだが、上級ランク……特に第一〇〇層の攻略に手が届きそうなメンバーはほとんど未参加らしい。本人からは直接聞いていたが、フィロスやゴーウェンたちも不参加だ。第二便にも参加予定はない。

 < 流星騎士団 >からは< 猛虎 >リグレスとアネットさん。< アーク・セイバー >よりは少ないが、その他にも十名程度は参加するそうだ。こちらも代表の二人以外に最前線組はほとんど参加していない。

 < 月華 >はサブマスターの紅葉という人と、天狐という狐の獣人が参加。リグレスさんと会いたくないのか、一番参加しそうだった夜光さんは不在である。

 トカゲのおっさんは参加するが、< ウォー・アームズ >での参加者はなし。個人で参加しているのもおっさんだけらしい。

 何故かYMKの同志Aさんがいたり、顔くらいしか知らない< アフロ・ダンサーズ >や< マッスル・ブラザーズ >のクランマスターがいたりと中級ランクの姿も多く見られる。< 獣耳大行進 >は猫耳の姿こそ見られないもののかなり多くの参加者がいて、サブマスターが引率役をしている。あの兎は確か天然ハゲのほうだ。間違えてハゲ呼ばわりすると激昂するらしいので、言動には気をつけないといけない。

 その他、俺が良く知らないクランも有名所は大抵が参加しているらしい。個人参加なら美弓たちもそうだ。


「< 白薔薇 >や< 烈光拳 >、< 鉄血同盟 >、< フライング・アーチャーズ >などの中堅どころも参加者が多そうだな」

「あそこにいるゴリラは多分< 森の賢人 >所属だね。代表以外は全部ゴリラっていう特例のクランだったはず」

「ゴリラさんたちはさすがに知ってる」


 < 森の賢人 >は、クランマスターゴリヲと彼が使役するゴリラのみで作られたクランだ。彼には自分の呼び出したゴリラ以外とパーティを組めないという呪いのようなハンデがあるので、特例として冒険者一名でのクラン創設が認められたという背景がある。そんな経緯があるから俺たちが一緒にダンジョン・アタックする事はないのだろうが、パンダに囲まれている俺としては妙な親近感を覚えてしまう。特に関わり合いになりたいわけではないが。


「少ないが、迷宮ギルド以外の所属もいるな。< 美食同盟 >の下部組織として労働者ギルドに登録している< 雷雷亭 >や、おそらくあちらで工事を担当するであろう< ハローワーカー・アント >、……半冒険者クランの< ザ・ガードマン >の参加予定はなかったはずだが、パラパラと姿が見えるな。……誰かの雇われで個人参加かな」


 なんか、あの黒服さんたち見た事あるんだけど……。そんなまんまのクランがあったのか。


「他のギルド所属参加者の代表も、まとめてグレンさんが担当ですか? 大変なような……」

「代表といってもただの肩書だけで大した事をするわけでもない。それに、他ギルドには個別の責任者がいる。魔術士ギルドや労働者ギルドなどはギルドマスター自身が責任者として参加するはずだ。あまり我々に縁はないが、どうせならどこかで紹介……」

「団長、そろそろ会食の時間ですが」


 そんな話をしていると、ベネットさんがグレンさんを呼びにやって来た。

 聞けば、あちら側の代表……つまり空龍たちと会食をする予定だったそうだ。俺たちも同席するかと聞かれたが、正式な場にいきなり割り込みするのもどうかと思い断らせてもらった。

 残された俺たち二人はやはりやる事がない。ここなら有名人ばかりだし、人間観察でも面白い事は面白いが。


「なんか飯食うか? 良く考えたら、しばらく食堂のレギュラーメニュー以外食えなくなるわけだし」

「ご飯時にはちょっと早いけど、そうだね。このホテルでバイキングやってるみたいだよ」


 船の中でもそうだが、あちらに到着しても食べる物は同じだろう。なんせ、食事の文化どころか食材自体が存在しない。< 雷雷亭 >がいるならラーメンは食えると思うが、基本的に半月ほどは代わり映えのしないメニューを続ける覚悟が必要だ。


「全然関係ないんだけど、ひょっとしてあのベネットさんって銃使ったりする人? 謎のトリックで生き残ったり」

「……銃捨ててかかって来いって言っても通じないと思うぞ、多分」


 ……俺も遠征の時から気になってはいたのだが、あえて突っ込まなかったというのに。

 もう少し親しければ聞いてもいいが、今はまだ友好度不足だ。あるいはすでにダンマスあたりがネタにしている事も考えられる。


 その日の夜、特に何かと関係があるわけでもないのだが、俺とユキで人質を取られているのに銃を持った相手を挑発するというごっこ遊びが繰り広げられた。




-4-




 深夜。どうしても寝付けなかった俺は、ホテルのリラクゼーションルームで一人マッサージチェアに座っていた。

 ここは二十四時間稼働しているから利用する事自体に問題はないのだが、俺以外に利用客はいないから超寂しい光景だ。

 起きてる人はいるんだろうが、そういう客はバーや夜間上映の映画館などに行くだろう。リラックスしたいだけなら風呂でもいい。

 グレンさんと将棋をする約束はしているが、乗船前は色々と忙しいからリベンジマッチは船の中での開催になるだろう。あるいは、そこにトマトさんを連れて行ってもいいかもしれない。ポテトを相手にしていた頃よりはマシになっていると信じてる。


「あ゛ー」


 体を揉み解されながら考える。……ずっと頭をよぎり続けた疑問だ。


「まだやり残した事はないかって感じ?」


 いつの間にやらチェアの横に陣取っていたユキが声をかけてきた。……当たってるが、思考を読むな。

 なんでここにいるのか、なんで俺がここにいると思ったのか、それはきっと些細な疑問なのだろう。だって、俺もなんとなく分かる。今だって、ユキが現れるんじゃないかと半ば確信に近いものを持っていたのだ。


「……何かやれる事はないか、やり残した事はないか、忘れている問題はないか、必要な情報を取りこぼしていないか。ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐると同じ事ばかり考えている。このまま本当にクーゲルシュライバーに乗っていいものかってな」

「ぐるぐるが多いね。ぐるぐる」

「椅子を回すな」


 ぐるぐる言いつつマッサージチェアを回された。

 全然関係ないが、クーゲルシュライバーも航行中、外壁部がぐるぐるぐるぐると回転するらしい。いってみればでかいドリルだ。


「まだいまいち実感が湧かないけど、ツナと同じ立場ならボクもやっぱり同じ事を悩むと思うよ」

「特に今回は俺にどうこうできる問題が少な過ぎる。なのに、中心にいるのは俺って言われてる。実際に中心にいる事は分かるし自覚してるが、ただど真ん中にいるだけで何もできていない。特にダンマスには頼りっ切りで、ほとんどの部分はあの人に投げちまってる」

「できる人に投げるのが悪い事だとは思わないけど?」

「そりゃな。まったくもって適切な役割分担だ。……実際問題、星が崩壊するなんて世界規模の災害で、それはそこに住む者が共通で背負うべき問題だとも思う。その中で対応できる力を持っている人に対処をお願いするのは何も間違っていない。だけど、理屈じゃないんだ。なまじ中心にいて、推移する状況を目の前で見続けていると、やっぱり何かしないとって焦燥感に駆られるもんだ」


 もしも俺の役目は本当に終わっていて、ダンマスが確実に対処できるという保証があるのならいい。

 しかし、原因すら未確定、対処できるかどうかも分からない、ついでに言うなら想像以上の何かが起きるかもしれない予感すらある。

 そんな状況で、力が足りないからといって何もできないのはもどかしくて気が狂いそうになる。やれる事をやるというのは極当然なのだが、それが正しいという自信が持てない。


「中でも一番もどかしいのは前世の記憶だ。持っているはずなのに思い出せない。そこに核心があるかもしれないのに手が届かない。因果の獣が意地悪して見せまいと立ちはだかっているわけじゃないのは分かるが、隠されている身としてはやっぱり納得がいかない」


 これはきっと俺の中で条件が揃えば開く扉だ。俺が耐えられるなら自然と開くものだ。あの獣はただ、俺が壊れないように番をしているだけ。しかも、アレは俺自身でもあるわけで、言ってみれば自分で自分の記憶に蓋をしているに過ぎない。自作自演のようなものである。


「ツナは色々背負い過ぎだと思うけどね。はっきり言って、個人で抱えるには大き過ぎる荷物だよ」

「好き好んで抱えたわけじゃないんだがな」

「本当に? 抱えなくてもいいものまで拾ってる気がするけど」

「…………」


 否定できない。


「平行世界で下級冒険者をやっているっていうのが本来のツナで、ここにいる渡辺綱は色々な問題まで全部背負い込んでできている。それこそ、本来は背負う必要のない余計なものまで。……まるで、どこまで耐えられるかの負荷限界に挑戦してるみたい」

「実に適切な意見だな」


 詳しく聞いたわけじゃないが、他の可能性……たとえば迷宮都市に来ない俺は、もう少し気楽に生きているんじゃないだろうか。ダンマスやエリカの反応を見るに平穏とは言い難い人生かもしれないが、それでもここまで色々巻き込まれてはいないだろう。


「お前の件もそうなんだよな。……ひょっとしたら、俺の都合でお前の運命を捻じ曲げたのかもしれないって思うとやりきれない」

「美弓さんの言ってたって話?」

「ああ。必要なピースを揃えるためにお前の記憶を改ざんしたかもしれないってな」


 女であった記憶が残る。性差に悩み、解決策を求めて迷宮都市へと向かう。これが俺に足りない何かを埋めるために起きたものだとするのなら、ユキは余計な苦難を味わっている事になる。


「忘れてるか覚えてるかの違いなんだから、改ざんしたわけじゃないでしょ。その結果環境が変わったとしても、それはボクの意思でやった事であってツナが気にする事じゃない。というか、そんな事気にされても困る」

「お前は自分が抱えている悩みを持たない別の自分がいる事に何も思わないのか?」

「思わない」


 言い切るのか。俺は平行世界で能天気に過ごしてる渡辺綱が羨ましいと思ってる部分は少なからずあるぞ。


「ボクはさ……中澤雪だった頃から冒険がしたかった。モンスターと戦いたいとか秘境を探索したいとか、そんな大きな意味じゃなくて、自分の足で立って歩いて、自分の目で見て、自分の肌で感じて、自分の手で何かを掴みとる。抽象的だけど、そんな事に憧れてたんだ」


 それはきっと、普通の人間なら極当たり前のようにできる事をしたいという願望だ。

 長い闘病の中で、こいつはそんな事に憧れを感じるほど不自由な生活に身を置いていたのだろう。


「ボクは冒険者だ。思っていたのとはかなり違うけど、それでも想像以上の冒険をして未知の体験に足を踏み入れている。そこに後悔なんてないし、むしろ自慢したいくらいだね。記憶がないボクに自慢してもなんの事やらって感じだろうけど、前世のほうなら悔しがるんじゃないかな」

「お前は実に前向きだな」


 俺は、ユキに在るべき冒険者の姿を見ているのかもしれない。決して俺が持てない意思と前向きさで先へと向かう、真逆の存在。それが華やかなだけではないとしても、どんなに過酷な試練があろうと、決して歩みを止めないのはユキ自身がすでに体現してきた事だ。……ひょっとしたら、俺に足りない部分というのはそういったものなのかもしれない。


「つまり、ユキはこの状況に不満は持っていないと」

「うん」

「じゃあ、この変化で煽りを喰らったのは主にレーネだな」

「……あれ?」


 俺の言葉が意外だったのか、それとも考えないようにしていたのか、真面目だったユキの表情が崩れた。


「やっぱりそう思う? 平行世界のボクは、レーネと結婚してたりするのかな?」

「具体的に聞いたわけじゃないが、基本的に王都に住んでるらしいし、ありそうじゃないか?」


 婚約が実家の繋がりから生まれたものなら、記憶があろうとなかろうと発生するイベントだろう。

 そして、そこから家出をするとかそういう展開がない限り、無難に決着が付きそうだ。大してハードルもない。

 レーネが煩悩を暴走させてインモラル・デーモンちゃんになってしまうなら話は別だが、結婚というゴールが見えているなら猫かぶりを続けそうな気もするし。ハードになりそうな夜の生活以外は無難に幸せになれそうな気がする。


「うーん……。記憶がなくて、基本的な思考が男ならそうかも。アレな子だけど……別にレーネが嫌いってわけじゃないし」

「まだ迷宮都市にはいるから、どこかのタイミングでちゃんと話し合ったほうがいいんじゃないか? 正式に婚約破棄するにしても必要だろ」

「う、うーん。……おかしいな、なんでこんな話に」


 頭おかしい奴だが、俺も人間として嫌いってわけじゃない。冒険者として見るならあれほどの素材は稀有だ。

 クラン入りするためのハードルは、ユキの問題が解決すればあとは煩悩だけである。そのためにデーモンちゃんは日夜荒行に挑んでいるのだ。あいつ、様子見に行く度に護摩行やら滝行やらやってるぞ。ユキのグッズを見せるとすぐに崩れるけど。


「手伝いはするが、基本的にこれはお前が解決すべき問題だ。今回の問題を乗り越えたら、どんな形でもけじめをつけるんだな」

「ま、前向きに検討したいと思う所存でありますが、その問題に関しては些か早急に結論を求め過ぎなのではないかと……」


 ……そんなに嫌なのか。

 ユキでさえあれば男でもいいし、むしろ女ならそのほうがいいと言い放つ相手に対してどう接すればいいのかなんて分からんだろうしな。あの逆レイプまがいの事件に関して特別気にしてる様子はないが、これはハードルが高そうだ。




-5-




 翌日、いよいよクーゲルシュライバーの出港である。

 このまま乗船すれば、しばらくはこの世界に戻って来れない。何か忘れててもあとの祭だ。そうならないように慎重に行動してきたが、どうしても不安は残る。こういう場合、重要な事に気付くのは大抵どうにもならなくなってからと相場が決っているし。


「……あのよ、確かに俺はサージェスと同室は勘弁してくれって言ったけどよ」


 乗船直前。搭乗するグループで集まったところで、ガウルが口を開いた。これからしばらく過ごす部屋割りについて言いたい事があるらしい。他のメンバーは誰も文句を言っていないというのに、贅沢な奴である。

 ちなみにディルクも部屋割りに不満があったようだが、情報局のグループに入っていてここにはいないのでノーカンだ。


「サージェスはベレンヴァールと同室になったし、希望は叶ってると思うが」


 ウチのメンバーは俺とユキ、サージェスとベレンヴァール、ティリアと摩耶、グループは違うがディルクとセラフィーナ、ラディーネとキメラという部屋割りになっている。ボーグは何故か格納庫だ。

 この部屋割り、厳密に男女で分かれているわけではないが、事前許可があれば別に問題ないらしい。実際、夫婦で参加する人はいるし、グレンさんはそうだ。ちなみに、ガウルはこのグループ内で唯一あぶれてしまったわけだが……。


「いや、だからってリグレスはねーよ。あいつ金虎族だぞ。根本的に銀狼族と仲悪いの有名なんだぞ」


 ……何故か、< 流星騎士団 >のリグレスさんと同室になっていた。

 これは別に俺がオーダーしたわけではない。俺が出した希望はガウルとサージェスと別室にする事だけだ。

 未確認情報だが、この部屋割りってリグレスさんが希望したらしいんだよな。仲悪いと思ってるのは銀狼側だけじゃないのか?


「根本的に相容れない種族というものは存在するからな。そういうのは得てして根が深い」

「さすが、色々見てきたベレンヴァールは違うな。その調子で部屋割りを再検討しようぜ。そうだ、サージェスとあの虎を同室にしよう」

「しかし、対話してもいない内から諦めるのはな。意外と気が合うかもしれんぞ。つまり頑張れ、という事だ」

「……種族どうこう以前に噛み合わなそうなんだよな」


 往生際が悪い狼さんだ。出港直前の今になって部屋割り変えられるわけないだろうに。発表したのはさっきだけど。


「じゃあ、多数決取ろっか。今回の部屋割りで不満のある人ー」

「な、ちょっと待てユキ!」


 ユキが勢いのまま外掘を埋めにかかった。当然誰も手を上げない。ガウルが慌てて上げるが、数の暴力の前には無意味だ。


「じゃあ、この部屋割りでいいと思う人ー」


 ガウル以外、全員の手が上がった。興味なさそうなサージェスや摩耶、地味に少し笑いを堪えているティリアもだ。


「うん、実に民主主義的な結果だね。というわけで、ガウルは諦めなさい」

「卑怯過ぎるだろ、オイ」


 数の暴力である事は間違いないが、ガウル以外の全員が納得している事も確かなのだ。


「あ、ボクらの順番みたいだよ。係員さんが呼んでる」

「ん? よし、じゃあ行くか。ボールペンに乗って、未知の世界へと出発するぞ」


 未だ不満げなガウルを半ば強引に引き連れ、クーゲルシュライバーへと乗り込む。事前に見学に来ているから二度目になるのだが、やはりいざ出港となるとまた違った感慨があるものだ。


 おそらくここは分岐点だ。管理者の存在する世界は可能性が収束するというルールがあるにせよ、この足を踏み出した時点で後戻りは利かない。俺としてもここで引き返す気はない。ただ、この先何があろうが、この選択をしたという事実の上で行動する覚悟を持つ必要がある。

 ……大丈夫。何があっても諦めない。最後の最後まで足掻いてやる。


『案外、それは試合終了の条件じゃないのかもしれませんよ。星が壊れようが、異世界への避難が失敗しようが、センパイ含めて全員死のうが、ありとあらゆるすべてを敵に回そうが、諦めなければ逆転の目はあるのかもしれません』


 美弓の言っていた事は普通に考えるなら無茶苦茶だが、ある意味真理だ。

 死のうが世界が崩壊しようが諦めていないからこそ、俺がここにいるのだから。
















[ クーゲルシュライバー船室 ]


「出港って言ってもいまいち実感が湧かないよね。その上、出港してからしばらくは部屋から出ちゃいけないとか」

「動く時に揺れたりもしないらしいな」


 クーゲルシュライバーの出港時は、割り振られた部屋で待機しないといけないらしい。特に明確な理由があるわけでもなく、漠然と安全のためだとか人数確認がし易いだとか、そういう事なのだろう。迷宮都市としてもこの船の実用は初めてで慎重になるのは分からないでもないが、感動が薄れるのは残念である。揺れない事は単純にありがたいが。


「せめて窓があればなー。ロビーに行ければ一応だけど外見れるのに」

「備え付けのテレビで外を見れるらしいぞ。パンフに書いてある」

「あ、そうなんだ。……見送られるのをテレビで見るっていうのもアレだけど、ないよりはマシか……ポチっとな」


 少し不満げだが、ユキがテレビのスイッチを入れる。何かの放送を受信しているわけではなく、艦内放送と動画データの再生のために用意されたものだからなのか、チャンネル合わせの必要もなく目的の映像が映し出された。


「……乗り込み口を見ても面白くないね」


 映っているのは確かに外ではあるのだが、先ほど俺たちが通過した乗り込み口だ。まだ全員乗船し切っていないらしく、列が続いている。


「迷宮都市だし、まさか固定カメラじゃないよね? ……あ、ハゲの人だ」

「ハゲ言うのはやめてあげなさい」


 ちょうど< 獣耳大行進 >のサブマスターが乗船するところが映った。なんの因果か、ピカピカに磨かれた頭皮にタイミング良く光が反射する。……もし話す機会があったら、思わず回想してしまいそうなほど見事な反射である。直視したら目が潰れそうだ。


「貴重な面白映像ではあるけど、ボクの求めているのはコレじゃないんだ」

「あの兎耳も狙ったわけじゃないだろ」


 もしも持ちネタだったらビビる。だが、ハゲじゃないほうのスキンヘッド兎が言っていた事を信じるなら、あれは鬼門のはずだ。《 毛根死滅 》なんていう、医療だけで太刀打ちできない呪いのスキルによるコンプレックスである。


「あ、これリモコンで視点移動できるんだね」


 色々試してみると、リモコンで上下左右の移動と奥行きの調整はできる事が分かった。どんな仕組みかは分からないが、基本的に船体の外壁部なら移動できそうだ。ユキが適当に視点移動させると、乗客を見送りに来た人たちのエリアが映る。もの珍しさもあるのか、関係ない見学客もいるようだ。カメラを構えている人がやたら多い。


「あ、クローシェがいた……横にリリカもいるね。あとパンダ」


 見送りはいらないと言っておいたのだが、何人かは見学に来ていたようだ。ヒマだったのかもしれない。

 船内が通話禁止じゃなければ、『貴様、見ているな』と電話する事もできたのだが。


「どっかにダンマスもスタンバってるんじゃないか?」

「ああ、空間固定するために来てるんだっけ。……見学客の中にはいないね。この『ダンマスを探せ!』、不良品だよ」

「目立たない風貌ではあるが、見学客に混ざって作業はしないだろ」


 どこに売ってるんだよ、その絵本。

 その後、ユキが悪戦苦闘しつつリモコンを操作していたが、なかなかダンマスの姿は見つけられなかった。……本当に不良品なのか。


「キグルミでも着てるのかな。ほら、パンダとか」


 それなら分からない。まさか、あそこに並んでるパンダのどれかがダンマスだというのか。それなら確かに発見し辛い迷彩になるが……。


「……っていや、別に隠れてるわけでもないんだから」


 まったく意味がない。意味ない事をするのがダンマスだが、ここでそんな事はしないだろう。多分。

 そんな事をしていると、艦内放送が流れた。テレビではなく、音声のみの案内だ。

 予定していた乗客の搭乗が完了し、最終チェックが済み次第出港するらしい。よほど念入りに事前準備をしていたのか、予定時刻の遅延はないとの事。


「これから、あの輪っかに入るんだよね?」


 ユキが操作を続ける画面には、クーゲルシュライバーの前方に設置された巨大なリングが映っている。

 パンフレットにも書いてあったが、あの輪の範囲に空間の穴を造って船体を潜らせるらしい。大きさはこの船の直径とほぼ同じだそうだが、ぶつけたりする危険はないのだろうか。操作しているのは人間ではなくクーゲルシュライバー君でAIなわけだから、そういう精密な動作は得意なのかもしれない。

 そんな事を考えていると、画面が輪に向かって進み始めた。ユキがズームさせたわけではなく、この船が動き出したのだ。


「あ、見つけた」


 と、その段階になってダンマスの姿が確認できた。輪からかなり離れた建物の中。外を展望できる場所に立っている。

 あんな距離が離れていて作業できるのだろうかとも思ったが、ダンマスだし大丈夫なのだろう。

 また、ダンマスだけではなくアレインさんとアルテリアさん、エルシィさんの姿もある。出港後にそのまま< 地殻穿道 >を攻略しに行くという話だったから、あそこにはそのメンバーが勢揃いしているのかもしれない。


「うわー、綺麗な人だね……あれが領主さんかな」


 そこには、これまで画像でしか見る機会のなかった那由他さんもいた。そしてどういうわけか、その隣にはサティナがいる。雑務係として手伝いをするとは聞いていたが、攻略メンバーと一緒にいる理由はないと思うんだが……。


「多分そうだ。印象は違うが、見かけはそのままだし」


 儚い水色のお姫様というイメージはそのままで、間違えようがない。だが、映像で見たよりも無機質で虚ろな印象を受ける。表情は笑顔だが、どこも見ていない。関心を持っていない。氷のような雰囲気。多分、ダンマスたちと同じ状況に陥っているのだろうが、それを取り繕う気がない、感情のない自分を隠す気がないような、そんな感じだ。……あまりいい状況とはいえないだろう。


「あとは……あのお爺さんはギルドマスターだね。クローシェから聞いてるけど、無茶苦茶な人らしいね。剣術の腕はすごいらしいから、そっちは興味があるんだけどな……」

「基本的に近付かないほうがいいぞ」


 ダンマスが言うには今は人妻……というか未亡人がメインターゲットらしいが、いつ嗜好が変わるか分からない。ユキでも射程範囲に入ってしまう可能性があるから、貞操が心配なら近付かないほうがいいだろう。

 先日、勉強の気晴らしとして彼の自伝を読んでみたのだが、突き抜け過ぎていて理解できなかった。まるで完全な別種……宇宙人か何かの自伝を読んでいる気分にさせられるのだ。数ページごとにSAN値判定が行われるような、禁書に近い何かである。そもそも発行してはいけない。


「やっぱりメイゼルって人はいないな。結構前からダンジョン攻略してるみたいだし、しょうがないのか」

「え?」


 俺のセリフにユキが妙な反応をした。


「……人数的にアレがそうじゃないの? ほら、ピエロみたいな変な仮面被ってるけど」


 ……ピエロ?

 聞いている限り、メイゼルさんは真面目な騎士タイプの女性だ。ダンマスなら分かるが、妙な格好はしないだろう。

 そもそも、人数が合わない。そんなピエロなんてどこにも……。


「……なんだ、あれ」


 いつの間にか、ダンマスの斜め後ろに不気味な道化師の姿があった。何をするでもない。ただそこにいるだけの不自然な存在。

 こちらを見ている者も、歓談している者も、そこに何もいないように振る舞っている。いや、実際つい数瞬前まではいなかった。


『……結構前から、大体一〇〇〇層を超えたあたり……正確な時期は分からないが、その頃から幻覚を見るんだ』


 まさか……アレがそうなのか? だとしても、なんで俺に見える。いや、俺だけではなくユキもだ。


 ……目が、合った。

 あちらからここが見えるはずがない。カメラごし、画面ごしで直接視認しているわけでもないのだ。なのに、俺が見られている。魂の奥底まで覗き込まれるような強烈な視線。目を合わせただけで凍りつくような、埒外の化物がこちらを探っている。



 ……キヒヒヒヒヒッッ!



 道化師は俺を見て笑う。……いや、嗤っている。何をするでもなく、ただこちらを見てただ嗤っている。

 船は止まらない。視点を固定していた映像は横に流れ、ダンマスたちのいる建物ごと画面から消えた。

 異様な事態に呆けていたユキが慌てて視点を戻すと、そこにはもう道化師の姿はなかった。あまりに自然で、最初からそこにいなかったように。……痕跡すら残っていないだろう。


「で、電話したほうが……いや駄目だ、ここ通じない。《 念話 》もブロックしてるらしいし……そうだ、メールなら送れるはず」

「……いや、いい。詳しく説明できないなら混乱させるだけだ」


 慌ててステータスカードを取り出すユキを止める。


「いや、でもアレ普通じゃないよね? そもそも、なんでアレを普通の存在だと思ったのか……」


 ……アレはそういうものじゃない。良くないものではあるが、今どうこうという事はない。そんな確信がある。

 そもそも、世界を渡る際の通路はダンジョンと同じでほとんど時間経過しないから、報告だけなら定時連絡でも変わらない。むしろそちらのほうが早いだろう。船を止めても俺たちが降りても、それ以上を伝える事はできない。なら、このまま行くべきだ。


「航行中も定時連絡としてデータ送信はするはずだ。それで報告しよう」

「そ、それもそうだね。……あービックリした。なんだったんだろ、アレ」


 アレがダンマスが言っていた存在だとするのなら、何もできるはずがない。

 だが、あの道化師はもっと別の……ダンマスではなく、"俺たち"に迫る何かを伝えようとしていた。そう思えてならない。


 あの不気味な顔が頭から離れない。

 俺には、あの嘲笑がまるでこれから起こる"何か"が楽しくて仕方ないような、惨劇の予兆に見えたのだ。



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