第7話 「再戦」

サクは木刀をケガレに突き刺す。ケガレは弱々しく横たわり、灰になって消えた。

「はぁ…はぁ……せんぱいっ…、何分っすか?」

サクは木刀にもたれかかりイツカの方を見る。

「6分42秒。」

「6分…。」

「…まだやるの?もう10体以上と戦ってるけど。息もかなり乱れてる。」

「ぜんぜんっ…、平気っす…っ!」

サクは顔の汗を拭った。訓練所はケガレが死んだ後の灰の匂いと、サクの血の匂いで充満している。

「アレンとの再戦が明日だからって、少し気張りすぎじゃないかな。ちょっとでいいから休憩しなよ。」

そう言ってイツカは水筒を差し出す。サクは受け取って、ごくごくと水を飲んだ。

「…でも、俺はまだケガレ一体を倒すのに5分以上かかってます。3日あれば余裕で倒せる、なんて大口叩いておいて…。」

「サクくん、君は―」

プルルルル…プルルルル……

突然、訓練所に着信音が鳴り響いた。

「あ、ちょっと電話。」

そう言ってイツカはその場を離れた。イツカが戻ってくる間、サクは地面に寝そべり、アレンとの勝負を思い出す。

一瞬でなぎ倒された。アレンが動く様子さえも見ることが出来なかった。その悔しさから、必死に特訓したこの3日、何十体ものケガレと戦っただろうか。だんだん強く、速くなる敵と戦う度に、沢山汗と血を流した。おかげでサクの服の中は全身傷だらけだ。『実力不足』。アレンから言われた言葉を思い出し、歯を食いしばる。言われっぱなしでいるもんか。絶対に明日、ギャフンと言わせてやる。サクは体を上げて拳を握りしめた。ちょうどイツカも帰ってきたので、サクは特訓を再開した。


「やっとこの日…!」

アレンとの再戦当日、サクはいつもより早く訓練所に来ていた。澄んだ青い空。秋の朝の空気は少しひんやりしている。当然、訓練所にはまだ誰もいない。サクは準備運動をして2人を待つことにした。

しばらくして門が開いた。

「あっ!アレンさん!、と…え?」

サクは戸惑う。アレンがイツカを背負って来たからだ。サクの声で目が覚めたのか、イツカがぼんやりとした声で言う。

「…あ、サクくん。おはよう。」

「おはようございます…。いや、えっと…何してるんすか…?」

イツカはきょとん、とした顔をする。

「少し歩くのが面倒だったからおんぶしてもらってただけだけど…」

当然のことのように話すイツカを見て、サクは心配そうにアレンに言う。

「えっと…アレンさん、嫌ならちゃんと嫌って言った方がいいっすよ…?」

「別に嫌じゃない。俺が頼んだんだ。良い運動になるからな。」

そう言ってアレンは、イツカを背中から下ろす。

「えぇ…。」

サクはこれ以上とやかく言うのをやめて、話を切り替える。

「俺、絶対今日勝ちますから!」

「…サクくん、この3日間でかなり強くなったんだよ。地下にいるケガレもほとんど倒しちゃったし。」

「3日で地下のケガレを…。」

アレンはサクの顔を見つめる。

「…それじゃあ今すぐ始めるか?」

「っ!おっす!!」


「じゃあいい?」

イツカが話し始める。

「今日は2人とも木刀無しで戦ってもらうよ。先にサクくんがアレンを殴ることが出来たら勝ち。その前にアレンに倒されたら負けね。わかった?」

「はい!」

イツカはサクとアレンを交互に確認し、合図した。

「初め。」


合図と同時にアレンの手が伸びる。早い。でも、サクの目はそれに追いついている。サクは右に避ける。

アレンが一瞬驚いたような顔をしたが、止まることなくそのまま回し蹴りをする。サクはそれを腕で受け止めた。

「っ…」

重い。サクは衝撃で後ろに押された。ズザザ、と地面が削れる音がする。

「たった3日で…随分と動けるようになったな。」

アレンの言葉にサクはニヤリと笑う。

「まだまだこれからっすよ…!」

サクはアレンに一気に距離を詰め、殴り掛かる。左、右、どちらもアレンの手で止められてしまった。両手は強く掴まれている。

「あっ…!」

「お前、顔しか狙ってないだろ。」

そう言ってアレンはサクに思いっきり頭突きした。体が後ろに倒れそうになるが、一生懸命両足で耐える。鼻から血がツーっと出る。クラクラする視界で一生懸命アレンの方を見ると、目の前に拳が降り掛かってくるのが見える。サクは咄嗟に下に潜り込み、両手で地面を支えて回転しながら、左足でアレンの横腹を蹴った。

「う…っ!」

アレンが目を見開き、低く唸る。サクは少し距離をとり、アレンに殴り掛かる。アレンの顔面とサクの拳が触れる瞬間、急にアレンが居なくなった。それと同時に腹部に激痛が走る。

「カハッ…」

血を吐きながら、サクは倒れた。イツカはそれを確認して近くによる。

「アレンの勝ち。」

その言葉にサクは手の甲を額に乗せながら、乱れた息で大きくため息をつく。

「くっそぉ…。」

悔し涙が溢れてくる。

「…でも、3日でアレンに蹴り入れれるなんて、すごいと思うけど。」

「……そおっすかぁ…?」

「あぁ。お前、すごいな。」

2人の言葉にサクはぽわぽわ温かくなる。

「…次、また戦ってください!その時は絶対勝ちますから!!」

「…あぁ。」

アレンは静かに微笑む。

「それじゃあサクくん、今日は初任務に出ようか。」

「えっ?」

「昨日、本部から連絡が入ったんだ。君がケガレを十分に倒せるようになったら任務に出ていいって。」

「初任務…。」

サクは胸が高鳴るのを感じた。

「はいっ!!」

そうして、サクとイツカは任務に赴いた。

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黒血オーバー けい @kei_1ct

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