第5話 「闘技場」
「それじゃあ今からルールを説明するね。1回しか言わないから、よく聞くように。」
「はい!」
イツカは1匹のケガレのリードをカチャカチャと外しながら続ける。
「今からサクくんにはケガレとその木刀1本で戦ってもらう。先にケガレを殺せたらサクくんの勝ち。サクくんが殺されたらケガレの勝ちだ。…何か質問は?」
「はい!こんな暗い場所で戦うんすか?」
「うん。僕たちハレが活動するのは大体夜だからね。」
「ハレ?」
「あれ、聞かされてない?ハレっていうのは、ケガレ専門の殺し屋のことだよ。」
「へぇー、なんかかっけぇー。あ、じゃあもう一個質問!ケガレとは2匹同時に戦うんすか?」
「1匹ずつだよ。」
イツカはケガレを放つ準備が出来たのか、サクの方を確認して言う。
「質問はもう済んだかな?」
「おっす!」
「それじゃあ、初め。」
ケガレは合図されてすぐ、サク目掛けて飛びかかった。サクは咄嗟に木刀を構え、ケガレの攻撃を防ぐ。ケガレが木刀に噛みつき、ミシミシと音を立てる。サクは木刀ごと振ってケガレをたたき落とした。うずくまるケガレに、サクは思いっきり木刀を振り落とす。
「勝った…!」
ケガレからドス黒い血が吹き上がるのを確認し、サクは木刀をケガレから離そうとした。
「あれ、」
サクが何度揺さぶっても、木刀はケガレから離れない。
「くそっ…」
サクはケガレを右足で抑えながら引っ張ろうとした時、突然、ケガレの血が足にまとわりついた。その血は一瞬で石のように硬くなり、サクの右足は木刀と同じように、動かせなくなった。サクは抜け出すのを諦め、木刀の下のケガレを確認する。
「っ!?いない!!!」
サクは素早く辺りを見回し、暗闇の中からケガレの姿を探す。
「あっ!!」
ケガレが立っているのは正面10mほど先のところ。グルグルと唸ってこちらを見ている。サクがどうしようかとあたふたしているところに、ケガレが突っ走る。
「っ―――」
バキッと音を立てて木刀を折り、間一髪のところでサクはケガレに刺す。折れて鋭くなった木刀はケガレの心臓を正確に貫いた。
「はぁ………はぁ……」
サクは木刀を抜く。サクの右足の黒い血が消えてなくなる。
サクは冷や汗を拭って、イツカの元にずんずんと近寄った。
「ひどいじゃないっすか!!」
イツカはとぼけるように微妙な笑みを浮かべて首を傾げる。
「ケガレの血!俺なんも聞かされてなかったんすけど!!」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってないっすよ!先輩ほんとふざけてるんすか!!?」
興奮するサクにイツカは面倒くさそうにしながら、先程殺したケガレを眺めて話す。
「サクくんは実際に戦ってみて覚えた方がいいんじゃないかなって思ったんだよ。」
「あぁ、確かにそう……じゃないんすよ!!!俺、危うく死ぬとこだったんですからね!!?」
「死んでないからいいじゃないか。」
「そういうことじゃなくって!!!」
ワーワーと叫ぶサクを無視して、イツカは次のケガレを放つ準備をする。
「…そういえばサクくんの木刀、」
「あぁこれ、交換してきま―」
「そのままそれで戦ってもらうから。」
「は?」
「最初に説明したでしょ。その木刀1本で戦ってもらう、って。」
サクの返事に一瞬の間が空く。
「はぁあ!?先輩それマジっすか?マジで言ってます??」
「うん。ルールはルールだからね。」
「〜〜っ!先輩鬼っすよ!!鬼!!!」
イツカはゆらりと振り向いて、サクの目を見て言う。
「元気そうだから休憩はいらないね?」
「…。」
涼しい笑顔のイツカに、怒りの感情も一気に冷め、サクは無愛想に返事をする。
「はい。」
サクの返事に、イツカはケガレとサクを順に確認し、合図をした。
「初め。」
サクはイツカの合図でケガレの方へ走った。
サクは高く飛び、ケガレの上に飛びかかろうとしたその瞬間、ケガレの周りに突然黒い血溜まりができる。
「また血かっ!!」
照明は月明かりのみ。黒光りする血溜まりは、徐々に数が増える。さらに、その血溜まりは上に伸びていき、一瞬で無数の鋭い棘となった。
「やべっ…!」
このままでは串刺しにされてしまう。そう思ったサクは、回転しながら木刀でその棘を次々と折っていく。細長い棘の先は、折れた木刀でも簡単に折れる。下を確認すると、ケガレが降ってくる棘から走って逃げているのが見えた。サクは木刀を握りしめ、ずっしりと太い棘の根元をぴょんぴょんと飛び移りながらケガレを追いかける。ケガレが逃げる先は何も無い平地。ケガレが棘の林を抜けた瞬間、サクは思いっきり木刀を投げつけた。
ザシュッという音とともに、ケガレの頭に木刀が刺さる。
キィイイイッッ――
「っ、うるせぇ…」
耳をつんざくようなケガレの鋭い悲鳴に、サクは思わず耳を塞ぐ。月明かりに照らされるケガレは、よろよろするものの、死ぬ気配は無い。
「…?」
サクがケガレの近くに寄ろうとすると、ケガレは頭に木刀が刺さったままキッとサクの方を睨みつけた。
「なんだよ?」
ヒューという微かな動く音でサクは上を見上げる。
「…なっ!!」
そこには、100本ほどの鋭い矢がサクを囲むようにして浮かび上がっていた。そして、その矢が一斉にサクをめがけて降りかかった。
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