第3話 「テスト」
怪異解決所に向かうため、2人は人気のない道を歩く。セツリのスピードは遅く、少々歩幅を合わせるのに苦労する。
「着いたよ、さっくん。」
セツリの声に、サクは目の前の建物を見上げた。白いレンガの外壁と、綺麗に加工された木製の黒いドア。ドアにはサクの目の位置ほどの高さに"依頼屋"と書かれた小さな白い看板がかかっている。モノクロなその建物は、周りに植えられた植物によって華やかに彩られている。
「ここが怪異解決所…。」
「さ、入って入って。」
そう言いながらセツリがサクの手を引いて中に入った。
カランカラン、とドア上部に取り付けられたベルが鳴る。
「ただいまー。」
中にはローテーブルを挟むように3人がけのソファ、その左側には背の高いL字型の机に革製の椅子が置かれてある。ドアベルの音を聞いてか、右奥のドアから男の人が出てきた。
「…あぁ、セツリか。」
「おぉ、カイ!ちょうど良かった!」
「はぁ…?」
男の人はセツリの発言にやや怪訝そうな顔でクシャクシャと頭を掻きながら、こちらに寄ってきた。銀色の髪に浅葱色の瞳。ふんわりとハーブの爽やかな香りがする。サクの存在に気がついたのか、男性はセツリに質問する。
「…依頼人か?」
「いーや、新しい仲間になる予定のサクくんだよ。」
「は?」
ニコニコと笑うセツリとは対照的に、「カイ」と呼ばれる男性は困惑…というか半ば呆れ顔である。
「それでカイ、君にこの子の組織加入の手続きをお願いしたいんだけど。」
男性はセツリとサクを交互に見て、深いため息をついたあと返事をする。
「了解した。…だが組織加入にはいくつかテストしないといけないことがある。加入はそれからだ。」
「テスト…。」
そうつぶやくサクに男性は言う。
「サク…と言ったか。資料を持ってくるからそこ座ってろ。」
「はい!」
「あとセツリ、お前はどっか行け。」
「えぇ?せっかく帰ってきたのに〜…。」
そう言ってセツリはしぶしぶ先程来た道を引き返す。男性は右奥のドアに入っていき、サクだけが手を振って見送っている。しばらくしてセツリは途中で振り返り、サクに大声で言う。
「さっく〜ん!その人こわーい人だけど、悪い人じゃないから安心してね〜!」
セツリの声が聞こえたのか、3枚ほどの資料を手に男性が飛び出してきて叫んだ。
「黙ってさっさと行け!!」
男性は勢い良くドアを閉め、ため息をつきながら奥のソファに座る。
「すまん、声を荒らげてしまって。俺は人事部長のカイだ。そこに座ってくれ。」
そう言われ、サクはカイの指さす向かいのソファに座った。
「…ではお前にいくつか質問する。加入の合否はその答えで判断する。」
「はい!」
カイは資料に目を落とす。
「まず、家族はいるか。」
「はい!父さんと母さん、兄貴2人と姉貴が1人!」
「…家族のことは好きか?」
「はい!大好きっす!」
「…志望理由は。」
「セツリさんが勧誘してくれたからっていうのもあるんすけど、今日この組織の人が危ないところを助けてくれて…」
「…憧れか。」
「憧れです!」
目を輝かせるサクを見つめ、カイは溜息をつき、眉間を押さえながら言う。
「不合格だ。」
「えぇ!!?」
思わずサクはローテーブルに手をついて立ち上がる。カイは気に留めることなく、話を続ける。
「お前も助けてもらったならわかるだろう、ケガレの恐ろしさ。俺たちはアレと毎日戦っているんだ。」
「…。」
「そんな危険な組織に、憧れだなんて浮ついた理由で入れることは出来ない。それに、家族もいるなら尚更だ。」
サクはぎゅっと拳を握りしめる。
「…この組織が危険なところだなんてもうわかってます!」
「わかってない。」
「わかって―」
「死ぬかもしれないんだぞ。」
「っ、」
カイの発言にサクは動揺する。
「…お前、この組織がケガレに殺された人数を知っているか。」
「え?えぇと…」
「67人だ。」
「67…」
「今この組織に残っているのは、去年いた分の半分にも満たない。…これも全部、ケガレによって減らされたんだ。」
サクは俯いてソファに座る。少し間を置いてカイが口を開く。
「…俺もこれ以上ケガレの犠牲者を増やしたくない。わかったなら早く帰れ。」
サクは、先程よりも強く拳を握りしめ、カイの目を見つめて言う。
「嫌です。」
「…は?お前、今の話聞いてたか?」
「はい。聞いた上で、です!」
「…死にたいのか?」
「いいえ全く!」
「じゃあ―」
「でも、この組織も仲間は多い方がいいっすよね?」
「……死ぬやつが増えるのは御免だ。」
「なんで死ぬって決めつけるんすか!俺はそのケガレ?には絶対に殺されないっす!!」
「…お前は不死身か何かか。なぜそんなに死なない自信がある?」
「……これは俺がガキの頃から信じてきたものなんですけど…」
「………。」
「勘です。」
カイは今までにないくらい大きなため息をついた。
「話にならない…。帰れ。」
「帰りません!俺、この組織に加入できるまでぜっったいに帰りませんから!!」
サクとカイはしばらく睨み合った後、カイの方がため息をついて席を立つ。
「…そんなに死にたいのか。」
「だから俺は…」
「後で恨むんじゃねぇぞ。」
「…どういう意味っすか?」
「…合格だ。」
サクの表情が一気に明るくなる。
「マジっすか!?」
「あぁ。お前みたいなアホには何を言っても無駄だ。」
「アホっ…なんてこと言うんすか!!?」
「どっからどう見てもアホだろ。」
カイは紙とペンを机に置きながら言う。
「契約書だ。キーキー騒ぐ暇があったらここにサインしろ。」
「……はぁい。」
カイの言い方にムッとしながらもサクは大人しく返事をし、左手でペンを持った。
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