第50話 間違える距離
次の日から、教室の中で空気が変わるのを感じた。
今までは無干渉だったものが、今日は腫れものを扱うようなものになっている。
端的に言えば、避けられている。
「これは、お礼どころじゃなくなったな」
昨日
頭の先から腰のあたりまで刺さった針の痛みがじんわりと全身に広がっていく。
明日からゴールデンウィークの連休が始まる。今日中に言えなかったらメッセージだけで済ませようと思っていたが、これは今日中に話しかけるのは無理だろう。さて、どうしたものか。
授業中、休み時間、昼休み。時と場合を考えることなく常時針が刺さってくる。お前らは暇人か。授業に集中しろよ。いい加減、突き刺さる針の一つ一つを堪えるだけの集中力が無くなって来た。
授業の内容などまともに入ってこない。まあ、元々聞いてなんていないが。
「ねえ、ほんとに――」
「嘘だろ――」
「いや、実はな――」
小声で話す声のすべてが自分に向いているんじゃないかと錯覚する。教室中のすべてが敵に回って、ここに居場所なんてないんだって言われているような気がする。そんなわけはない、そんなわけはないと頭では分かっていても、全身に突き刺さる針の痛みは増すばかり。
それが
「どうせ今日で一区切りつくだろ。人の噂もなんとやら」
放課後。なおも痛む全身を引きずるようにしながら教室を出ようとした
「か、
上擦りかけた声で、控えめに名前を呼ばれて振り返れば見覚えのある顔がいた。
誰だっけ。あれ、この顔、見たことあるはずなんだけど。
「その、ちょっと気になることがあるんだけど、聞いてもいいかな?」
つまりは、面白半分で噂の真偽を確かめようって言うわけか。
「今ちょっとした噂が流れてて、その、そこで
予想は的中。やはり
「で、でも、
尻すぼみになっていく言葉を、
この痛みは、痛みは……
「違う」
「え?」
「違う、はずだ。どんな噂かはっきりとは分からないけど、俺じゃない」
藁にもすがる想いとはまさにこの事だろう。顔も名前も覚えていないような相手に何必死に訴えているんだろうか。どうせ馬鹿を見る。また、繰り返すだけ。
目を逸らそうとしたその瞬間に、強い衝撃を背中に受けた。
「そうだよな! 雛沢がモテるとか、そんなわけないよな!」
「そうそう、ありえないありえない!」
どうやら
何が何だか分からないが、ふざけんなと、心の中で叫んでおこう。
ざっけんな、クソ野郎。
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