第47話 伝わらない距離

「一体どういうことなの~……っ!?」


 顔を枕に押さえつけ、心音ここねはもやもやとした思いを吐き出していた。


「なんか今日ずっと心奏かなでから視線を感じたんだけど!? そういうこと!? そういうことなの!? でも心奏かなでってそういう感じじゃないし……。も~っ! ほんとになに!?」


 心がざわつく。嫌な予感とかじゃなくて、何とも言い表せない不安とも違う騒めき。言い換えるのなら、高鳴り?


「ち、違う! 別に私は、心奏かなでが好きとかじゃ、ない。特別格好いいわけじゃないし、優しいわけじゃないし、そもそも私にだって興味無さげだし……でも、だったらなんで今日はやたらと視線を……。もしかして気のせい? 私の考えすぎ?」


 でも休み時間の度にこっちを見て来たのは確かだと思う。授業中も何度か目が合いそうになった。放課後だって背中に視線を感じたし……これで気のせいだとしたらよっぽど重症だと思う。


「私、そんなに意識してるのかなぁ……」


 確かに心奏かなでには共感できるところがある。だからこそ少しでも力になって上げられたらなと思うし、そのために勇気も出してみた。ほんとは、男の子と距離を詰めるのとか苦手だけど、名前呼びだって自分から提案した。

 そしたらそしたで何のためらいも無く呼び捨てにされて動揺してしまったが、成功はした。


 ……やはり、あれで女慣れしているのだろうか。

 前はゴスロリ衣装の女の子とイベントに出掛けていたし、正直クラス会の時のお弁当も怪しいのだ。お母さんと言っていたが、本当だろうか。なんか淀みがあった気がする。勘だけど、お母さんじゃない気がする。

 ショッピングモールで見かけた時も四人がけの席で、その時は家族と言ってたのかなと思ったけど、今考えるとそうじゃない可能性もある。もしかして、クラスメイト達に興味がないのは学校外の友達が多いからではないだろうか。


「……それは、ムカつく」


 こうして色々手を焼いてあげてるって言うのに心奏かなでは外で女友達と遊び歩いてるとか、想像しただけでイライラする。

 だとすれば、心音ここねに興味がないのも納得だ。外に女友達がたくさんいるのなら、わざわざクラスメイトの中から仲のいい人を見つける必要もない。そう思っているからこそ対応は素っ気なく、のくせ女慣れしてる。

 所々常識からずれたところがあるのにも、ちょっとだけ納得がいく。


「って、待って? じゃあなんで今日は私のこと見てたの?」


 そっちの説明が付かないままだった。だって心音ここねには興味がないはずではないか。それなのに、なんで……


「まさかっ!?」


 心音ここねの顔が一気に熱を帯びる。


 待って待って待って! だとするともしかして、私を遊び相手に加えようって話!? だ、ダメダメダメ! 絶対ダメ! 不純なのはダメ! どうせなら一対一がいい! ……じゃ、ない! そもそも私は心奏かなでのことなんて好きでもなんでも! で、でも顔は、悪くないんだよね。格好いいかって言われると、そうでもないかもしれないでもないけど、嫌いかと言われればこれまたそうでもないかもしれないでもないことはない。あれ、結局どっちなんだろ。


「うぅ~っ! だあぁっ! もやもやする!」


 再び叫びを枕に叩きつけ、どうしようもない思いを足をベットに何度も叩きつけて紛らわす。


「絶対、不順異性交遊は、ダメ!」


 経験なんて全くないし! 最初がそんな遊び人なのはダメ! ……でも、心奏かなでは優しいところとか、気が利くところもあるし……。


「って、何考えてるの私!」


 どんどん熱が上がっていく顔を何度も枕に叩きつけ、心音ここねは一向に眠れない夜を過ごした。

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