第二章 続かない距離

第一節 離れる距離

第46話 伝わる距離

 月曜日。

 学校に登校した心奏かなでは荷物を置いてすぐ、心音ここねを探した。


 昨日、帰ってから言われたのだ。


「なんだっけ、クラス会を開いてくれた子。ちゃんとお礼言ってあげなさいよ。あんたのことだから、どうせ言ってないんだろうし」


 確かに言っていないな。心音ここねは頑張って準備してくれたんだし、言われてみれば必要なことだ。


 しかし、探してみると心音ここねはクラスメイト達に囲まれて談笑をしていた。

 あれは、邪魔しないほうがいいな。


 また昼休みか、放課後にでも暇を見つけて声をかけよう。でも、クラスメイト達から人気の心音ここねだ。もしかしたら暇なんてないかもしれない。その時は……メッセージでいいか。でも最終手段にしたほうがいいな。たぶん、こういうことは直接言うのが大切だ。


 そういえば、授業の合間の休み時間って選択肢もあるのか。と、一先ず朝の時間をパスする。


 一校時の終わり。


「……まったく集中できなかった」


 何と伝えるか、どのタイミングで伝えるか、どんな表情で伝えるか。

 ただその事ばかりを考えていると、授業の内容が全く入ってこなかった。まあ、元より聞いていないようなものなのでいいが、あの先生授業でノートを取っていたかどうか、検査するんだよな。どうしたものか。

 多くの生徒はこういう場合、クラスメイトにノートを借りるのかもしれないが生憎と心奏かなでにはそんなことをお願いできる相手がいなかった。


 さて、悩んだ成果はと言うと、一呼吸ついて心奏かなで心音ここねを見た時にはすでに移動教室の準備を終えて教室を出て行くところだった。


「まあ、また今度だな」


 続く二校時。理科の実験の最中も考えるのは心音ここねのことだ。今まで話をする時は全部心音ここねからだった。そのせいで中々話し掛けられるタイミングと言うものが見つからない。席は決して近くないし、普段から話すような仲でもない。

 もしかするとこの挑戦は想像を絶する難易度なのかもしれない。


 二校時が終わって教室に戻っているうちに心音ここねを見失い、心音ここねが戻って来た頃には三校時が始まっていた。

 三校時の終わりに声をかけようとした時には、再びクラスメイト達が集まり終わっていた。どうやら心音ここねの人気っぷりは凄いらしい。今まで注目もしたことが無かったので気付かなかったが、話をするにはアポを取る必要があるのかもしれない。


「こりゃ、昼休みも駄目そうだな」


 四校時が終わってみると、心奏かなでの予想通りだった。

 あの日の、心奏かなでと一緒にご飯を食べるというのはやはり非日常だったらしい。今、心音ここねの席の周りでは心奏かなでなど到底必要には見えないような賑わいを見せていた。


「まあ、仕方ないな」


 そう呟いて、心奏かなでは自席で一人お弁当を開いた。


 午後の授業が何の成果もないままに終わり、放課後。さて今度こそはと心音ここねを見ると義弘よしひろ先生と共に教室を出て行ってしまった。もしかすると何かクラス長として仕事があるのかもしれない。

 だとしたらそれは優先すべきことだし、お礼を言うのがどうでもいいというわけではないが、今は遠慮しておいた方がいいだろう。その話が終わるまで待つのも一つの手段だが、話し合いで疲れたところに押しかけても迷惑になるかもしれない。

 部活動があるかもしれないし、他の友達と一緒に帰る約束があるかもしれない。やはり、待つのは得策とは言えないだろう。


「……帰るか」


 結局その日は何の成果もないまま、心奏かなでは帰宅することにした」

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