第45話 雛沢心羽
「あはははっ、あははははっ」
家までの道のりで、
「あーだめだめ、まだ笑い止まんないもん。私、あんたがあんなに大きな声出せるの知らなかったわ」
「俺だって
「変な事とは何よ、いい気分だったでしょ?」
「まあ、否定はしない」
「だから、素直に口にしていいのよ。せめて私に食らい本音を言いなさい」
その口調は少し強かったけど、強要しているわけではないのだろう。笑顔のままで言うのは、どんな言葉で受け入れて上げるという優しさなのだろうな。
「いい気分だった。すかったとしたというか、今まで引っ掛かっていた物が取れた感じだった。楽しいって、こういうことを言うんだと思った。だから、ありがとな。今日が楽しかったのは
「そうね、確かに私のおかげかもしれないわ」
何がそんなに嬉しいんだか。
ただすぐに、態度を正して
「でも、自分の感情を真っ直ぐに口にして、それを本物にしたのはあんた、
その言葉は、
「大抵の感情は、心の中で竦んで記憶になんて残らないわ。あんたの場合、そういうことが多すぎたってだけ。あんたは別に感情が無いわけでも、感受性が低いわけでもない。それを形にするのが下手だっただけ、やり方を知らなかっただけ。私も最近になってようやく、
「悩んで、いたのか?」
「何で疑問形なのよ……でもまあ、そういうところよ。
どうして
ああ、そういえば
まだまだ、隣に立つには時間がかかるらしい。
「思いかけた感情を、全部口に出してみなさい。それはその内確かな形を持って、記憶にも残るわ。楽しいかもしれないと思ったら楽しい、悲しいかもしれないと思ったら悲しい。それを口に出来る人が、やがて楽しい時には笑うようになって、悲しい時に泣くようになるのよ。それが人間らしいってこと。
そんなわけがないだろ。何が簡単なんだ。それが出来ていたなら今頃こんな風になってない、なんて普段の
でもその時は不思議と軽やかな気分だった。何でも出来てしまうような、万能感と言えばいいのだろうか。浮かれるってこういうことなんだろうなって、心奏 《かなで》はまた一つ感情を知った。
「そうだな。それくらいなら、俺にもできそうだ」
「でしょ? ならこれからは毎回口にしなさい。別にかもしれない、って思わなくてもいいわ。楽しいと感じそうなシチュエーションだと思ったら楽しいって言う、そういうのでいいの。その内何が本当に楽しいのかが分かるようになる。本来なら、こんな年になる前に皆やることだとは思うけど……あんたは自分なりのペースでこれから頑張りなさい」
「何で上から目線なんだよ」
「私が教えている側だからよ」
「頼んだ覚えは無いんだけどな」
「頼まれなくても教えてあげるのが、いい教師ってものなのよ」
自慢げにそういう
帰り道の間、
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