第44話 お土産
「よしっ、結構買えたわね」
「こんなにいるか? 買い過ぎなんじゃないか?」
「何言ってるのよ、せっかく来たんだし、たくさん買えれば買えるだけいいのよ」
その理屈はよく分からなかったが、お金を払うのは
「そういう
「思い出が、あるからな」
「透かした顔で何言ってんのよ、似合わないわよ」
「知ってるよ」
「不貞腐れないでよ……」
別に不貞腐れてなんてない。こんなセリフが全く似合わないことくらい分かってるんだ。ああ、まったく不貞腐れてなんてない。
「あ、そうだ。これを聞こうと思ってたのよね」
「ん? なんだ?」
両手いっぱいにお土産を抱えた
「今日、楽しかった?」
「いきなりだな。まあ、どうだろうな。よく分からない」
詰らないなんてことは無かったはずだ。面白いと言ってしまったら、その言葉が安っぽく聞こえてしまいそうな気がした。そんな風に考えていると、溜息が聞こえた。楽しいかどうかも分からないなんてやはり呆れられるよな、と思って
「どうせそんなことを言うだろうと思っていたわよ」
「……じゃあ、なんで聞いたんだよ」
「あんた、昨日
「そう、だったか?」
「ええ、はっきりと。よく分からない、って。そんなあんたに、いいことを教えてあげるわ」
「楽しかったーっ!」
「ちょ、急にどうした!」
いきなり叫び出した
そんな俺の動揺が伝わってか、
「ほら、あんたも一緒に言いなさい。私だけに恥ずかしい思いさせるわけ?」
「は、恥ずかしいなら止めろよ!」
「ばーか。今更後戻りはできないわよ。ほら、一緒に言いなさい」
な、なんだってんだ? はしゃぎすぎて気でも狂ったのかと思っていると、
「楽しかったーっ!」
「た、楽しかったー?」
「もっと大きく!」
「楽しかったーっ」
「もっと心から!」
「た、楽しかったーっ!」
「楽しかったぁーっ!」
「楽しかったあぁっー!」
「楽しかったああぁぁっっ!!」
一際大きく
すっげ―楽しい気がする。
「「楽しかったああああああああぁぁぁぁぁっっっっーーーー!!!」」
その日遊園地に響いた叫びは、とっても可愛らしい恋人が大声を上げていたという噂と共にしばらくその日の雰囲気を纏い続けた。
思わず、誰もが楽しいなんて勘違いしてしまうような、素敵な土産話だった。
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