好きな人に告白できなかったので学校一の美少女で妥協したら修羅場しかない【リメイク版】

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第1話 女神様は告白する

 人生は妥協の連続である。


 そんな言葉がある。


 妥協という言葉の本来の意味は、相手と主張が対立した場合にお互いの主張を譲り合い、一致点を見出すことだ。

 が、このように派生して自分の中の理想、願望と自分自身の現実との間に対しても使われることも多い。


 まぁ要は、理想はあるけれど、現実的にその全てを叶えることができないからそれに近しい方法で欲を満たす、ということだ。


 みんなもこれまでも人生で経験したことがあるんじゃないだろうか?


 例えば、学生だったら自分の進学先であったり。社会人になるための就職先やその先の仕事内容とかもそうだ。

 例えば……結婚相手、付き合う相手とかな。失礼なことにそれが現実である。

 

 その他も小さなことを挙げれば、キリがない。


 だけど、その全てが悪いわけじゃない。その中でどう生きるか、その選択を受け入れた上でどう過ごしていくかが大切なんじゃないだろうか。

 それでその先に幸せが待っているなら、あの時の選択もきっと間違いじゃなかったと言えるはずだ。


 ……なんでこんなこと考えているかと言えば、今俺もまさにそんな選択をしようとしているからである。

 いやはや、人生何が起こるかわからんね、本当に。

 

「それでどうなのかしら?」


 目の前で微笑むのは学園の女神。誰もが惚れ惚れするような美しさを持つ、美の化身。

 そして


「……俺で良ければ」


 そんな相手に向かって妥協する、だなんて贅沢を言う俺は、いつか絶対にバチが当たる……そんな予感がしてならない。


 ◆


 俺──小宮陽こみやようは、十七歳の誕生日を目前に焦っていた。


 『十七までに恋人を作れ。できなかったら家に戻って知り合いの娘と婚約な?』


 これが中学卒業の時に父と結んだ約束。

 自由のない生活に嫌気が差していた俺は県外の高校を受験し、一人暮らしをさせて欲しいと頭を下げた結果、そんな条件を押し付けられたのだ。


 どうしても家を出たかった俺は、愚かにも『一年あれば彼女くらいできらぁ!』と意気込んで家を出たのである。


 それから早一年。

 四月八日。

 十七歳になるまで残り十日。

 現在、恋人なし。


 何事にも想定外というものはつきもの。若さとは勢いなのである……言っている場合ではない。


「はぁ……」

 

 まだ一年もあるし大丈夫。まだ半年あるし大丈夫。まだ三ヶ月あるし大丈夫。と余裕をぶっこいていたらこの様。

 リミットは刻一刻と迫っており、ため息をつかずにはいられなかった。


 適当なその辺の女子に告白しまくれば、もしかしたら、ということもあるかもしれないが、あまりにリスクが大きい。


 ただ、だからって誰でもいいわけでもない。俺にだって、好きな人の一人や二人いる。いや、二人いたらまずいか。

 

「どうしたの? 顔色悪いよ?」

「あー、いや、なんでもないよ!」

「本当に大丈夫? 顔赤くない? 熱でもあるのかな」

「本当に大丈夫だから!」


 先ほどから俺を心配して優しい言葉をかける隣の席の彼女──遠野結とおのゆいさんは片思いしている相手だ。


 大和撫子。まさしくそんな言葉が似合う彼女に出会ったのは入学式だった。

 

 自分が遅刻しそうになることも躊躇わず、他人を助けることを優先した姿を偶然目撃した。この時は、このご時世にそんな真面目な人間がいるんだなとその場をスルーした俺だったが、結果としてそれでも遅刻せず新入生代表として挨拶した彼女に強い関心を抱いた。


 それからだ。俺とは違い、何事も真面目で正義感に溢れ、誰にでも平等に優しく接する真っ直ぐな姿を一年見てきて、いつしか惹かれていた。 

  

「それじゃあ……何か悩み事かな?」


 長い黒髪を揺らし、小首を傾げるその姿に小首を傾げるその姿に惚れ惚れしない男子は少なくないだろう。

 目の前にいるあなたと付き合えないことが悩みなんですよ、なんてことは言えるはずもない。


「あ、分かった。恋の悩みでしょう?」

「っ、いや……」

「ふふ、変な声出てるよ。もしかして図星?」

「……」


 蠱惑的に笑う彼女からの鋭いその問いに対してどう答えようか迷う。


「よかったら私に聞かせてみて。相談に乗るよ?」


 優しい。だけど今はその優しさが沁みるんだよな……。どうせなら嫌いになれるように罵倒して欲しい。

 あ、罵倒されても遠野さんだったら喜んじゃうかもしれない。


 こんなことならさっさと告白しておけば、よかったと今更ながら後悔する。

 まぁ、それができていたらここまで苦労はしていない。


 こんなこと言い訳に過ぎないが、過去の恋愛にトラウマがあるのだ。そのせいで彼女を好きであることを自覚するのに時間がかかった。

 そしてその時には、既に手遅れだったのだ。

 

 ……彼女に恋人がいることが発覚した。人生ってやっぱりうまくいかねぇ。

 


 数日前の休日。出かけ先で俺は、彼女を見かけた。

 普段学校でしかみることのできない彼女を休日の日に見かけて、俺はテンションが上がった。


 本屋で並べられた小説の表紙を嬉しそうな表情で見ていたのを覚えている。

 

 どうしよう? 何か声をかけるか? あ、待て。休みの日にわざわざ声かけてきたらキモいか!?


 と迷っていると、奥からやってきたのは遠目に見ても分かるイケメン。そしてあろうことか、遠野さんに話しかけたのだ。


 ナンパかと思ったが、どうやら違う。

 楽しそうに笑いあう二人は、腕を組んで本屋から去って行ったのであった。

 

 あんな笑顔の遠野さんを見たのは初めてだった。そして俺は脳を破壊された。

 


「はぁ……」


 思い出すだけでもため息が溢れでる。

 だから俺は彼女への想いをほぼ諦めかけていた。


 恋人がいたんじゃどうしようもない。だけども簡単にこの想いを捨てることもできない。

 諦めたいけど諦めきれない。だけど彼女も作らないといけない。

 焦燥感が募り、タイムリミットはもう目前にまで迫っている。

 

 二年でも同じクラスになった遠野さんは変わらず、俺に優しく接してくれる。

 遠野さんと話すたびにまた余計な想いが溢れてくる。


「ほら、一人で悩んでないで言ってみて?」

「じゃあさ、一つ教えてくれる?」

「うん? いいよ」

 

 でもどうせダメなら、あの日のことを聞いてみよう。

 あれは見間違いだったのじゃないのか。実は仲のいい兄弟だったんじゃないのか。


 それによっては、俺もきっぱりと諦めがつくかもしれない。その逆の可能性が高いけど。

 最後の悪足掻き? 往生際が悪い? 何とでも言え!!

 

「遠野さん、この前本屋で見かけたんだけどさ」

「え、本屋? それなら声かけてくればよかったのに!」

「いや、その時、イケメンと腕組んでたから……声かけづらくって」

「み、見てたの!?」

「……あれってもしかして恋人だったりする?」

「こ、恋人!? ち、違うからね!?」


 あ、だめだ。

 否定はしているが、この焦り具合。決まりである。

 恥ずかしそうに頬を染める遠野さん。かわい……じゃなくてさよなら、俺の恋心。


 終わった。聞けば聞くほど傷つくのは自分なのに止められなかった。

 彼女の顔を見れば分かる。相当好きなようだ。


「あの子とはそういうんじゃないからね!? ただの幼馴染! 幼馴染だから!!」


 幼馴染のイケメンとか勝てる要素なくない? 泣ける。


「あ、先生こっち見てるよ! ちゃんと授業聞かなくちゃね!」


 そう言って明らかに誤魔化された俺はまた小さくため息をついたのだった。



 こんな確定事項まであったというのに、悲しいかな未だに俺は未練がある。

 だけど、遠野さんとは付き合えない。それでも彼女を作らないといけない。


「婚約者ねぇ……」


 いっそそれもありなのかもしれない。もしかしたら、とてつもない美人で優しい人が来て、この傷心中の心を癒してくれるかもしれない。


「……んなわけねぇよなぁ」


 追い込まれた人間は理想を夢見がちである。

 そんな簡単に行くなら、こんなに悩んでいない。


 それにもしそうなったとしてもあの家の人間として生きていかなければならないなんて苦痛しかない。俺にとってそれだけは避けたい選択肢だった。


「……だああ! だからってどうしたらいいんだ!! 後、十日で彼女作るとか無理だろっ!!」

 

 そんなジレンマに悩まされ、女々しくウジウジした気持ちを抱えながら迎えた放課後。

 机に突っ伏す半端野郎の俺の前に、彼女は現れた。


「小宮くん」

「い、市川さん!?」


 呼ばれて顔を上げるとそこには、同じクラスの市川蒼いちかわあおいさんがいた。


 い、今の聞かれた?

 頭を抱えて叫んでいたところを。は、恥ずかしい……。


 だけど市川さんは、俺の胸中などまるで気にしないかのように隣の机に腰掛け、じっとこちらを見つめてきた。


「え、えっと何か用か?」

「ええ、あなたを探していたの」

「……俺を? なんで?」


 残念ながら俺と市川さんはそこまで接点がない。二年になってから同じクラスになり、まだ数回言葉を交わした程度だ。

 そんな俺に一体何の用だ?


「あなたに話したいことがあったの」

「話したいこと……?」

「そう。聞いてくれる?」

「まぁ……」


 何のことか検討もつかない。

 でも一人でいても悩むだけなのならば、話をすれば気が紛れるかと思い、了承した。


「ありがとう。小宮陽くん」

「っ」


 フルネームで名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。

 市川さんの方を見ると、真剣な眼差しでこちらをジッと見つめてくる。


 やめてほしい。そんな端正な顔で見つめられて目を合わし続けられるほど俺の心臓は強くない。


 だけどその綺麗な双眸は何かを決心したかのような力強さで俺を捉えて離さない。


 ちょ、ちょっと待て? え、なんだ、この感じ……ま、まさか?


「じゃあ、聞いてくれるかしら」


 慣れないシチュエーションに喉が鳴る。俺は無言のまま小さく頷いた。


「──あなたが好きよ。私と付き合ってくれないかしら?」


 そして放たれた予想もしていなかった言葉。

 俺、小宮陽は、氷の女神と呼ばれる学園一の美少女から告白を受けたのだった。



──────────


お待たせしました。リメイク版公開です。

基本的な流れは変わっていませんが、細かい設定等が変更になっています。できるだけリメイク前より明るめに、ライトに書いていますので違いを楽しんでいただければと思います。


登場人物の名前も変わっていますので登場した場面で変更前後を記載しておきます。


小宮洋太 → 小宮陽

遠野瞳  → 遠野結


一応、カクコン応募作品です。ギリギリの発表になってしまいましたが……間に合うか?

基本毎日2話公開で後半は3話公開のペースになるかもしれません。間に合わなかったらすみません。


応援よろしくお願いします。

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