墓地の妖精 2

 ひ~‼

 なんかいる! なんかいる‼ なんかいるよ~‼

 黒い何かが、ゆらゆらと炎のように揺れているよ!


「お、おに、おに、おにいちゃ、ま……」

「おやマリア、お前が『おにいちゃま』と呼ぶのは八歳の時以来だねえ。おにいちゃま、嬉しくなっちゃうよ」


 ……お兄様、ふざけている場合ではありません! そして今のは、ちょっと噛んじゃっただけです!


「な、なにか、なにかが、いっぱいいますっ」

「ああ、アンデットだろう。墓地に出てくる魔物だよ」


 ……いやいや、なにさらっと言ってるんですか!


 アンデットなんて、そうそうお目にかかるような魔物ではない。

 というのも、アンデットの生息地はだいたい墓地なので、各墓地にはアンデットが住み着かないように結界が張られているのだ。


「どうやらここの結界が緩んでいたようだな。調査依頼を取り合わなかった国の失態だ。あとで苦情を上げておく必要があるな」


 ……アレクサンダー様も落ち着いていらっしゃいますね!


 わたしはちっとも落ち着けそうにない。

 がくがくと膝が震えてきた。

 アンデットというと、つまりは前世で言うところのお化けみたいなものですからね‼ わたしは人生にホラー要素は必要ない人間なんです‼


「お兄様、アレクサンダー様、にげ、逃げましょうっ! 妖精はいなかったんですから!」

「ふむ、アンデットを討伐するのは私たちの仕事ではないので、逃げられるのならば逃げてもいいのだが、残念ながら周囲を囲まれてしまっている。周囲の墓を破壊する勢いで強行突破するのならば逃げられなくもないが、あまり褒められたことではないだろう?」


 お兄様が冷静に状況判断を下す。


「もう一つ、これだけの数のアンデットが出てきたのは、恐らく私たちが墓地を訪れたせいでもあるだろう。彼らにしてみたら住処を荒らしに来られたようなものだろうからな。この状況で私たちが去れば、興奮状態にあるアンデットたちが近くの住人を襲わないとも限らない。近くには教会も孤児院もある。彼らを犠牲にするのは『貴族の義務』に反することではないかと思うのだが、君はどう思う?」


 うぅ、アレクサンダー様まで冷静に「貴族の義務」を語り出したわ!

 そしてわたしも、わたしたちが逃げたせいで教会のシスターや司祭様たち、孤児院の子供たちがアンデットに襲われるのは嫌ですよ。嫌ですけどね!


 ……怖いんですぅ~‼


 国よ、なぜ司祭様の調査依頼を無視したの⁉ ばかああああああ‼


 でも、わたしも覚悟を決めますよ。

 足はがくがくしているし今にも泣きそうですけど、さすがに誰かが犠牲になるのは嫌ですからね!

 とはいえわたしにできることがあるとは思えないので、お兄様たちが頑張るのを陰ながら応援することしかできませんが!

 だってわたし自身の戦力は、ファイアーボール二発ですもの! 威張って言うことじゃないけどね!


 ……お兄様、アレクサンダー様、がんばって~! がんばってマリアを、このお化け地獄から救ってください‼


 心の叫びが聞こえたのか、お兄様とアレクサンダー様がちらりとわたしを振り返る。


「安心しなさい。マリアのことはおにいちゃまが必ず守ってあげよう」

「君の戦力は当てにしていない。だから君は、自分の身を守ることだけに専念しなさい。君にアンデットたちを近づけさせたりしないよ」


 二人とも、頼もしい!

 何といっても、二人とも上級魔法を軽々と操る天才ですからね! 大丈夫、二人がいたら、アンデットたちなんてあっという間に退治されちゃうはずよ!


 他力本願なことこの上ないが、わたしは現在「レベル二」ですからね! レベル二の女が、アンデットの群れに立ち向かおうなんて愚の骨頂! わたしは自分の実力を正しく理解できるようになったんです! 無理!


「アレクサンダー、右半分を頼むよ。私は左半分を請け負おう」

「わかった」


 お兄様が体の向きを少し左に向けて言うと、アレクサンダー様も右側に向き直った。


 そして、お兄様とアレクサンダー様は、初っ端から、容赦ない上級魔法をアンデットたちに叩き込んだのである。




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