【#40】更なる高みへ

「”切り札”……?」


 俺の含みを持たせた発言に対し、まるで不意を突かれたような表情を浮かべるヴァルフレッド。


 しかし、すぐに俺の心理を見抜いたかのように、小慣れた嘲笑ちょうしょうへと戻っていく。


「クハハ、くだらんハッタリはよせ? 悪あがきは見苦しいぞ?」


「またまたぁ、そんなんじゃないですよ~~~?」


 俺はウイスキーをまた一つ飲み干して、ヴァルフレッドに向かって自信満々に言い放った。


「”とっておきの技”って、ここぞって時までに隠しておくモンじゃないですか? だから、そろそろって思いましてねぇ~~」


 :え!? なになに!?

 :新技!? マジかよ!?

 :流石は酒クズちゃん!! まだまだ強くなるんだな……!!


 ……ま、ホントは今さっき思いついたんだけどね!


 そんな内心の焦りは誰にもバレてないらしく、目の前のヴァルフレッドも軽く煽り混じりに返事してくる。


「まぁ、どちらでもいい。それが本当だろうが、嘘だろうが……どちらでもな? いずれにせよ……我も最大の力をもってして、貴様を消し飛ばすとしよう。虫けらのようにな? ──ゆくぞっ!!」


「!!」


 再び魔力を解放して向かってくるヴァルフレッド。


 ヤツはさっきと同様、六本の剣の手数を活かして攻撃してくる。


「ふっ!! やぁっ!!」


 こちらも同じく妖刀でしばらく流していたが、途中で攻撃の違和感に気づいた。


(六本の剣の陣形フォーメーションがさっきと違う!! これは……!?)


「クハハ!! 捕らえたぞ!!」


 笑うヴァルフレッド。すでに俺を『術中にハメた』事を確信したような笑み。


「アヤカ殿!?」「囲まれたッス……!?」


 遠くから聞こえる、フィオナさんとラビスさんの声。


 そう、今……俺はヴァルフレッドの燃える剣によって包囲されていた。剣と剣の間には炎が縄のように展開し、『ここから逃がさない』という意志が込められているようだった。


(……なるほど、そう来たか)


 ヤツは剣の手数で俺の気をそらしながら、この陣形になるようにコントロールしながら戦っていたワケだ。まるで獲物を追い立てる猟犬りょうけんのように。


 そして、ヴァルフレッドは包囲した剣に膨大な魔力を与えながら叫ぶ。


「クハハ……終わりだ!! 我が方陣より脱出する方法はない!! そのまま身動きできぬまま、【憤怒ふんぬ】の業火にかれよ──【インフェルノ・オブ・ジ・エンド】!!」 


 その瞬間、包囲の中へ激しい炎が逆巻さかまく。


 それも今まで見せてきた炎魔法よりもさらに威力が超越していた。おそらく、範囲を制限したからだろう。


 中央に捕らえられている俺に向けて、炎が竜巻のような軌道を描きながら迫ってくる!! 


「アヤカちゃん!?」


 ホール内に響くティーシャの叫び声。完全に絶望したような声音。それもそのはず。


 剣の中の炎が消えた後には──。文字通り塵一つ残さない攻撃。


 それを見たヴァルフレッドも、勝利の高笑いと共に力強く叫んでいた。


「クハハハ!! あっけないな!! 実にあっけない!! ”天霧あまぎりアヤカ”とやら……しょせんはその程度であったか!!」


「──ん~~? ちょっと勝手に終わらせないでもらえますか?」 

 

「な……に……!?」


 後ろへゆっくりと振り向くヴァルフレッド。


 驚愕きょうがくに見開かれたヤツの視線の先には──俺が立っていた。まるで夢でも見ているかのような表情でヤツは言う。


「バカな!? ありえない……!!」


「だから、言ったじゃないですか? ”切り札”があるって?」


「──ふざけるなっ!!」


 激情に怒り狂ったのか、両手に炎を纏い攻撃してくるヴァルフレッド。その執念深い闘志に対し、俺は応えるように剣を握った。


(いいだろう。だったら、今度こそ目の前で見せてやる。俺の”切り札”を──!!)


 そして、俺は全身に【酔剣】のパワーを込めてその”新技”を発動する。


「──はっ!!」


 それから、次の瞬間──ヴァルフレッドの拳は空振りした。何もない空間を。


……だと!?」


 攻撃を外した赤き悪魔は、焦ったように周囲へと視線を張り巡らせる。


「くそっ!? どこだ!?」


『──ここです』


「ぐあっ!?」 


 ヴァルフレッドへ妖刀による斬撃をあびせる。一撃食らったヤツは、またしても俺の姿を探す。


 だが、それも無駄だった。なぜなら俺は


 今、俺は視界が白黒モノクロに見えており、


 そして、この技によって消えている間は、こちらから一方的に攻撃できる状態となる。

 たとえるなら、まるで"幽霊"になったようなものか。


 やがて、俺は妖刀に力を込めてその新たなる技の名を唱えた。


「【酔剣すいけん】──"散華さんか"の刀技とうぎ・【刹月華せつげつか】!!」


「う、うぐぁぁあああああああああああああああああ!?!?!?」


 『無』の空間から繰り出される、神速の斬撃。


 時間にして、たった五秒。それでも敵を倒すには──充分な時間だった。


「く……は……!?」


 無数の斬撃を喰らい、ガクリと膝をつくヴァルフレッド。


 ヤツは身体中から黒い魔力を吹き出しながら、それを認めないかのように呆然と俺を見上げていた。


「な、なぜだ……!? なぜ、我が負ける……!? こんな女などに!?」


「なぜ? そんなコトはどうでもいいです」


 俺は妖刀をさやへと納めて、決然とした眼差しで告げた。


「あなたは地上への侵攻を企てて、たくさんの人から魔力を奪った。なにより……ティーシャの心を踏みにじった。そして、今──んです。たったそれだけの話ですよ」


「お、おのれ……!!」


 ……その後、ヴァルフレッドは最後まで俺を憎むような表情を見せたまま、燃え尽きた灰のように黒い魔力となって消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る