第88話 奇襲に備える

12月20日(水)2:24分。


元グリミーの大森さんが到着した。


大沢は熟睡していた。登場テーマであるバック音が聞こえて来た。


草加部は休憩室を出た。それに気付いて大沢も起きた。草加部は荷降ろしホームに向かって歩いて行った。


観音扉を開けて運転席に向かう大森さんが見えた。


ゆっくりと接車された。ちょっと曲がった。動揺が感じられた。歩いている後ろ姿からもぎこちなさを感じていた。


草加部がバーを外していると大沢君が来た。


二人で荷降ろしを始めた。大森さんも来た。


草加部が、「お疲れさまです」と声を掛けると小さく頭を下げた。頷く程度に。


「昨日の朝、戻りが早かったんですよ。」と草加部は探りを入れた。


「ん~どうなんでしょうね。荷物が多いからじゃないですかね。」


この言葉にかすかに大沢が反応した。


「なるほど。そういうことですか。お疲れさまです。」と草加部は無難にこなしコの字に台車を引っ張り仕分けに入った。


大森さんの荷降ろしはいつも通りの感じだった。大森さん自身、何かに巻き込まれないように立ち回ってるようにも見えた。


いつも通り進んだ。特に変わりはなかった。


3:19分。


荷降ろしが終わったようだ。


「今日はそんなに早く来ないからって言ってましたから」

と、わざわざ大森さんが言いに来てくれた。


「はい、分かりました。」


草加部は逆に怪しく思う。人間不信だからだろうか?深読みしすぎか?


”荷物が多いから。”


”今日はそんなに早くないから。”


”いや、怪しいでしょ?”


草加部は奇襲に備えることにした。


「大沢君、昨日と同じようにバラの仕分けは連続になってもいいから。とりあえず、次の便に備えよう。」


「はい、分かりました。」


二人は台車の整理、パレット物の片づけをして、2班の荷物も直に降ろして、あとはバラの荷物を仕分けするだけの状態にした。4台。


「情報収集だ。データの確認を頼む。中沢さんが出発してどれくらい残っているかが知りたい。」


「あと、一服しよう。」

「はい、そうですね。」

「大沢君、ゴリラだから。」

「はい」


草加部は休憩室に戻りタバコを持って喫煙所に言った。タバコを吸わない大沢は水分を補給してデータの検索を始めた。


草加部はタバコを吸いながら、どう攻めてくるのかを模索していた。


あっという間に吸い終わり休憩室に戻った。


「草加部さん、まだ出てないです。残りがいつもくらいですね。」


草加部の頭の中で、


”荷物が多いから。”


”そんなに早く来ないから。”


の言葉がぐるぐると回っていた。


繋がった。


”今日の奇襲は、中沢さんをいつもより遅くして、その後の便を早めて集中させる。”


草加部は自分のスマホをチェックする。佐藤からのメールはない。


「あっ、出ました」

「データに反映されたか。何時に出てる。」


「3時48分です。おそらく数字からすると超満車でバラとパレットも結構積んでると思います。」


「そうすると、戻りは4時30分頃。そして昨日だと5時過ぎには2台同時に戻った。」


「3台重なるな」


「そういうことですか?」


「おそらく中沢さんの荷降ろしが終わる前に戻ってくるぞ。満車で。そして中沢さんの荷物は二人がかりで降ろされる。」


「大沢君、とりあえず仕分けを終わらせて、可能な限り台車を空けよう。やれることはやる。」


「はい、分かりました。」


二人は黙々と作業をこなしていた。大沢君は顔が強張っていた。


気のせいだろうか。


いつもより、車どおりがあるように見える。しかも濃い色のや商用車っぽいやつが。


気にしていられなかった。精一杯、台車から荷物を降ろして整理して台車を空ける作業をした。


ーつづくー

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