第87話 これがソシオパスか
そして夜になった。
12月19日(火)19:42分。
今村と草加部と大沢が顔を合わせていた。
大沢は疲れが取れていない様子だった。無理もない。草加部も疲れていた。
草加部から朝の話しをした。
その話しの後に、
「それで、伊藤さんと沢寺さんには話して頂けましたか。」
「はい、しておきましたよ。言われてみれば知っていたような感じにも思えます。」
「趣旨的には理解してくれているのでしょうか。」
「ん~、は~い分かりましたという感じでしたが。」
「なるほど、でも素晴らしいことじゃないですか?」
「んっ、何がですか?」
「だって、早く荷物が到着するし、早く帰れる。しかも残業規制厳格化に向けて、うちはもう解決したのではありませんか?」
「ん~、たぶん時間は収まるはずですけど。」
「大型ドライバーはもう言い訳できませんよね。12月の一番の繁忙期にこんなに早く戻って来れるわけですから。平月にできないわけがない。」
「・・・そうですね。そういうことですかね。」
「夜間作業員が6時であがると言ったら、じゃあ俺たちもとなったのではありませんか。これは夜間作業員の影響力ですよ。今村所長、舐めないで下いよ。」
今村はにやけた。大沢も疲れてる表情でにやけた。
「大沢君、疲れてるみたいだね。」と今村は気遣った。
「はい、あの奇襲はなしですよ。こちらとしても流れというのがあるわけですから。」
草加部も言った。
「事前に早く戻るようにするとかの連絡とか相談があるならまだしも、自分らの言うことを聞かないと困らせるぞという風にも見えますよね。」
「ん~極端ですよね。」
「大型ドライバーどうしの連携がないと今朝のようにはならないと思いますよ。」
「これがソシオパスなんですよ」と大沢が言った。
草加部は、
「あまりひどいと、従業員が行ったものでも”刑法の業務妨害”に該当することもあるようですからね。」
「早く帰って来て何が悪いと言われたら。」
「事前に言われれば準備ができるんですよ。台車だけじゃなくシフトも。嫌がらせじゃないにしても仕事の仕方に問題ありませんか。困らせたいんですよ。」
そして草加部は続けた。
「意図的なら威力業務妨害ですよ。立場を利用しています。普通に早く戻ってくるなら分かりますが、どうして連なる必要があるのか?同じ時間に出発する必要があるのか交代で早く戻るようにするとか、考えれば分かるのではありませんか、集中して戻ったらどうなるか。これが意図的なら業務妨害ですよ。グリミーは偽計業務妨害、嵯峨は侮辱罪、村上も侮辱罪。グリミーは名誉棄損罪もかもしれません。どれも刑法ですよ。」
と草加部は言い笑った。今村も笑った。大沢君も笑った。
草加部が、
「私は基本、人間不信ですから。」
「勘弁してくださいよ。私も今は疑心暗鬼状態ですよ。」
「こうやって欺瞞攻撃で皆に影響が出てるんですよ。」
「そうじゃないことを願います。」
「そうですね。」「はい。」と大沢も言った。
「それじゃあ、あがります。」
「はい、お疲れさまでした。」
「お疲れさまです。」
ーーーーーーーーーー
弐零弐肆の佐藤はこの会話を聞いていた。
”意図的なら威力業務妨害”
”偽計業務妨害”
佐藤の右の眉毛がピクっと反応した。少し考えて電話を手にした。
ーーーーーーーーーーー
今村は、事務所のいらない電気を消してあがった。
草加部と大沢は疲れながらもいつも通りの作業をこなした。
そして日付が変わり、12月20日(水)00:02分。
北日本便の中沢が立ち寄った。草加部と大沢は、いつも通り荷降ろしを手伝い、作業をこなした。大沢君が事務所に走り、運行指示書に判子を押して持ってきてくれた。少しでも早く出発できるように草加部が教え込んだ。
「おーありがとう」と中沢。どことなくよそよそしい。
「はい、お疲れさまです」と大沢は中沢に手渡した。
草加部は見逃さなかた。
「中沢さん、昨日の朝、皆さん早かったんですよ。」
中沢の目が泳いだ。
「荷物が多いから早いんだよ」と目を合わせずに運転席に向かった。
「でも、素晴らしいことじゃりませんか」と草加部が言ったら、中沢が草加部を見た。
「だって荷物は早く来るは早く帰れるは、来年からの残業時間の厳正化は問題なさそうですね」と運行管理補助者の観点から草加部は言った。
中沢の目がさらに泳ぎ、よそよそしく運転席に向かった。
草加部と大沢は仕分けに入った。
「なあ、荷物が多いと早く戻れるの?」
「意味わかんないです。」
「多いなら積み込みに時間がかかって遅くなるんじゃないの?」
「分かりません。」
「俺も分からない。」
仕分けが終わった。
「休もう」
「そうですね」
ーつづくー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます