第85話 奇襲を受ける

そして日付が変わり12月19日(火)4:25分


草加部と大沢は北日本便の中沢の荷物を対応していた。


草加部はちょっとしたところに気づく。


”いつもと違う。”


と思い、大沢君の表情を見る。強張っている。


”なんで中沢さんが?”


”中沢さん、あなたはどっち側だ?”


荷物の降ろし方が違うのだ。意図的に混ぜたかのようにぐちゃぐちゃで規則性が全くない降ろし方。仕分けが全くはかどらない。


”一つ一つやって行くしかない。”


そんな状況の中で、大型ドライバーの鎌田が戻ってきた。荷物は積んでこなかったらしい。いつものところに駐車して、すぐに北日本便の中沢の手伝いに入った。二人で降ろされるとスピードが違う。


”もしかしてやられたか?”


「大沢君。楽しんでるか?こういう時は楽しまなきゃダメなんだよ。」


大沢はハニカミながら、


「え、まあ、なんとか楽しんでましたよ。」


荷降ろしされた台車はどんどん溜まって行った。二人で降ろされているとは言え、それでも荷降ろしのペースが早い。


”意図的だ。”


草加部に勘が働いた。


”外れだったらそれでもいい。”


「大沢君!データを見て来てくれ。関東便と上越便が集約店を出ていないかと、集約店の今の残荷数が知りたい。」


「はい。」と大沢は走って行った。


その時、北日本便の中沢の白髪頭のリーゼントが草加部の方を向いた。草加部の動きに気づいたのだ。


荷物はガンガン降ろされて行った。


ダイエットで体が軽くなった草加部は本気を出して仕分けに取り組んだ。


ガンガン荷物は降ろされ、中沢と鎌田はパレットを降ろし始めた。バラの荷物が載った台車で溢れている構内に、ところ狭しとパレットが無造作に置かれて行った。


大沢君が走ってきた。


「関東便出てます。残荷はいつもより少ない300でした。」

「300?」

「奇襲だ!奇襲をかけられた!」


と言いながら草加部は空になった台車を荷降ろしスペースに戻しに行った。その時、外の門に佐藤さんが見えた。


”佐藤さん?”


中沢と鎌田は気づいていなかった。


佐藤は、草加部に電話というジェスチャーをした。右手で握るように耳に当てた。


草加部は右手を上げ返事をして休憩室に走り自分のスマホを見た。ショートメールが入っていた。


『4:30分。集約店チームから連絡あり、関東便と上越便が出た。』


草加部は、急いで構内に戻り大沢に指示を出した。


「大沢君。荷物が載った台車をここの番線に全部逃がしてくれ。俺はパレットを片付ける。」


大沢は大急ぎで台車を逃がした。草加部も本気でフォークを操作した。


中沢は荷降ろしが終わりトラックを移動し始めた。


鎌田は事務所に入り見物をしていた。


「大沢君、5:10分に2台同時に入る。とにかくスペースを開けろ。」


「はい。」


草加部はパレット物の片づけを終わらせ仕分けに戻った。大沢も仕分けに戻った。


二人は黙々と仕分けを続けた。


「あとはとりあえず仕分けだけしてればいいから。連続で仕分けをする。それだけだ。考えるな。」


「分かりました。」


仕分けスピードは速かった。細かいことなんか気にしてられない。


5:05分


降ろされた荷物が載った台車は3台まで減った。ということはこれか来る2台が荷降ろししても台車は間に合うか間に合わないかというギリギリのところだ。何とかなるだろう。


「大沢君、仕分けと一服とどっちが大事だ。」


大沢は即答した。「一服です。」


2人は一服しに行った。


あっという間に一服し終わり仕分けに戻った。


鎌田はそそくさと帰って行った。


中沢も、どことなくよそよそしい感じで草加部を気にしながら帰った。


草加部は中沢のよそよそしさを見て確信した。


”明らかに意図的だ。これがソシオパスか。”


”6時に上がらせない妨害工作?手伝わないなら嫌がらせするぞという強迫?”


「大沢君、もう少しで2台入ると思うけど冷静に考えてくれ。いつもより早く荷物が来るだけで7:30分頃までに終わればいい荷物なんだ。それと8時頃までは次の便は来ない。時間がたっぷりあるという考え方だ。」


「なるほど」

「それと我々は6時で帰れる。」

「おー」

「荷物も早く来る。素晴らしいことじゃないか。」


ーつづくー

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