第84話 グリミー7号に結界を張る
12月18日(月)17:05分
これから構内は集荷された荷物が集中して殺伐としてくる時間帯だ。集荷されてきた荷物が荷降ろしされ、それを荷降ろしされた荷物の仕分け作業。その仕分けされた荷物を大型ドライバーは積み込む。集荷された荷物の荷降ろしから仕分けまでは配達ドライバーと構内作業員が共同で行う。班ごとに差が出る時間帯でもある。上手く連携が取れている班もあれば、自分のだけやって知らんぷりする配達ドライバーもいて、構内作業員に押し付ける輩も出てくる。
細かいことを考えていられない時間だ。
大型ドライバーも、これから自分が走るコースと立ち寄り先を頭に描き、積む順番を決めていく。荷物の形もあるし一つ一つの重さも違う。それを組み立てていく。この組み立てはドライバーで違う。その人のやり方があるのだ。積み込みについては手伝うと邪魔になると思う。
集荷された荷物の量を見て積みきれるように積む。技術だと思う。この目勘は素人では無理だ。
草加部もこれだけはできない。分からない。
今村は、こういうピークになる手前の少しの時間を利用して話そうと考えた。
グリミーこと東藤は、こういうピークになる手前の時間に帰る。
「あとは俺らの仕事じゃねえ」という感じで。
今村は、大型ドライバーのグリミー7号こと榊のところに向かった。グリミー榊はパワフルそうな体型で腕を組みながら、荷物を見て積み方を組み立てていた。髪は相変わらず真っ黒に染まっていた。
「榊さん」と今村が声を掛けた。
グリミー榊は、今村の方を見て、組んでいた腕を降ろした。
「はい。お疲れ様です。」
集中していた時の口調で、呼ばれたから返事をしただけの感じだった。
「明日から構内作業員を完全交代制にします。それで夜勤は日勤がくる6時であげるようにしますから」
「大丈夫なんですか?」
「6時からの頭数に変わりはありませんから問題ありません。気にしなくて大丈夫です。」
榊のトラックの横につけていた中沢にも話しが聞こえたらしく参加した。
「夜勤を6時であげんの?」
「はい、完全交代制にします。働き方改革は全員のものですし、夜間作業員の労働時間が長いんですよ。」
「頭数が変わらないなら大丈夫だろうね。」
榊は淡々とした口調に聞こえるように意識した感じで、「分かりました。」とだけ言い、作業に戻った。
今村は、同じように大型ドライバーの仲下に伝えに行った。仲下は黙って従うタイプなので何も言わず、「は~い。分かりました。」で終わった。
そして、今村も発送業務を始めた。
荷降ろし、仕分け、積み込みスキャン等。何でもこなす。そういう人だ。
そして、18時38分。
全ての大型トラックが出発した。この出発時間が30分遅れると、その30分が後ろにズレ込む。高速道路で出せるスピードは決まっているので、もう挽回できない。行先に到着するのも30分遅くなる。
この時間帯だけは集中する時間なので何ともならない。細かいことを考えずにやるだけだ。
本当はもう少し早く出発させたい。暮れの繁忙期で荷物の量がピークのわりには早い出発だと思う。
そして19:42分。
今村は草加部と大沢のところに行き、榊と仲下に伝えたことを話した。
「本当にありがとうございます。」
「これで、うまく行けばいいんですけど。」
「反応はどうでしたか?」
「淡々と分かりました~って感じでした。」
「夜間作業員の残業時間のことは言って頂けたのでしょうか。」
「言いました。」
「働き方改革は大型ドライバーだけのものではありませんからね。これで、線引きは完了ですね。」
「そうですね。明日、伊藤さんと沢寺さんに話しますから。」
「分かりました。でも、もうすでに話しが伝わってるかもしれませんよ。」
「可能性はありますね。」
「はい。本当にありがとうございました。」
「じゃあ、あがります。」
「はい、お疲れさまでした。」
今村は事務所のいらない電気を消してあがった。
「なあ、大沢君、これで結界は張れた。でも相手はソシオパスだから、愚痴という呪文を使って、惑わすようなことを言ってくるかもしれないけど、惑わされたら結果は解けるからな。」
「はい、僕はゴリラ作戦で行きますよ。」
「
「はい。そうです。」
「厳しい世の中には必要なもので、自然と作られてきたんだろうね。御呪いってそういうもんなのかもね。」
ーつづくー
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