第62話 呪術使い誕生

カイは今までのことを思いおこしていた。


グリミーこと東藤は何がしたいんだ?


1号の嵯峨は?

2号の村上は?

5号の沢木は?

6号の伊藤は?

7号の榊は?


カイが直接関わるのはこのくらいだ。

結局のところ、何をどうして欲しいのか言われたことがない。


言っていることが愚痴に近いような気もする。

その愚痴を利用して構内作業員を利用しようとする。


愚痴は構わないんだが・・・・


どれもこれも構内作業員に言っても仕方がないことばかり。


これを何年も繰り返してきた。


こないだ草加部さんが言っていたのろいに似てないか?


愚痴が呪文じゅもんということか?

愚痴を言われるとやらなきゃいけない感じになる。


やってもらえる呪文。


なぜ愚痴を言う?

やってもらいたいから。


期待してということか?

期待をして愚痴を言う。


なるほど。


度が越えた愚痴と度が越えた期待。


これがのろいの正体か。


グリミー達の期待通りにならないと?

意図したようにならないわけだから面白くない。ということは不満に感じる。


イラつく。


狡猾だからグリミー民族な訳で、愚痴を聞き入れられないと被害者であるかのように振る舞う。


「ひでえよなー」は呪文じゅもんかも?




周りに風評を広め作業員を悪者に仕立てる。

やらなきゃいけない雰囲気を作る。


雰囲気ができれば強気に出る。


正義かのように。


人は正当性があると認識してしまうと強気に出れる。


もしかして、ハラスメントってこんな感じで生まれてくるのか?


ここまではいい。


この呪いのろは返せるか?


作業員に言っても仕方ないだろ。

期待しないで。

これはハラスメントだよ。

度が越えた期待はしないで。

作業員の仕事内容に口出さないで。


・・・・・ん~ 行き詰まる。


・・・干渉しないで


干渉・・・んっ、なんとなく短い言葉で呪文じゅもんっぽい?


本来の意味は?


カイはスマホで検索するために休憩室に行った。


検索する。


干渉とは、

・自分以外の人や物事に関わって、口をはさんだり、自分の考えに従わせようとすること。


・(国際法上)ある国が、他の国の政治や外交問題に口をはさんだり、無理やり介入しようとすること。


・科学の分野で、光や音などの二つ以上の同じ種類の波が重なって、互いに強め合ったり弱め合ったりする現象。


「干渉する」とは、「他人の事情に立ち入る」「口出しをする」「割り入る」という意味である。


と、なっていた。


カイはこれを見て、

これは呪い返しに使えると思った。


カイは構内に戻ろうとした。


グリミーが休憩室に入ってきた。カイの様子をずっと見ていたのだ。


グリミーは、仕事中に休憩室でスマホをいじっているカイを注意するのは正義だと考えた。


「おー!!、カイ!仕事中に何やってんだ!!!!」


グリミーは朝礼でうまく行かなった腹いせもあり、事務所まで響き渡るように大声で叫んだ。


金髪でモデルのような体型のカイは、


「干渉しないで」

と、グリミーに手の平を向けながら手を上げ、冷静に静かに言った。


「・・・」

グリミーは何も言えなくなった。


事務員たちもガラス越しに覗いていたが、それを聞いてすぐに業務に戻った。


何もなかったかのように・・・


カイは休憩室を出た。

グリミーだけが休憩室に残された。たたずんでいる。


”この言葉って呪い返しだけじゃないな”


”もしかして結界を張れる?”


カイには元々そういう才能があるのだろう。


呪術使いカイの誕生だ。


カイは何もなかったかのように作業を始めた。


”これが線引き?” と、ふと思った。


グリミー民族の世論が傾き始め数々の呪縛も解けた。1号の嵯峨、2号の村上、グリミーこと東藤には朝礼で呪い返しがされた。


改革の骨格である、

自分の仕事は自分でやる。その上での助け合い。

役割分担の明確化(線引き)。

コミュニケーションは必要だけど、自分のいいように仕向けるのは違うと思う。


もしかすると、これまで誰にもできなかった改革ができるかもしれない。グリミーも自分のやり方でマウントを取ろうとしてできなかったのに。


グリミーの気持ちの整理が済んだのだろうか、休憩室から出てきた。休憩室にいる間は事務所の人も相手にしなかったようだ。


両手を力いっぱい真直ぐに伸ばし、少しだけ上げて、手を振らないで歩いてきた。理由は分からないがこういう歩き方をする時がある。そして、ただうろうろ歩いて、忙しい、大変と大騒ぎする。


これがグリミーこと東藤だ。


なんというか承認欲求が強く、歩く承認欲求という感じだ。今までの言動や行動との矛盾は関係なく、その時、一瞬でも承認欲求が満たされればそれでいい。


その頃、工作員の綿貫は佐藤へ報告をしていた。


ーつづくー


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