第61話 弐零弐肆が動く②

2023年3月16日(木)朝7時58分


今村は頭を整理していた。


今村は頷き、

「よしっ、やるか!」と席を立ち、

「朝礼やるぞ」と事務員に告げ構内に出た。主任がその後に続き構内に出た。


今村は大きな声で、

「緊急だ、集まってくれ!」


構内にいた配達ドライバーと作業員が今村の方を向き、各々が今村の方に向かった。


キーキー

ウキーウキーウキッキー

ウホウホ、ウホッ


全員が輪になるように集まった。


「おはようございます」

「おはようございます」

「それでは緊急で朝礼を行います」


全員が今村の方を見る。内容は察しがついてる感じだ。


「昨日、トラブルがあったようです。関係者からは話しを聞いてます。ここで再度確認しておきます。パレットの組み換え等の配達の段取りは集配者の仕事です。自分の仕事を押しつけるように仕向けて、それができてないと仕事しろとか、仕事してねえくせにとかってなんですか?誰か教えてくれませんか?」


今村は睨み付けた。


「自分の仕事は自分でやれ!」


みんなは頷いた。


「次に、嵯峨さんに聞きたいのですが、こんなんじゃ、ダメだから俺がやると大声で宣言しているということですが?」


嵯峨は黙って下を向いた。

キー


「黙ってたら分かりません。」今村が追求する。

「キー、口物を揃えるとか、積む順番に合わせて置くとか・・・キー」


今村はこのまま言い終わるのを待った。

「とか、何ですか?」

「・・・・」


配達ドライバーの一人が手を挙げた。工作員の綿貫だった。周りの配達ドライバーはそれに気づいた。


今村は綿貫の方を見て、

「どうぞ」と促す。


「すいません。恐縮です。私は入社してまだ浅く、いい機会ですので皆さんにお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」


「はい、どうぞ」


周りは綿貫を見た。


「所長からあった話しの類いのものが、毎日聞こえまして前職ではあり得ないことだったものですからお聞きします。」


周りはざわめき出した。キー、ウキッキー、ウホッ。


「大型ドライバーが口物を揃えて持って来ていなくて、次の便にまたがって到着しているのが現状ですから、揃わないのは当然ではありませんか?それが夜勤のせいですか?」


ごもっともだ。誰も何も言えない。


綿貫が続けた。


「見ていますと、バラバラに降りてきている口物を作業員は可能な限り揃えてくれてます。夜勤だけを集中攻撃するのはおかしくありませんか?」


さらに続けた。


「嵯峨さんが構内作業員をやっていた頃は、これを揃えられていたということでしょうか。」


今村はこの状況を見守った。嵯峨は顔を赤くして下を向いたままだ。


グリミーが口を開いた。


「ちょっとよろしいでしょうか。キー」

いかにも最後はまとめるのは俺だと言わんばかりに手を挙げた。


「どうぞ」今村が促す。


「今、お話しがあったように、荷物は揃った状態ではなく、バラバラに次の便にまたがって来ています。可能な限り揃えてますが、無いものは揃えられないんです。分かって頂けないでしょうか。」


決まった!と鼻高々だ。


綿貫がすかさず、

「東藤さんはいつも自分の時は一人でやっていたと仰っていましたが、特別なやり方があるんですか?」


「・・・」


ない。あるわけがない。全てのホームの荷物を口毎に揃えて、パレットの組み換えもすることなんて不可能だ。荷物が来てないのにできるわけがない。


今村はグリミーに促した。


「質問されてますが」

「・・・」


周りはざわざわしている。

キー

ウキッキー

ウホッ

言ってることが違うじゃないか。


今村はグリミーの反応を確認して、時間がもったいないと思い、


「綿貫さん、次に行ってよろしいですか?」

「はい、すいません。」


と、綿貫は頭を下げ、周りにも下げた。


今村は、

「嵯峨さん、皆さんに宣言した以上、やるなら勝手にやって下さい。」


冷徹に言った。


嵯峨は今村を見た。


「・・・」


周りは驚いた。


今村は続けた。

「これで、夜勤を嫌がらせする理由はないよな。ついでだから、積み込む順番に合わせて置くのは無理だろ。毎日の荷物を見て判断するのは作業員ではなく配達するドライバーだ。その人によって違うと毎日言ってるのはドライバーじゃないか?それを作業員が分かるわけがありません。」


嵯峨はギクッと反応し何も言えなかった。


カイは黙って聞いていた。

グリミーは綿貫を睨んでいた。


今村は次を急いだ。

「次に誤仕分けについて、人がやるからゼロは無理だ。これってそこまでの問題か?」


今村はグリミーを見て、


「東藤さんどうですか?」


「キッ」グリミーはドキッとした。


「えーーと、キー誤仕分けについては勘弁してもらえませんかね~、いくつかは出るんですよねキー」


周りは頷いて聞いていた。グリミー2号の存在感はないに等しかった。


「東藤さんが日頃から言っていることと、所長が言っていることって真逆なんですね。これじゃあ作業員の人は大変ですよね。」


綿貫が疑問を投げ掛けた。


周りはざわざわと、でも頷いて聞いていた。

ウキッキー

キイー

ウホッ

グリミーは綿貫を睨み付けている。


今村はグリミー2号の村上に振った。


「村上さんはどうですか?」

「キーどうって?しょうがないですよね。」


「1班の仕分け台車は2台なんですよね。他のホームと同じように1台車にまとめれば誤仕分けも減ると思いますがいかがですか?どういうわけか、誤仕分けは1班が一番多いみたいですが。」


「・・・・」


「いつでも改善できますので」


「・・・・」


「改善が必要な時は言って下さい」


今村は東藤に振る。


「東藤さん、どうですか?」

「いえ、特にありません。」


朝礼が長引いてしまった。

配達ドライバーは時間に追われている。


「はい、以上で緊急の朝礼を終わります」


配達ドライバーは自分の仕事に戻った。


カイは一人で喫煙所にいた。タバコは吸わないが自販機があるのでエナジードリンクを飲んでいた。


カイは、この人達に“期待”しても無理だろと考えていた。


怒鳴り声が聞こえた。


「おい、生意気なんだよ!作業員のこと分かってんのか!」


グリミーだ。綿貫に恥をかかされキレていた。


“これは、もちろん計算だ。”

綿貫は弐零弐肆の中でも優秀な工作員。


「はっはい、申し訳ありませんでした。なかなかこういう機会がなかったもんですから。」


構内は騒然とした。今村も事務所から走ってきた。


「どうした?何があった!」

「どうもこうも、朝礼でカッコつけやがってや~~」

「はい、本当に申し訳ありませんでした」


「俺は、おめえに使われてんじゃねえよ!」


“来た~、これを待っていた”


「こんなのクビにしろ!いらねえよ!今すぐ解雇だ!」


と、今村に向かって叫んだ。


「あなたは、誰に使われて、こんなことやってんですか?」


「えっ?」


綿貫は申し訳なさそうに立っていた。


“ミッション終了”


今村は繰り返した。


「東藤さん、あなたは、誰に使われて、こんなことやってんですか?」


「社長だ!」


「では、社長の指示でハラスメントを繰り返してるんですね。」


「・・・」


他の配達ドライバーは気にしながら作業をしていた。

カイも気になり見ていた。


“この内容、朝礼の内容。草加部さんのメールの内容と一緒だ。”


今村は再度念を押した。


「社長に電話して聞いてみますよ」


「・・・」


「よろしいですね」


グリミーは顔を赤くして気をつけの姿勢になっていた。


今村は、このくらいでいいだろうと思い、


「今度、この言葉使ったら許しませんよ」


と言い、綿貫に、


「大丈夫ですか?何かあったら言って下さい」

「はい、ありがとうございます。本当に申し訳ありませんでした」


と、綿貫は深く頭を下げた。


そして、グリミーにも、

「申し訳ありませんでした」と、深く頭を下げ、


無事、ミッションを終わらせた。


“これで世論は傾いた。”


カイは、この傾いた雰囲気を感じとり、もしかしたら、本当に変わるかも知れないと思った。


グリミーは周りに、あの野郎とか言っているが、グリミーへの視線は冷めているように感じる。


ーつづくー

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