第60話 弐零弐肆が動く。
日付が変わり、
2023年3月16日(木)深夜 1:11分
大沢は熟睡していた。疲れがたまってんだと思う。草加部も15分くらいは寝れた。少しでも歩こうと思い構内に出た。
3月とはいえ夜間は冷える。
構内をひたすら行ったり来たりして歩いていた。
荷降ろしホーム越しに営業所の門に人影が見えた。
“ん?”
公安の佐藤だった。手を振っている。草加部も右手を上げ、佐藤の方へ行った。
なんとなく大沢に見られてないかを気にしながら、草加部は営業所の門を出て歩道に出た。少しだけ営業所から離れるように佐藤に促し、佐藤はそれに従い草加部について行った。
公園の前。
「草加部さんどうも、ご無沙汰してました」
「お久しぶりです」
「いろいろ大変みたいですね」
「そうなんですよ」
「今日は草加部さんに話しとこうと思いまして」
「はい」
「今日、緊急で朝礼されますよね。今村所長が感じてるようにグリミー民族の世論は割れてきてると思います」
草加部は、佐藤が把握している前提で話した。
「どう思いますか?一気に行けないかと思ってるんですが」
「工作員を使いましょう」
佐藤は草加部をまっすぐ見ながら言った。
「あ~、綿貫さんですか。使うってどういうふうにですか」
「それはお任せ下さい」
佐藤は続けた。
「草加部さんは頭がいい。グリミー1号の嵯峨の、こんなんじゃダメだから俺がやると言ってる件、いけると思いますよ。あとは誤仕分けの件、1班の台車を一つにする。まさに妙策です。グリミー1号と2号は悪質だと思います。」
佐藤は少し間を開けた。
「・・・・草加部さん、世の中には、こういう嫌がらせで自殺してる方がいるんですよ」
草加部は、自殺という言葉に反応した。
「・・・はい、本当にキツイですよ。追い込まれてます」
佐藤は頷き、草加部を見ながら、
「弐零弐肆は一気に今の構図を引っくり返せるんじゃないかと見ています。それで工作員に指示が出ました」
さらに続けた。
「弐零弐肆はあいつらを許しません」
「はい、ありがとうございます」
佐藤は続けた。
「この構図が引っくり返れば、グリミーこと東藤は孤立しませんか?」
「孤立ですか?」
「我々もちゃんと仕事してますから安心して下さい。カイさんは改革派ですよ。上手に立ち回ってます。草加部さんからのメールによる根回しが効いてます。これも一応お伝えしておきます。」
「ありがとうございます」
「では、これで失礼します。」
そう言って佐藤は歩き出した。草加部は目で追いかけながら営業所に戻った。佐藤が歩いている方に車が停まっていた。黒か紺色のセダン。おそらく佐藤が使っている車だろう。
草加部は喫煙所に行きタバコに火をつけ深く吸った。
“グリミーを孤立化って言ってたな”
草加部にはピンと来なかった。
“どういう構図だ?”
考える。
“グリミー民族の世論が割れていて・・、所長が朝礼で話し、その場でどうするか聞くでしょ、そして綿貫さんが何かしら動いて、うまく行けば一気に引っくり返せる。それが、グリミーの孤立化に?どういうこと?”
“グリミーの風評の流布はデマで夜勤を貶めるために広めたものというのを分かってもらうということ?”
“そういうこと?”
“グリミー民族は少なかれ、グリミーこと東藤が言ってることに乗っかている。信用してるかはわからないが、以前からいる年配者に言われたという既成事実があれば理由になった。例えば暇だとか、暇なんだからできる、俺はやっていたとか。それらはデマだと分かってもらえれば、信用を失う。そういうことか?”
“ほ~、なかなかだね。一石二鳥か、なるほどね”
タバコを消して休憩室に戻った。
大沢君は起きてパソコンの前に座っていた。
草加部が大沢に、
「もう、出てる?」と聞いた。
「いや、まだデータには反映してないみたいです」
もうそろそろ集約店を出るころで、少し時間差があるが積んだ量が分かるシステムになっている。
「草加部さんは元気ですよね。今まで歩いてたんですか?」
“歩いていたと思ってんだ”
「そうかな」
「元気ですよ。僕なんか疲れてダメですよ。」
「これはやる気なんだよ。気合いが足りないんじゃないの」
「そうなんですか」
「そうだよ、気合いだよ。大沢君さ~ これじゃあ世界の平和を守れないよ。」
「僕はグリミーだけでたくさんですよ。」
「元気があれば何でもできる!っていうのは本当だと思うよ。名言だよ。」
「元気出すためには寝なきゃダメですよ。」
“やっぱり天才だ。なんとなく寝なきゃと思っちゃうよな~”
「今のはおまじない?それとも名言?」
「分かんないですよ。」
ーつづくー
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