第59話 奇策?妙策?②

「実は、もう一つあるんですけど・・・・。」

草加部が申し訳なさそうに言った。

今村と大沢が草加部を見た。

”次回の方がいいのだろうか?”草加部はちょっと反省した。

今村が、「どうぞ。」と聞く意思表示をしてくれた。


「すいません。もう一つはグリミーのことです。」


2人は黙って草加部を見る。


「グリミーの常套句に、おめえに使われてんじゃねえというのがあるのは承知していると思います。これがおかしくしてるんだと思うんですよ。」


今村は頷きながら、「うん。」


「なんというか何も言えなくなると思いませんか?」

「そうですね。」


大沢も頷く。


「これって、相手が言えないようにするための口封じだと思うんです。例えば普通って何?、その人によって違うみたいな。」


「そうですね。言われてみれば。」


「そこで、冷静に思い返してみてください。グリミーの今までの言動、態度を。グリミーは、今は嘱託社員です。正社員は私と大沢です。嘱託だからとかは本来考えたくはありませんよ、今まで貢献されてきている先輩に対して。」


今村が頭を回転させ、浮かんだものを言い始めた。


「ん~例えば、カケルさんへの迫害、鈴木さんへの風評の流布、草加部さんや大沢君へのハラスメントや風評の流布、集約店での問題な態度、こないだの貨物列車のコンテナが遅れてきた時の件、事務所に怒鳴り込む、忙しいと八つ当たりする、でも、そこまでの仕事はしていない。こういう感じのものですか?」


「はい、ちょっと考えただけでもこれだけ羅列られつすることが出来るんですよ。」


今村は草加部が何を言いたいのかわからない。

「どういうことですか?」


大沢も草加部をじっと見る。


草加部は二人を見て言った。


「あなたは、誰に使われて、こんなことしてるんですか?」


「おっ」と二人から自然と出た。


「こういうことではありませんか?これを追及するんです。誰に使われてここまでのことをしてきたのか。」


大沢は今度こそと思い、

「奇策?妙策?」


今村も感心している。「凄いなー」


「どうですか?」

「行けると思う。ただ、これは朝礼ではいいですよね。」

「それはお任せします。ただ、トラブルが起きた後だから言いやすいということもあると思いますので早い方がいいと思います。」

「分かりました。全部で4つですね。」

「はい。すいません、長くなってしまいました。」

「いえ、こちらこそ苦労をさせてしまいまして、じゃあ、あがりますから。」

「はい、よろしくお願いします。」

「お疲れ様です。」


今村は事務所に入り、いらない電気を消してあがった。


草加部と大沢は、いつもの作業に戻った。

時間をかけてしまったが仕方がない。


草加部と大沢は、空台車の整理、仕分けをするための段取り、パレット物の整理を手分けしてこなした。


「大沢君、一服しよう。チョコレート食べるか?」

「はい、頂きます。」


二人は休憩室に入った。


草加部は自分のリュックの中から、一個ずつ包まれた小さなチョコレートを出して大沢君にあげた。


「ありがとうございます。」

「頑張ってるからだからね。」と笑顔で言った。


草加部はタバコを吸うために喫煙所へ向かった。

今日は時間がかかってしまった。もうすぐ、発送とグリミー大森が来る。


タバコに火を着けた。


”もう、うんざりだ。きりがない。”


草加部は疲れていた。肉体的にも精神的にも、周りの景色を見る余裕がなかった。公園から声は聞こえてきた。星も月も見える。だけど草加部には余裕がなかった。


タバコを吸い終わるとすぐにトイレ掃除に向かった。日勤はトイレ掃除をやってくれない、グリミーが便所掃除に来てんじゃねえと・・・・・。


”疲れるからもういい。”


トイレ掃除を始めた。


トイレ掃除をしているとトラックが入ってくる音が聞こえた。

”この音は発送だろう” 同じトラックでも音が微妙に変わってくる。


大沢君はゴミ集めを始めていた。


”疲れた。少しほっとこう。”


北日本の所属のドライバーだった。

本来は全てドライバーの仕事だ。

草加部達が掃除しているのを見て、当たり前に自分でスキャンをしながら作業を始めた。


”そうだ、本来はこうなんだ。”


草加部が、トイレ掃除が終わり、発送のドライバーに挨拶した。


「お疲れ様です。」

「お疲れ様です。」

「手を洗ったらすぐに行きますから~」

「は~い。でも大丈夫ですから~」


草加部は石鹸で入念に手を洗い発送の手伝いに行った。


「草加部さん、なんかありました。疲れてません。」

「もう、疲れてますよ~」

「何かあったんですか?」と、東北訛りが目立った言い方で聞かれた。


草加部は一通り話した。


「そういうのって、本部に相談窓口あるんですよ。」

「ないって言われてました。そうですよね、今時、義務付けられてますよね。」

「そういう人って、うちにもいましたけど、結局居づらくなって淘汰されて行きましたよ。一昔前は結構あった話です。」

「淘汰された?」

「うちらの場合は、本部の窓口の連絡先は常に壁に張り出されてるんですけど、北日本を仕切っている部長が窓口になってくれて気軽に連絡できてたんですね。連絡するとちょうどいい時間帯に睨みを利かしに来てくれたり、話しをしてくれたりしてくれて、そういう人は今はいなくなりました。」

「張り出されている?」

「うん、普通に貼ってあるよ。」

「そうなんですか?」

「持ってきてあげようか?」

「はい!お願いできますか。」

「んだば、今度の時に持ってきてあげるよ。」

「すいません。助かります。」


いつの間にかいた大沢君に草加部が話しかけた。

「そういうのがあるんだってよ。」

「ラーメン屋でバイトしていた時にも貼ってありましたよ。」

「そうだよな。ここがおかしいんだよな。」


本当にありがたい話しだった。希望が持てる。


グリミー大森のトラックが入ってきた。


あれ以来、何もなかったように接している。大森は草加部に対して敬語で話しかけてくるようになっていた。でも、草加部は先輩として接していた。




ーつづくー

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