第58話 奇策?妙策?
その日の夜。19:46分。
秘密会議の時間。
所長の今村、草加部、大沢が輪になるように向き合っていた。
カイさんも報告を挙げていたようだった。
今村はいつもになく緊迫感を漂わせていた。
「大丈夫ですか?」今村が気遣った。
「仕事してねえくせにと言われて大丈夫なわけありませんから。」
大沢も同調した。
今村はカイから報告を貰い、その後に、安部が仕事が落ち着いた頃に話しをしたとのことだった。
「それで?」
「安部さんはちょっとピントがズレている人で正直に言うとめんどくさかったです。」
「どういう?」草加部は怒っている。
「ん~なんて言っていいか、話しの解釈の勘違いでちょっとズレるんじゃなく、かなり外れた、その先に行っちゃうんですよ。」
「バカなんですか?」
「もしかすると。だから、通常の仕事の話しをしても噛み合わないことが多いんです。」
「班長を降ろしましょう。」
大沢も驚く。
「えっ、それで班長なんですか?」
「そうだ。」
草加部は投げやりになった。
「話しになりませんね。」
・・・・。
今村は少し考えてから言った。
「ただ、今朝のことで世論が傾いた感じがします。グリミー民族の世論です。1号と2号に感化されてきた人達が、自分達は正義なのかと。グリミー本人の東藤さんが草加部さんが正しいと言ってきましたから。」
「グリミーが、どの口で?呆れる。」
草加部は閃いた。
「仮にそうだとすればチャンスかもしれませんよ。」
「そうですよね。」
大沢にはちょっと難しかった。
草加部が少し考え、
「だとしたら、ここは一気に行けませんか?」
今村と大沢は黙って聞きに入った。
「明日、緊急の朝礼を開いてください。トラブルが起きたわけですから。」
今村が頷く。
草加部は続けた。
「そして、明確に伝えましょう。パレットの組み換えはドライバーの業務です。その他の配達の段取りも明確にドライバーの仕事だと。自分の仕事を押し付けようとして仕事をしていないようなことは言うな。」
今村は、草加部が言い終わるまで聞く態度を取った。
大沢は、頷きながら聞いていた。
「構内作業員は配達ドライバーや大型ドライバーの部下じゃありません!その日その時の状況で積み込む順番が違うし、シフトで担当者も代わる中で一人ひとりの思考に合わせた作業は不可能です。
”その人によって違う。” 配達ドライバー自らが言っている言葉です。その通りなんですよ。積む順番を判断するのはドライバーです。だから、構内作業員は判断しちゃいけないんです。それを求めないで欲しい。
それと、1号嵯峨が言っている、”こんなんじゃダメだから俺がやる。”
1号は俺はやっていた、簡単にできると豪語しています。この対抗策は簡単です。
”是非、お願いします。” で、構わないのではありません?」
大沢は、「えっ?作業員になるんですか?」
「1号については、皆の前で勝手に大声で宣言しています。もっと言えば、勝手に構内作業員の仕事の内容と範囲を決めて称賛されたいがために言っています。是非、やって頂いて構わないのではありませんか。自分で勝手に決めて宣言しているわけですから自己責任で、作業の時間帯も自分で組立てさせ配達業務に支障が出ないように責任をもってやってもらいましょう。」
今村は笑った。
大沢もつられて笑う。
草加部は続けた。
「ここからが重要です。」と前置きをした。
2人は草加部を見る。
「そうすることで、嫌がらせをする理由がなくなるんです。」
”そうだ!
1号の仕事にすることで理由がなくなる。もう押しつけることはできない。”
今村が口を開いた。
「奇策。 いや妙策だ!」
大沢は「本当に凄いですよ。」
草加部は、「誤仕分けについてもあります。」と続けた。
「時間は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
草加部が”コの字”に二人を誘導し説明を始めた。
「誤仕分けが多いのはどういうわけか知りませんが1班なんです。そして、うるさく騒いでいるのが1班の嵯峨と村上です。他の班を見ていると誤仕分けがないわけではありませんが、そこまでないんですよ。
で、他の班は複数人で1台の仕分け台車なんです。これをホームに構内作業員が運んで置いておくとドライバーが自分で自分の担当荷物を見て段取りする流れなんです。
この営業所では私が入社した時からこういう流れなんです。」
草加部は1班の台車を指差した。
「だけど、1班の仕分け台車を見てください。どういうわけか2台あるんです。さらに言うと、3か所に分けなきゃならないんです。ひとり1台という感じになってるんですよ。直に置くのも含めるとですけどね。」
と、”コの字”の裏側を指差す。
コの字の裏側もホームなのだ。かなりせまく制限されてしまっているホーム。だから荷物は床に直接置く方法を取っている。
「今まで見ていると、この3か所の中で間違えていると誤仕分け扱いされて荷物を叩きつけてるんですね。他の班に混じったのを誤仕分けと言ってるんではないんですよ。」
「なるほど、それで、」と、今村は話しの流れの理解を示す。
「もっと言うと、コの字の裏側のホームの床にある荷物が隣のホームにはみ出していると誤仕分けだと騒ぎだします。」
「なんだ、それ?」今村はここまでは把握できていなかった。
大沢は強く頷いた。
「なので、1班も他の班と同じように複数人に1台ということで、これとこの台車を一緒にすることで誤仕分けの8割は減るんじゃないかと思うんです。ただ、コの字の裏のこのホームは狭すぎるので、これは営業所として今まで通りの対応は続けるべきだと思います。」
「なるほど、そういうカラクリだったんですか。」
「奇策?妙策?」と、大沢はこの言葉を言ってみたかったのだろう。
「所長、これを朝礼で皆に聞いてもらって、その場で1号と2号にどうするか決めてもらうのはいかがですか?」
今村は考えている。
「・・・・・。ん~トラブルの後ですからね。そこまでやるのもありかもしれませんね。」
「世論が傾き始めているならチャンスです。」
「そうですね。わかりました。そうしましょう。そうすると3つですね。話さなきゃならないのは。」
「はい、そうですね。」
大沢も、何度も頷いていた。
”いい!いける!”
「実は、もう一つあるんですけど・・・・。」
草加部が申し訳なさそうに言った。
今村と大沢が草加部を見た。
”次回の方がいいのだろうか?”草加部はちょっと反省した。
今村が、「どうぞ。」と聞く意思表示をしてくれた。
ーつづくー
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