第115話 再び拠点リンツにて

 一旦、ここを出てリンツへと戻る事にした。

 イワセへもきちんと話をしておく必要がある。

 ノアの民の受け入れの成否は、この段階で決まると言っても良いから。


 リンツへはヌエさんとアフラさんも同行している。

 共に地上での行動経験と人間の暮らしの一端を見た事があるから、随行する分には申し分ないだろうとの事だ。

 キューキさんはあの場所を離れるわけには行かないので、実質ノアの民の代表代行、と言う事だね。

 で、リンツに戻ったんだけど……


 「おかえりなさい。」

 「あれ?ヒバリお姉様!?」

 「え?マスミお姉様は?」

 「あ、ちょっとあの子は野暮用なのよ。だから私が臨時でここに、ね。」

 「や、野暮用って……」


 玄関で出迎えてくれたのはヒバリお姉様だった。


 「それで、そちらの方が?」

 「はい。ヌエさんとアフラさんです。」

 『ヌ、ヌエ、と言います……』

 『アフラ、です……』

 「ヒバリと申します。遠い所ご苦労様でしたね、さあ、中に入ってくださいな。まずはゆっくりと寛いでください。」


 人間が暮らす住居に入るのに少し戸惑いを見せるヌエさんとアフラさん。

 生活様式など全てが違うから、勝手がわからないんだと思う。

 失礼があってはいけない、と思っているんだろうけど、ことここに関していえばそれは気にする必要はないんだ。

 そう二人に告げると、少し安堵の表情になった。

 もっとも、二人はヒバリお姉様の底知れない力に驚いていたみたいだ。

 これは後で聞いた事だけどね。


 ところで


 「なぁ、マスミの野暮用ってアレだろ?」

 「そのようだな。ま、良いんじゃないか?」

 「えーと、もしかしてエルウッドさんと?」

 「他にねぇだろ、野暮用なんてよ。」

 「へぇー……」


 「なぁディーナ姉、あの人って?」

 「私達の一番上のお姉様よ。」

 「キレーな人だな。でもさ、何か、おっかねぇ……」

 「ほッほッ。お前達でもわかるのか。ま、本当に怖いお人じゃからな。礼儀正しくしとけ。」


 ま、まぁ、確かに怖い人ではあるんだけど、それ、ヒバリお姉様に聞こえないようにしといてね。

 

 あのトンネルを出た時に、使い魔の通信でお母様に報告をしていたんだ。

 ひとまず説明をしたいと言って、一旦リンツへ戻るって。

 そこからヌエさんとアフラさんを伴なってイワセへと戻ろうと思っていたんだ。

 けど……


 「ト、トキワお兄様!?」

 「お兄様まで、何で?」

 「あはは、話は概ね理解したし、この方たちに慣れない長旅をしてもらうのも気が引けて、ね。」

 「で、でも、どうやってこんなに早く?」

 「ああ、ネージュが頑張ってくれたんだよ。」

 「ネージュが?」

 「アルチナ母さんに空間移動の能力を教わってさ、魔法で行使できるようになったんだよ。ま、今回はその実験も兼ねてなんだけどな。」

 「凄い……」

 「それよりも、だ。」

 『『 ?? 』』

 「話は伺っています。ヌエさん、そしてアフラさん。俺、いえ、私はイワセ王国のトキワ王と申します。」

 『お、王様!』

 「我がイワセ王国、いえ、イワセ温泉郷はあなた達ノアの方々を快く受け入れます。」

 『え?』

 『しかし、まだ我らの事は何も……』

 「良いのです。ディーナ、そしてシャルルの二人が決めた事なのですから。それは王の代理としての意志でもあるのですよ。それに」

 「困っている方々を放っておけませんしね。」


 (そういや、だな。)

 (ああ、忘れていた、というか気にしてなかったが。)

 (そう言えば私達って、立場上はイワセ王国の姫だったね……)

 (すっかり忘却の彼方だったけど、世間から見ればその通りだった……)


 そんなこそこそ話をする私達に、トキワお兄様は笑ってウインクをした。


 「さて、小難しい話はこれで終わりです。ヌエさん、アフラさん、ゆっくりして行ってください。それと。」

 『は、はい。』

 「あなた達の所へは私が直接伺います。首長のキューキ様、でしたね。その方との話もしたいと考えていますので。」

 『人間の王自ら、ですか?』

 『そ、そんなご足労をかける訳には!』

 「あははは。良いんです。というか性分なんですよ。お気になさらずに。ただ、その時は案内をお願いしますね。」

 『あ……は、はい!』


 うーんと、ねぇ。

 トキワお兄様がああやって目の前で爽やかな笑顔でそんな事を言うと、相手はちょっと戸惑うのよねー。

 トキワお兄様とヒバリお姉様、二人は魅了の能力は欠片もないはずのに、ああやって相手を戸惑わせて魅了してしまうんだ。

 それって、サクラお母様も同じだったけど、もしかするとお父様もそうだったのかな……

 

 と、とにかく、数日はここでゆっくりしてもらって、この世界の文化や風習、生活様式、言葉や色々を理解してもらう事にした。

 文明の度合いとしてはノアの民の方が進んでいるみたいなので、地上での生活に慣れる為の知識が優先だろう、との事だ。


 それから3日間、ヌエさんとアフラさんはここに滞在し色々と知識を得たみたい。

 そして明日、トキワお兄様がキューキ様との会談に向かう事になった。


 「私も付いていきたいけど、どうしよう。」

 「ディーナとシャルルはここで待機、だな。今の所モンスターの出現が殆どないけど、油断はできないしね。」

 「そう、ですよね。」

 「ただ、ルナさんは同行してもらいたいかな。」

 「そうなのか?」

 「まぁ、色々とね。フォローもしてもらいたいんだよ。いいかな?」

 「なるほどな。ああ、いいよ。ウリエル、こっちは任せたぞ。」

 「ああ、任せろよ。アズラもルシファーも、タカもヒロも居るしな。」

 「ワシは一先ずトキワ殿達を送ろう。空間転移であっという間じゃ。」

 「ルシファーさんありがとう。お願いします。」


 トキワお兄様、ルナ様、そしてヌエさんとアフラさんの4人は、ルシファー様の転移魔法であの洞窟内へと向かった。

 ルシファー様の転移は、一度行ったことがある場所なら地中だろうと水中だろうと、障壁は無いんだって。


 「キューキさん達、願い通りの結果になるといいなぁ。」

 「そうよね。というか、そうなる様に私達も頑張らないとね。」

 「そういやさ、アフラさんって母親でさ、子供が居たんだってよ。」

 「なんつーかさ、あんだけ強いのに包容力っていうか、優しい感じがしたな、キレイだし。」

 「え?何?タカとヒロはアフラさんのような女性が好みなの?」

 「へ?いや、違うよ?」

 「は?」

 「オレらにはそういう好みとかは無いんだよ。」

 「へ?」

 「俺、女の人ならみんな好きだ。」

 「「 …… 」」


 ど、どうやらこの子達は、そういう所も勇者の子孫と言う事なのかな……

 それを聞いた私とシャルルはお父様を思い浮かべたっていうのは内緒、にしておこう、うん。

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