第114話 異星人はユニバリアン

 案内されたのはキューキさんの住居だそうだ。

 とても堅い、セメントというかコンクリート?とかいうもので造られた箱型の家だ。

 電気も普通に使えるみたいで、それはあの乗り物に発電機があるからなんだって。


 『狭い所ですまないが、ここは我の私室だ。寛いでくれ。』

 「すみません、お邪魔します。」

 「驚いたな、まるで普通の人間と同じ暮らしぶりじゃないか……」

 「もっとも、遥か以前の、ですけどね。」

 「今の人間世界よりも進んでるってことかよ、すげぇな。」

 「なるほどのう、明らかに文明が違い過ぎるの。」


 キューキさんの従者という人が、私達に飲み物を出してくれた。

 炭酸の透明な飲み物、って、これってサイダー?


 『すまない。ここの水はあなた達には害になるかも知れないので、安全で少し加工した飲み物というとこれしかないんだ。』

 「いいえ!そんな事はないです、というか、ありがとうございます!」


 少し飲んでみると……

 サイダーよりもちょっと優しい感じで甘みも程よく、喉越しも刺激が少なくて飲みやすい。

 

 「これは……美味いな……」

 「これ、アレだろ?ラムネじゃねぇのか?」

 「ホント、美味しい……」

 『く、口に合ったかな……』

 「はい、美味しいです!」

 「うめー!オレこんなん初めてだよ!」

 「あれだな、クセがないペッパー医師みたいだな!」

 「あ、それ言い得て妙かも。」


 好評のようで、キューキさんの顔も少し綻ぶ。

 何というか、笑顔はとってもキュートだ。


 『さて、ゆっくりしてもらっている所なんなんだが、我としてはあなた達とは争う理由がない。

 正直な所、あなた達はどう思っているのかを聞きたいんだ。』

 「キューキさん、正直に言います。私達は争う事を決して望んだりしません。」

 「ですので、私達はあなた方もこの星に住まう仲間として、共に暮らして行きたいと思いました。」


 「この二人はな、この星で暮らすものの平和と安全を何よりも優先したいと、こうした活動をしているんだよ。」

 『我らが、この星に住まう仲間……いや、しかし、我らは別の星から来た……』

 「キューキさん、過去の経緯や世界の違いは、私達は問題としていません。だって……」

 「私達でさえ、過去の本当の所は解らないのですもの。」

 「それにな、私に限って言えば別世界から来た異世界人とも言える。人間からすれば異星人よりも遠い存在だと言えような。」

 『……ディーナ、シャルル……あなた達は、いえ、あなた達のような者にもっと早く出会えていれば……』

 「キューキさん……」

 『いや、済まない。あなた達の考え、我らに対する認識は理解した。ありがとう。しかし……』


 キューキさんは少しためらいがちに告げる。


 『我らはここで暮らし続ける事に問題はない。ただ、このままだと我らは遠からず滅びゆくというのも事実だ。

 我らユニバリアンとしては、地上へと出て、種の存続という使命を果たさなければならないという現実もある。』

 「そ、それって……」

 『いや、何も地上へ侵攻して、とかいう話ではなく、血は薄まるにしても絶やさないようにしないといけない。われらノアの民、ユニバリアンの存続はもうそれしかないんだ。』

 「あー、あのな、キューキ」

 「そうだな。遺伝子的な問題はあるだろうが、別にお前達が地上へ出たからと言って何も問題はないぞ?」

 『え?』

 「別の星の住民を受け入れる、というのはここでは既に実績もあるし、その受け皿も健在だ。かくいう私もそうだしな。」

 『な、なんと!』

 「今のこの星の住民はな、敵対する存在でなければそれは全て同胞と認識するんだ。お前達がここに来た時とは違うんだよ。」

 『で、では、我らは今まで……』

 「あー、接点がなかった、と言う点で、その辺の事情は理解できなかったってこったな、うん。」

 「それは少し残念な事だったと思う。」

 『そ、そうなのか……』

 「そ、それなら!」


 そう。

 今、真相が判明した時点で、それも問題というか、障害にはならない。

 このトンネルに対する疑念が晴れた、というか詳細が掴めたんだ。

 実際の所、キューキさん達が世界の脅威になり得る可能性は残るにせよ、それは今後交流をしていく事で詳らかになると思う。

 となると。


 「私は、キューキさん達をイワセで受け入れる事を提案します。」

 「ディーナお前……あーまぁ、そうなるわなー。」

 『受け入れる、とは?』

 「失礼ですけれど、今のキューキさんやアフラさんを見る限り、外観上の種族の壁は無いと言えます。」

 「そうなると、ここの人達が地上へと出て暮らして行く事にそれ程の障害はないと思います。」

 「ただ、この星の、この星で暮らす事への経験や知識という面での懸念は残ります。であれば。」

 「事情を理解した上でここの人達が慣れるまで暮らせる国は、イワセが一番安全で安心だと思うんです。」

 『我らが、人間や魔族と共に暮らせるように、か……』

 

 「そうだな、地上へ、と言う事ならそれがベストだろう。私としても、その案を推す。」

 「ただよ、それは本当に地上でも暮らしてぇって、キューキ達の民が賛同すれば、の話だけどな。」

 「そう、ですね。私達としては推奨はしますけど、無理に誘う事はできません。」

 「キューキさんやアフラさん、その他の人達の意見を尊重したいです。」

 『あなた達はなんという……あ、ありがとう、本当に、ありがとう……』


 キューキさんの琥珀色の瞳から、奇麗な雫が一筋零れた。


 私やシャルルの行動理由はモンスターの脅威の排除とコアの再封印だ。

 でも、その先にある人々の安全と平和な暮らしが最終目的でもあるんだ。

 それはもはや存在が明らかとなったキューキさん達異星人も、この星の住民だから含まれているんだ。

 きっと、お父様が生きていれば同じ事を言ったと思う。

 イワセの人達、私の家族たちも、同じだとも思う。

 だって、このまま何もしないという理由は、欠片もないんだもの。


 そんなやり取りを見ているアズラ様とルシファー様。


 「のう、アズラよ。」

 「はい。やはりあの方の意志はきちんと受け継がれているのですね。」

 「ここの民に関してはもはや何の心配もなかろうな。あとはイワセの者達に任せておけば良いじゃろう。」

 「そうですね。しかし、本当にあの方は素敵な宝物を残していったのですね……」

 「これでワシは何の心配も気負いもなく、悪魔本来の姿に戻れるというモノじゃな。」

 「ふふ、ルシファーの本来の姿、ですか。その時は……」

 「もっとも、お前の方が先に、かも知れんがな。」

 「いずれにしても、その時はもうあの子達がこの星の未来を担うのですから心配はないでしょうね。ルナもウリエルも居ますし。」

 「そうじゃな。」


 そして、キューキさんは席を立ち、私達に告げた。


 『これから我らノアの民全員にあなた達を紹介する。

 その折に、これからの事を民に問おうと思う。その結果次第では、あなた達に苦労を掛けてしまうかも知れない。

 これだけは先に言っておこう。』

 「キューキさん。その心配はありません。」

 「苦労などとは思っていません。」

 『ありがとう。』


 外に出ると、ここに暮らす人が大勢広い場所に集まっていた。

 全員が集まったとの事だ。


 キューキさんが事の詳細を伝え、全員の意志を聞くと言った途端。

 全員がキューキさんの意志に賛同し歓喜の声を上げたんだ。

 ただ、ここに愛着のある住民もいるので、そうした所は今後の課題にもなるけれど。


 ともあれ、直ぐにでもイワセ温泉郷での受け入れ準備を進める事にしよう。

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