第110話 なぜか始まりそうな対抗試合

 熊みたいなモンスターらしきものの死骸をこれ以上検証しても、得られる情報はもうないように思う。

 ただ


 「少しだけ記憶が残っているな。吸い上げよう。」

 「だな。」

 「へ?」

 「ルナ様、ウリエル様、それって……」

 「ん?ああ、これもこのあいだから出来るようになったんだよ。」

 「へ、へぇー……」


 ルナ様とウリエル様は、あの変化によって未知の能力に開眼したみたいだ。

 とはいえ、“記憶を操作する”っていうのは以前にもやったと言ってたな、そういえば。

 “魅了”によって混乱した人の記憶をいじって元に戻したって言ってたし、それのアップグレード版なのかな?


 「なるほどな……」

 「何かわかったのですか?」

 「こりゃあよ、毛色は違うがまずモンスターで間違いない。でもな」

 「さっきのトラみたいなのと4本腕は、モンスターではない。」

 「何じゃそりゃ?というか、やはりモンスターとは別物なんじゃな?」

 「ああ、それが何かはわかんねぇけどな……」


 言ってみればこの熊みたいなのは新種のモンスターって事で確定、なのね。

 でも、あのトラみたいなのと4本腕は、モンスターじゃなければ何なんだろう?

 人間や魔族じゃない事は確実だけど。


 「なあ、ルナさん、ウリエルさん、どっちにしてもさ。」

 「うん、そうだな。オレ達は進むしかないんだろ?」

 「そうだな。ただ、少し編成は変えようか。」

 「そうですねぇ、私が殿に付きましょうか?」

 「アタイとアズラで、だな?」

 「先行は私とディーナ、そこにタカを加えよう。本体はシャルル、ヒロ、ルシファーだ。」

 「間隔も詰めた方がよさそうじゃの。」

 「10メートル取ろう。周囲の警戒観察よりも、襲撃への迎撃を優先するべきだな。」


 こうして私達は先へと進む。

 最初の分岐点からは、既に2キロくらいは潜行しているはずなんだけど。

 さっきの戦闘場所から先は、なぜか光があって明るいんだ。


 「ルナ様、これってヒカリゴケか何かなんでしょうか?」

 「どうやらその類のようだな。人工的な明かりではない気がする。」

 「ディーナ姉の精霊、だっけ?それの魔法じゃないのか?」

 「うん、今フェスタ―様は何もしてないって。」


 そのまま30分ほど歩いた所で、一際大きな空間に出た。

 面積は400平方メートル以上あるだろうか、球技場より広い感じだ。

 天井までの高さもかなりあるみたいだ。


 「こ、ここって?」

 「信じられんな……」

 「へー、洞窟ってこんなんなってんだ。」

 「あの先に続く洞窟もあるが、ひとまず全員合流しよう。」

 「はい。連絡します。」


 と、後続を待っている間に、いつの間にかあのトラみたいなのと4本腕、それにあれは……


 「人型アーマーだと?」

 「え?」

 「何だあれ、鉄の体なのか?」


 ルナ様は驚愕の表情を露にしている。

 人型アーマーって、かつてお父様がジーマで戦った個体の事かな。

 その人型アーマーは4体居る。

 前列にその人型アーマー、後列にトラみたいなのが。その間に4本腕。

 動かずにこちらをじっと見ている。

 何だろう、何かするつもりなのか、何もしないのか、判断が付かない。

 どのみち、私達は合流するしかないんだよね。

 後続を待つ間、私とタカが臨戦態勢で構えている。


 「何じゃ?あれは……」

 「人型が増えてる?」

 「何だアレ、体がヘンに光ってるんじゃ?」


 「おいおい、ありゃ人型のアーマーかよ?」

 「人型の、アーマー?」


 こちらは全員が揃った。

 双方そこから動く事もなく睨み合いとなりそうな予感。

 すると、4本腕の1体が前に進み出た。

 さっきと違い、剣は持っていない、みたいだけど……


 『あなた達は何故我らを襲うのか?』


 と、頭の中に声らしきものが響く。

 え?

 この4本腕が発してるの?


 『あなた達の強さは計り知れない、我らにとっては脅威でしかない。』

 「あ、あなたが話しているんですか?」


 思わず言ってしまったけど、通じるのかな?


 『そうだ。我らは我らの安寧を脅かす脅威に対して迎撃する役目がある。』

 「迎撃だと?」

 『我らの安全と平和を脅かす者よ、ここより先は行かせない。この者達があなた達を追い返す。』

 「ちょっと待て、こりゃサイボーグ、じゃねぇのか?」

 『サイボーグ、というのは知らない。それに教える必要もない。』

 「どう見たってあん時のアレだよな、確か“ラヴァ”だったか?」

 「ああ、外面は違うがな。とはいえ、ボディ構成も少し違うみたいだな。」

 『この者と、あなた達代表とで戦うのです。負けたら引き返せ。』


 なんだか妙だ。おかしい。

 安全と平和?

 私達が脅威?

 私達の代表と戦う?

 戦って、負けたら帰れって?

 私達を殺す事もせずに?


 ちょっと、相手の意図が良く解らない。

 というか、意思疎通できている時点で、想像の遥か斜め上を行っている。

 それに、私達を『敵』とは一言も言わず“脅威”と言った。

 モンスターなら、問答無用で殺しにかかってくるはずだし、敵対行動しかしない。

 でも、この個体達は、どうも私達こそが襲撃者であるような事を言っているんだ。

 そしてこの先に進ませないという強い意志も感じる。

 まるで何かを守っているかのように。


 「ルナ様、これはちょっと考えなくちゃいけないみたいですね。」

 「そうだな。アーマー云々はさておき、奴らの意図が分からん。」

 「なぁ、要するにあの4体と戦って勝ったら先に進めるって事だろ?」

 「タ、タカ、そうとも取れるけど……」

 「んなら、俺とヒロであれをやっつけるぜ。な、ヒロ。」

 「そだね。ここなら広いし頑丈そうだし、オレ達も力いっぱい暴れられるだろうし。」

 「あなた達2人だけで?」

 「てか、あの4体だけならオレらだけで充分じゃね?」

 「だな。」


 「あのアーマーもどきは相当な強さを秘めていそうですね。なら、今ここでタカとヒロは鍛錬の成果を確認しなさい。」

 「アズライール様?」

 「ほッほッほッ。まぁ、そうじゃな。行け。」

 「い、行けって……」


 「よっしゃ!そうと決まれば!」

 「暴れるぜ!」


 何というか、二人の気合というか、そんなのが一気に増大したような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る