第109話 ボスキャラってそれ、ゲームじゃないんだから

 モンスターもどきは前衛に熊みたいなのが4体、その後ろにトラみたいなのが3体、その後ろにさっきの4本腕人型が3体だ。

 完全に迎え撃つ体制を取っている。


 「ディーナ、右お願い!」

 「おっけー!」

 「ヒロ、俺はディーナ姉に付く。」

 「んじゃオレはシャルル姉だな。」


 熊みたいなモンスターもどきはさほど苦も無く対処できる。

 だけど、さっきよりも動きを小さくして一撃一撃に力を集中させていく。


 熊みたいなモンスター2体を始末し、もう2体に斬りかかろうとした時だった。

 トラみたいなモンスターが


 「え!?」

 「何だよアレ?」

 「うそ……」

 「あれって変身ってやつか?」


 私達の見ている前で、一瞬にしてトラみたいな姿から獣人型へと変化した。

 着用していた服みたいなものは、そのまま防具になっていたみたいだ。

 驚きながらも熊タイプの残りを始末し、元トラの3体と対峙する。

 相手は武器を構えて同じく様子をみている。

 相対してみると良く解る。

 熊タイプとは強さのレベルが段違いだ。

 後ろのアーマーもどきと同じくらいっていう感じではある。

 ただ、持っている剣って、あれは……


 「カタナ……だと?」

 「ルナ様、あれって。」

 「ああ、ジパングの特徴的な武器だ。フランが使っているのと似ているな。」

 「ありゃムサシが持っていたのと同じ“ニホントウ”みたいじゃの。」


 少し混乱する。

 そもそも、大前提としてモンスターが武器を持つ事自体考えられない事なんだ。

 そして、今気づいたんだけど。

 元トラからも、アーマーもどきからも、あの“瘴気”らしきものが感じられない。

 熊みたいなものからは嫌な気配は感じられるけど、あれらからは全く感じられないんだ。

 でも。


 「行くしかない、よね。シャルル!タカ!ヒロ!」

 「うん、行くよ!」

 「よっしゃ!」

 「やるぜ!」


 4人で元トラの1体へと向かった。

 不思議な事に、アーマーもどきの3体はそれを見ても動こうとしない。

 私とタカが左右から同時に横薙ぎに剣を振るう。

 と、元トラはカタナでヴァイパーを受け止め、タカの剣を小手で受けた。

 と、その瞬間。

 バン!という音と共にまばゆい光を発し、私とタカは弾かれた。

 というか、少し体が痛くて痺れる。

 タカは何が起こったのかもわからず、茫然としている。

 攻撃を受けた元トラは、防御の姿勢を崩さずにこちらを睨んだままだ。


 「ディーナ、大丈夫!?」

 「う、うん。これって、電撃なんじゃ……」


 恐らくは、放電か短絡に近い現象のような気がする。

 以前、お母様に教えてもらった電撃魔法と似ているんだ。

 でも、魔法とは少し違う気もする、んだけど。


 「タカ。大丈夫?行ける?」

 「ああ、大丈夫だよ。びっくりしたけどな。」


 態勢を戻して再び攻撃を仕掛ける。

 今度は突きだ。

 と、元トラは俊敏な動きで後ろに下がり、横からもう一体が襲ってくる。

 こっちは武器を持っていない、というか、両手そのものが、武器になってる?

 元トラの鉤爪のような武器を躱し、そっちはシャルルとヒロに任せる。

 見ると、残りの1体はルナ様とアズラ様とで戦っている。

 圧倒的な力の前に、元トラは攻めあぐねているみたいだけど、ルナ様達も決定打に至っていないみたいだ。


 数分間だろうか、長く感じたけど攻防を続けて再び両陣が間を空けて対峙する。

 元トラ3体は肩で息をしていて、少し疲れた様子を見せている。

 でも、こちらは殆ど疲労感はない、んだけど……

 あのカタナの元トラは攻撃が体に届く度に電流が流れてくるので少し痛みは残っている。

 そして、相変わらず4本腕の3体はじっとこちらの様子を伺っているだけだ。


 「うーん、ディーナ姉、あのトラだった奴も相当だけどさ。」

 「あの後ろの4本腕、なんで仕掛けてこないんだろうね?」

 「じっと見ているだけよね?」

 「あれか、アイツらがボスキャラなのか?」

 「ボスキャラってあんた……」


 そして、睨み合う事しばし、今度は元トラの方から仕掛けてくる。

 と、


 「ヒロ!シャル姉!」

 「ああ!」

 「うん!」

 「い、いかん。ディーナを狙い撃ちか!」

 「ルナ、行きますよ。」


 3体が3方向から私をピンポイントで狙ってきた。

 だけど


 「ふんッ!」

 「「「 !! 」」」


 1体のカタナを捌いた所でもう1体に蹴りを入れ、その反動を利用しもう1体の鉤爪に剣で斬り込み、足が地に着いた所でもう1体へ左腕で掌底を食らわせ、手から電撃魔法を放つ。

 ほぼ同時に3体へ反撃したところで、元トラたちは一旦離脱した。

 そこにシャルルとタカ、ヒロが割り込んできたので再度膠着状態になった。


 「ほ、ほう……」

 「ディーナ、やりますね……」


 (や、やばかったー!なんで私に集中?てか、ハンパない殺気を感じたんだけど!)

 (ディーナ、お前……)

 (フェスタ―様、こ、怖かったよー……)

 (そ、そうなのか……)


 私はかなり驚いてビビってた。

 無我夢中で相手したけど、自分でも何してたかはっきり覚えていないんだ。

 ただ、あの3体への攻撃は手ごたえはあった。

 とはいえ、相手はまだ無傷といっていい状態だけど。


 すると

 元トラ3体と4本腕3体は頷き合い、再び素早く奥へと引いて行った。

 

 「あ、また逃げた。」

 「ディーナ姉、どうするよ?」

 「ちょ、ちょっとまって。追うのは追うけど、検証したいんだよ。」

 「検証って?」

 「ねぇディーナ、コレ、モンスターじゃない気がしない?」

 「そうよね。」


 熊みたいなのの死骸を見ると、再生する様子もなく少し嫌な気が出ているけど、今までのモンスターとは明らかに違う。

 

 「普段のモンスターとは様子が全然ちがうな。」

 「ルナ様、これってアーマーとも違いますよね?」

 「ああ、断言できるが違う。というより、だ。」

 「あれってよ、なんつーかさ、今までにない生命体の様な気がすんだけどさ。」

 「トラが人型にって、魔族っぽい感じもしたし……」

 「でも、明らかに魔族とは違う感じだった……」

 「てかさ、あのトラから変化したのって、女だったよな?」

 「少しカワイイ感じだったぜ?」

 「お前ら……」


 と、ともかく、だ。

 謎は多い。

 でも、これで一つはっきりしたことがある。

 ここのモンスターは、モンスターじゃない。

 全く別の、未知の存在だと言う事が。

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