第91話 スウィッツランドは寒いのよ……


 万年雪を頂いている大きな山が遠目にみえる土地に来た。

 ロマリア連邦ではアルプス地区と呼んでいる土地だ。

 緯度的にはそれほど高くないのに気候は年間を通じて寒冷らしい。

 標高が高いっていうのもあるんだろうな。


 所々に大きなクレーターがあり、人はあまり近寄らないし住むには適さない土地だ、とはシャルルが教えてくれた。。

 というか……


 「寒いぃー……」

 「ちょ、ちょっと軽装過ぎたねーブルブル。」

 「そうか、お前達は気温に敏感だったな。」

 「敏感というか、普通に寒いです。ここってもう氷点下に近いんじゃ?」

 「ルナ様達は寒くないんですか?」

 「あー、アタイらはな、気温は気にならないんだよ。」

 「そうだな、少し冷えるが問題ない程度だな。ズズッ。」

 「ルナ様、鼻水……」

 「ぉお?身体は反応するんだな、ズルッ。」

 「「 …… 」」


 鈍感というより、精神力で我慢、なのかな?

 ウリエル様は別としてもルナ様は生身の体に近いからかなり寒そうな気がするけど。

 ともかく、ここって寒すぎる。


 「しょーがねぇな。ホレ、これ羽織っとけよ。」

 「これ?」

 「あ、ありがとうございます!」

 「すまんな。」


 ウリエル様はどこからか厚手のコートを取り出して渡してくれた。

 白い、とってもカワイイコートだった。

 でもこれ、どこから?


 「あー、そりゃアタイの魔力で造ったモンだ。あったけぇだろ?」


 こ、こういう事もできるのね。

 ウリエル様凄い。

 コートを羽織るととっても暖かい。

 しかも、動きやすくてこのまま戦闘もできそうだ。

 ひとまず寒さを凌げたところで、周囲を観察してみると。


 「で、モンスターの群れの合流地点としては、あの山の麓あたりですね。」

 「クレーターの淵の開けた所、かな?」

 「そうみたいだな。特に何も無い様な感じだが……」

 「もう少し近づいてみましょう。」


 合流地点と思われる所は、かなり広大な開けた平地だ。

 とはいえまだ前シーズンの雪が残っているみたいだし、人が住めるような環境じゃないし、一番近い街までかなり遠いし高低差がある。

 住むには適さない土地、なるほどと思った。

 それに、大きく深いクレーターだ。

 モンスターがここを目指す意味がわからない。


 クレーターの底には水が溜まっていて湖のようになっていて、その底はかなり深い、ちょっと歪な円形のクレーターだ。

 これがあのメテオインパクトの痕、なんだろうな。

 人の手が入りにくい場所だから、いまだに残っているんだと思う。


 クレーターの淵に沿って、平地を横切り山肌に近づいていく。

 ほぼほぼ雪の上を歩くので、歩きにくいったらないな。

 一歩ごとに足が雪に埋もれるんだ。

 外気温はかなり寒いのに段々と暑くなってきた。

 すると


 「ルナ様……」

 「ああ、わかるか。」

 「はい、これってやっぱり……」

 「どうも、その可能性が高い、か。」


 南米大陸のコアに近づいた時の、あのイヤな感覚がある。

 噂になっていた『新たなコア』の可能性が高いってことだ。

 イヤな感じはどこからか漂ってきているみたいだ。 

 そのイヤな感じを辿っていくと……


 「こ、これ……」

 「え?何、これってダンジョンってやつ?」

 「これはもしかして、アレか?」

 「ああ、トンネル、というかその連絡路だな。そういや昔この辺に世界最長の鉄道用のトンネルがあったな。」

 「この弱い瘴気みたいなイヤな感じは、ここから出ているみたいですね。」

 「てことは、コアがこの中に、って事?」

 「でも、あのモンスターの群れって、もしかしてここを目指していたんでしょうか?」

 「いや、モンスターがコアを目指す、というのは意味がわからん。」

 「です、よね。ここから出てくるというならわかりますけど……」

 「いずれにしても、だ。こりゃ中を調べねぇとな。」


 山肌に大きく口を開けている、トンネル。

 長いスロープを降りていくと、一際大きな空間に出た。

 中は広く、まっ茶色に錆びて所々が腐食している鉄道のレールが敷かれている。

 遥か昔に、ここに鉄道が走っていたみたいだ。

 もしかすると、いえ、絶対にお父様がここに召喚される前の時代の、いわゆる遺構だと思う。

 12,000年以上前のものなんだろうな。


 「中は真っ暗ですね。」

 「そうだな。照明は電気がないから点かないんだろう。もっとも、LEDでもなければ球は切れているだろうがな。」

 「でも、構造自体はそんなに崩壊していないようですね。」

 「保守もしていないのにな。コンクリのトンネルなんてそんなに持つモンなのか?」

 「……どうも、この空間は普通じゃないんだろう。そんな気がするな。」

 「ともかく、行けるだけ行ってみましょう。」


 静まり返った暗いトンネルを、私達は進んでいく。

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