第90話 目指せスウィッツランド!

 「ふう、何とかなったな。」

 「大きな被害がでなくて良かったです。」

 「そうよね。というか、これ各国の兵じゃ対処できないレベルだよね……」

 「ともかくよ、一旦引き上げようぜ。情報の精査と纏めもしないとな。」

 「そうだな。さ、帰ろうか。そういえば、リードの方はどうなった?」

 「あっちの群れ2つは全て殲滅されたようです。」

 「うーん、誰がやってくれたんだろう?」

 「リードとその分身体もよく見えなかったって言ってたよ。でも、3人くらいだったって。」

 「3人、だと?」


 うーん、この情報だとその3人は私達に匹敵するほどの力の持ち主ってことよね。

 とにかく、それも含めて一旦帰って精査しないとね。


 シャルルに乗ってリンツの拠点へと戻った。

 ほぼ緊急発進だったのでドアの施錠もせず、ダイニングは散らかったままだ。

 まずは後片付けからしないとね。

 と


 「誰だ!」

 「ちッ、空き巣か?」


 ルナ様とウリエル様も気づいたみたいだ。

 家の中に誰かが居る。

 ルナ様の呼びかけに、玄関から出てきたのは

 

 「もー、アンタ達不用心すぎるわよ。」

 「マスミお姉様!?」

 「え?なんで?」

 「お前か。」

 「なんでココに?ってか何時?」


 マスミお姉様だった。

 何でも、私のお母様から話を聞いて応援に来てくれたんだって。

 マスミお姉様はカスミお母様、というかコロルお母様の能力も受け継いでいるので、その能力も鍛錬で開花できたって。

 つまりイワセ温泉郷の木から、ここの木へと移動したって事よね。

 ある意味瞬間移動じゃないのそれ?


 ひとまず家に入って休むことにする。

 すると、ダイニングは綺麗に片づけられていて、冷たい飲み物まで用意されていた。

 マスミお姉様はこういう細かい気遣いが凄いんだ。


 「しかし、何でまたお前がここに来たんだ?」

 「うーんと、さっきも言った通りなんですけどね。応援というか補助、ですね。」

 「補助、ですか?」

 「今みたいに、アンタ達が急に出て行く場合が多くなるでしょ?

 そうなるとこの家は無人になっちゃうし、炊事洗濯とか家事も疎かになっちゃうしね。

 だから、そういう所をフォローする者が必要なのよ。」

 「まー、マスミはそういうトコ得意だもんな。でもよ、何でこの家の事わかったんだ?」

 「実はですね、マルグリット様から直接イワセに連絡があったんですよ。

 4人だけじゃ討伐に出ると他の事が何もできないだろうからって。マルグリット様も侍女を派遣するつもりだったそうだけどちょっといろいろ立て込んでいるらしくて。

 で、アタシが来て見ると、案の定そういう状態だったって訳です。」

 「マルグリットが、か。まぁ、ここはあいつの実家というのもあるが、それ以上に気配り、なんだろうな。」

 「でも、正直お姉様が来てくれて、ちょっと助かったって思うかな。ありがとう、お姉様。」

 「まぁ、アタシは戦闘じゃそんなに貢献できないからねー。」


 お母様達の扱きでみんな個々の戦闘能力は魔族をも軽く超える実力を得た。

 そういうマスミお姉様とて、今はヒエン様やキッカ様を大きく上回るんだ。

 でも、それですら今のモンスターには通用しない程、モンスターは強化、進化している。


 「てことでね、家事全般はアタシに任せてよ。料理の腕はヒバリ姉さん程じゃないけどさ。」

 「それは助かるな。私らも警戒に集中できるし、何よりこの二人は大食漢だからな。」

 「う……」

 「反論できない……」

 「あはは、まーそりゃいいとしてだ。マスミが来てくれたって事はアタイらは安心して出撃できるってもんだ。助かるぜ。」


 こうしてマスミお姉様はここに滞在してくれる事になった。

 これでウリエル様の言う通り、対モンスターに集中できるしホントに助かる。

 もちろん、まるっきり家事全般を押し付けるつもりはないし、何も無ければ逆に私達がやらないとね。

 

 「てことで、早速だがちょっと情報を整理しよう。」

 「そうですね。そういえば……」

 「どうしたのディーナ?」

 「北方の群れって、誰が対処してくれたんだろうって思って。」

 「それも含めての情報整理だな。」


 事実としてあれだけの数のモンスターが、ある一か所を目指して暴走していた。

 モンスターの出所、種類、暴走の目的、目標、と、疑問点は数多い。

 出所に関してはまだ謎な所が多く、とはいえコアが関係している事は間違いない。

 今回の事で唯一判明したのは、あの3つの大群が目指していた場所、だ。


 「あれらの進攻方向をそのまま延長すると、とある場所で合流するな。」

 「合流場所、というよりも目的地みたいな感じですよね。」

 「そこに何かがある、という事なんでしょうか?」

 「そう見て間違いねぇだろうな。でもよ、そこってアレだろ、人が住んでない土地だろ?」

 「ああ、一際大きな隕石が多く落ちた場所だな。遥か昔には永世中立国があった場所だ。」

 「確か、スイス、だったか。」

 「今はこの地方はスウィッツランドというらしいな。南側に街が点在するくらいの過疎地区だ。」

 「過疎地区?」

 「あ、そういえばここって万年雪があるくらい寒い高地でしたね。」

 「さすがシャルルは地理に詳しいな。」

 「でも、何があるんだろう。」


 とにかく、それを調べるのはそこに行くのが一番の近道だよね。

 調査だけならそれほど時間もかからないだろうし、シャルルならひとっ飛びだし。

 マスミお姉様が来てくれたお陰で、家の事は心配ないしね。


 「では明日、早速行ってみるか。」

 「「 はい。 」」

 「マスミ、すまないがこの家を頼んだぞ?」

 「任せておいてくださいよ。」


 となると、残る疑念は……



 ―――――



 「なんだったんだろな、あれ。」

 「あんないっぱいのモンスターって初めてじゃないか?」

 「なあ、じいちゃん。昔はあんなのが何度もあったのか?」

 「いや、過去に例はないな。それにな、南の方でも同時に起こっていたようじゃな。」

 「え?じゃあそっちも何とかしないといけないんじゃないか?」

 「ああ、そっちは大丈夫じゃ。別の奴らが何とかしたしの。」

 「それってこないだアズラさんが言ってた“でぃあまんてす”って連中か?」

 「そうじゃな。それにしてあ奴らもさらに強くなった様じゃの。」

 「そいつらってもう勇者みたいなモンじゃないのかな。」

 「もしかして俺達よりも強いのかな?」

 「あー、お前達と比べるのはいろいろ違うじゃろ。お前達より強い者は居らんしな。」

 「ふーん……」

 「ともあれ、じゃ。少し調べる必要はあるじゃろ。」

 「その人たちを?」

 「じいちゃんストーカーか?」

 「違うわバカ者。モンスターが目指していた場所をじゃ。」

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