第89話 これってスタンピードってやつ?

 翌朝、意外と目覚めが良かった。

 昨日脳と精神を酷使したはずだけど、やっぱり甘いものが効いてるんだろうか、頭痛は全く無くなっている。


 「おはよー。」

 「ディーナおはー……」

 「今日は私が朝食作るね。」

 「ありがと。ルナ様達は?」

 「わかんない。まだ寝てるのかな?」

 

 朝食を作っていると、ルナ様とウリエル様がダイニングに来た。


 「おはようございます。」

 「ああ、おはよう。気分はどうだ?」

 「全然大丈夫です。」

 「そうか、ならいい。」

 「んで、やっぱり夜の間は何もなしか?」

 「そうですね。特に異変はなかったそうです。」


 今までもそうだったけど、モンスターは夜に活動したという事実はない。

 どういう理由なのかはわからないけど、夜間に襲撃されたという話は昔からなかったみたいだ。

 お母様達の話だと、モンスターは夜目が利かないか、元が人間のソレだから基本昼行性なのではないか、だって。


 そんなこんなで朝食を摂る。

 少し軽めの朝食だ。


 「これが軽めだって?」

 「え?」

 「いや、何でもない……」


 ちょ、ちょっと量は多いかもしれない、かな…… 

 でも、私もシャルルもお腹空くしね、大丈夫よね、きっと。

 と、その時だった。


 《マスター大変だ!》

 「ベル?」

 「ん?どした?」

 「もしかしてベルから?」

 「はい。ベル、どうしたの?」

 《3方向から一か所に向かって、モンスターの大群が進攻してる!》

 「え!?」

 《一つの大群の進攻ルート上には街も都市もあるから、ここままだと!》

 「わかった!すぐに向かうね!」

 「よし、出撃だ。」

 「留守番はいねぇけど、しゃーないか。」

 「大丈夫だと思います。じゃぁ、変化しますね。」


 シャルルは外にでると龍の姿へと変わる。

 私とルナ様はシャルルに乗り、ウリエル様はワールドに入る。

 いつものスタイルだ。

 朝食の後片付けも後回しになっちゃうけど、仕方がないよね。

 ベルからの報告を受けて3分後、私達は大空を翔けていた。


 「ベル、状況はどう?」

 《まだ街までは距離があるけど、数が多いって。》

 「ちょっとそっちと同期するね。」


 人的被害を出しそうな群れを見ている使い魔に意識をシフトする。

 一直線に猛進するモンスターの群れ、その数は……


 「50体だって?」

 「それ以上いるみたい……」

 「てことはそれが3つ、単純に150体以上かよ。」

 「これはもしかして……」

 「“スタンピード”という現象ですか?」

 「そのようだな。しかし、なぜ?」


 スタンピードは動物の一種のパニック行動という面もある。

 追従する者の大半はその目的も明確に理解していない場合が多く、本能なのかあるいは集団心理というやつなんだろうか、つられて動きついていってしまうらしい。

 行動の理由を理解しているのはアジテーター、あるいはそれすら居ない場合もあるんだとか。

 そもそも、それは集団で行動する獣や動物が取る行動なんだけど……


 「とにかく優先はその街や都市に向かっている集団ね。」

 「オッケー、方向は?」

 「少し左!」

 「飛ばすよ!」


 それからものの10分程で、その群れを視認できた。

 わき目もふらずに突き進むモンスターの群れ。

 群れの先頭を行くのは獣型のモンスターに跨る獣人型のモンスターだ。

 おかしな行動だと思う。

 まるで騎兵隊の隊長のような振舞だ。

 と、考えるのは後だ。とにかく、この群れの進攻を止めるのが先だ。


 「行くよ!」

 「オッケー!」

 「アタイもやるぜ。」

 「私は撃ち漏らしを片づける。」


 空中でシャルルが人間形態に戻り、飛び降りるように私とルナ様、今回はウリエル様が群れに突入した。

 ウリエル様は剣を持っていないけど、素手で相手するんだろう。

 私は真っ先に先頭にいた先導者らしきモンスターに向かった。

 かなりの強敵だけど、さして抵抗する様子もなく2体揃って殲滅した。

 そのまま後続の群れに向かって一気に攻め挙げる。

 既に私もシャルルも覚醒状態だ。最後の一体を消すのに15分くらいで済んだ。


 「撃ち漏らしも消した。もうこの群れは壊滅したな。」

 「早速次の群れに向かわないと。龍になるよ。」

 「ちょ!ちょっと待って!」

 「どした?」

 「リードから連絡が!」

 《マスター、こっちにも群れが!》

 「北でも!?」

 《向かっている方向は同じみたい!でも数はそっち程じゃないけど、こっちも都市部が!》

 「くッ!間に合わないか!」

 「こっちも無視はできないし、今からピラトゥス母様に連絡しても間に合わない!」

 「とはいえ、できる事からやるしかねぇだろ。」

 《あ!ちょっと待って!》

 「どうしたの?」

 《こっちの群れ、誰かが攻撃してる!》

 「え?」

 《良く見えないけど、凄い勢いでモンスターを!》

 「よし、ならよく分からんがこっちはこっちに専念しよう。行くぞ!」

 「「 はい! 」」


 どういう事なんだろう?

 リードが放った使い魔の周囲に、イワセの討伐メンバーはいないはず。

 マリュー様かエイダム叔父様の軍勢なんだろうか。

 それにしてもそんな猛者っていなかった様な気もするけど……


 「リード、可能な限り情報を集めて纏めておいて。」

 《はーい。あ、もう終わって別の群れに向かったみたい。》

 「え?」

 「ねぇ、それって私達と同じくらい強い人達ってこと?」

 「どうなんだろう、遠くて良く見えない、でも。」

 「うん、こっちが先だね。」


 こうして私達は次の群れへと向かったんだ。


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